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第17話 敗走

「なっ……あッ……」


 見えていた。

 腕を切り落とされてもなお浮かぶのは疑問で“いま”“私は”“躱した”。躱したはずだった。

 咄嗟に腕を引き、その剣先は腕のあった場所を通り過ぎたのを私は“見た”。

 なのに腕は切り捨てられ、宙を舞っている。

 もう考えてる場合じゃない。次の斬撃が迫るのを感じる、口の端で自分の腕を咥え後ろに転がった。

 ゴロンゴロンと後ろに転がりつつ私のいた場所を次々に切り裂いていくそれを躱す。まるで犬のように床に這いつくばってーー、


 女の仲間かーー、長居しすぎたなッ……。


「チッ……」


 苦肉の策だ。あの女がやって見せたように私も影となり、実態を消失させた。

 時間を稼ぐつもりだったわけではあるまい。結果的に時間稼ぎとなり仲間がやってきた。そんなところだ。

 傷ついている女を見れば私が敵であることは明白で、即座に行動に移ったーーそれまでのこと。

 今の状態では2人纏めて相手するのは分が悪い。

 影となったまま、相手の容姿も確認できぬうちに窓の隙間から外へと逃げ延び、そのまま彷徨うように安全な、とりあえず一息つける場所を探し、鉄の管が走る壁をいくつか辿り、登っていく。そうしてようやく兵士の影の見えない部屋を見つけ、


「っ……」

「まっ……マオ!!?」


 あの娘が軟禁されている部屋の窓から中へと転がり込んだ。

 同時に襲ってくるのは激痛だ。

 頭の中が落ち着けば痛みで意識が吹き飛びそうになる。


「マオっ……!! マオっ!!」


 私に駆け寄ってくる姿を横目に、肘から先を切り落とされた腕を元あった場所へと戻し、魔力で縫い付ける。

 それだけでも涙が滲み、魔力を通わせただけで悲鳴が溢れる。


「大丈夫なのっ!? ねぇ!!?」

「バカもの……騒ぐでない……」


 私以上に涙目で見つめてくる娘を睨みつつ、治療に専念する。

 恐らく奴らは私の気配を逃さない、きっと追ってくるーー。

 だから、だから早く、せめてこの腕だけでも、


「っ……はっ……」


 腕の神経一本一本、骨や筋肉の繊維をそれぞれ繋ぐイメージで魔力を通わせ、それを伝って頭の中に叩き込まれる苦痛に呻く。呻き、食いしばりーー、


「ーーーーーぁ……は……」


 左の指先が微かに動くようになったところで私は、



 意識を失った。



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