第101話「ダメ人間製造機コタツ」
僕は父様にお礼を言うのもそこそこに、執務室を飛び出した。
コタツが手に入るかもしれない。
そう思うと、自然と足が速くなる。
僕は村のヨナス商会へと急いだ。
◇
「ヨナスさーん、こんにちはー」
僕はヨナス商会の扉を開けた。
いつもの威勢のいい声を想像しながら、店の中へ声をかける。
しかし、カウンターからひょっこり顔を出したのは、ヨナスさんではなかった。
「いらっしゃいませ。まあ、メルヴィン様」
店番をしていたのは、ヨナスさんの奥さんのマルタさんだった。
「あ、マルタさん。こんにちは。えっと、ヨナスさんはいますか?」
「あいにく、主人は今、王都へ仕入れに出ておりますの。何かご用でしたか?」
「ヨナスさんに用事ってわけじゃないんだ。加熱石が欲しいんだけど置いてあったりしないかな?」
「加熱石ですか?はい。ございますよ」
「えっ!?あるの!」
「はい。鍛冶屋などの職人さん達が使用しますので、取り扱っております」
「やった!1つ売ってもらえるかな?」
「もちろん構いませんが、お安いものではありませんので……そのお値段が……」
「そこは大丈夫!父様に許可は貰ってるから、代金は屋敷につけておいて!」
「まあ、旦那様のお許しがあるなら大丈夫ですわ。では、代金は屋敷のほうへつけておきますね」
マルタさんはにこやかに微笑むと、奥から加熱石を持ってきてくれた。
こうして無事に加熱石を手に入れた。
◇
僕はマルタさんにお礼を言い包んでくれた加熱石を手に提げて、鍛冶屋のバルツさんの元へ向かった。
鍛冶場に入ると、バルツさんが炉の前で汗だくで鉄を打っているのが見えた。
「バルツさん、こんにちはー!」
「おお、メルヴィン様。どうなさいました?」
「あのね、バルツさんにお願いがあるんだけど」
僕はバルツさんに、持ってきた加熱石を見せた。
「この加熱石を入れるための箱がほしいんだ。小さくていいから、四角くて浅いお鍋みたいなやつ作ってもらえないかな?」
「……ほう。小さくて浅い鍋ですか。作るのはいいんですが、ちょいと仕事が立て込んでいるので、しばらく待ってもらいますぜ」
「どれくらい?」
「悪いが、少なくとも半月は待ってもらわねえとな」
「えー!そんなに!?」
『ナビ、どうしよう!半月も先だって……』
《バルツ氏に依頼した浅い鉄の箱の目的は、木製部分への発火を防ぐことです。メルの土魔法で生成できる石材は熱に強く、優れた断熱効果を持っています》
『そっか!自分で作ればいいんだ!よし、ナビ早速作りに行こう!』
バルツさんに軽く頭を下げて鍛冶場を後にし、僕はすぐに森へ向かった。
『ナビ、何から作ればいい?』
《木製のやぐらを先に作ると、加熱石の受け皿のサイズに微調整が難しくなります。まずは熱源である石の箱から作りましょう》
『OK!ナビ、魔力流すね』
《はい。メルは設計図の形を意識して魔力を流してください》
僕が魔力を流すと、地面の土が隆起し、加熱石が収まる四角い石の箱が出来上がった。
《では一度、加熱石を試してみましょう。箱に砂をいれて、その中央に加熱石を設置し、魔力を流してください》
ナビの指示通りに近くの地面から砂を集めて箱の中に敷き詰め、その中央に加熱石をそっと置いた。
『いくよ』
《はい。魔力制御は任せてください》
「おっ!」
僕は思わず声を上げた。
『ナビ、すごい熱だ。触るとヤケドしそうなくらい暖かいよ!これなら暖房として使えるね!』
《はい。加熱石は一度魔力を付与すれば数時間は熱を維持しますが、魔力の出力によって最高温度が変動します。コタツとして使用する際は、熱くなりすぎないよう魔力を込めすぎない注意が必要です》
『なるほど。これで加熱石の準備は万端だ。早速、コタツ作りに取り掛かかろう!』
《承知しました。次は木製フレームの構築へ移行します。》
僕はナビの指示で一本の木に風魔法を流し込み切り出される木材を、ナビの計算通り寸分の狂いもなく切り出していく。
《次は、木材同士を組み合わせるための加工です。メルは土魔法で組み合わせるイメージで魔力を出力してください》
僕はナビの指示通り魔力を流し込んだ。
ナビの完璧なサポートによって、木材の端が精密に加工されていく。
《加工が完了しました。最後に組み上げです。浮遊魔法でフレームを設計図通りに組み上げてください》
僕はナビの指示通り、加工済みの木材を浮遊魔法で持ち上げ、パズルのように組み合わせていく。
カチリ、カチリ、と静かな音を立てて、コタツの木製フレームが完璧に組み上がった。
《木製フレームの構築が完了しました。次は天板の作製に移行します》
『わかった!』
残った木材に風魔法の刃を入れる。
木材がナビの計算通り、滑らかな一枚板に切り出されていく。
『よし、完璧だ!ナビ、これで全部完成だね』
《はい。想定通りの強度と精密さです》
◇
僕は完成したコタツを魔法で屋敷まで運びカトリーナの元へ向かった。
「カトリーナ、使ってない古くて大きな毛布とか布団ないかな?」
「古い毛布ですか?承知いたしましたが……この前の羊毛といい、今度は毛布といい、メルヴィン様は冬ごもりでもなさるおつもりで?」
カトリーナにじとっとした目で見られたが、僕は笑顔で押し切った。
「うん、そんな感じ!」
僕は部屋に全ての材料を運び込むと、さっそく組み立てを始めた。
床に敷物を敷き、フレームを置く。
ナビの設計図通りフレームの中央に石の箱を慎重に固定し、そこに加熱石をセットした。
最後に毛布をかけ天板を乗せる。
「……できた」
僕はごくりと唾を飲み込むと、部屋履きを脱いで、おそるおそる、その毛布の中に足を入れた。
……じんわりと、温かい空気が足を包む。
「あ……」
僕はそのまま、ずるずると上半身までコタツに潜り込んだ。
(あああ……。ダメだ、これ。最高すぎる……。もう出たくない……)
「メル?何やってるのよ、変なテーブル置いて」
ちょうどそこへ、イリ姉が部屋に入ってきた。
「イリ姉……。いいから、こっち来て。ちょっと足、入れてみてよ」
「はあ?なによ、気持ち悪い」
イリ姉は文句を言いながらも、部屋履きを脱いで、僕の向かい側に座ると、おそるおそるコタツに足を入れた。
「…………」
「…………」
「………………」
イリ姉は、そのまま動かなくなった。
「……メル」
「なに?」
「……私、もうここから動きたくないわ」
僕の仲間が、一人増えた瞬間だった。




