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第0話 終わり

 いつか、こうなる日が来ることは覚悟していた。

 それは到底叶うことのない願いであり、到底、敵う事のない相手との戦いだったのだ。


 敵の数は幾千万、この大地に繁殖し、根付いている。

 それに比べ私たちの軍は少なく、各地に点在し拠点を潰しては湧き上がるウジ虫どもに手を焼き続けていた。


 多勢に無勢。数の暴力に質で敵うには相当根気のいる戦いなのだ。


「それでも私たちは続けてきた、それでも私たちは負けるわけにはいかなかった……」


 繰り返し、言い聞かせるように呟く。


 この時が来てしまったのだという無力感、それに伴う後悔。

 監視網を抜け、城に近づく影がある。

 そう報告を受けたのはつい数刻前だった。

 その者たちはすでに城内に潜入し、この部屋へと至らんとしている。

 決して負けるわけにはいかない。……何があろうとも。

 ここで私が屈するようなことになれば全てが水の泡と消えよう。故に、敗北は許されず、逃走もありえない。

 腰掛けた椅子から背を離し立ち上がろうとすると、微かに肘掛けを掴む手が震えていることに気がついた。


 ……所詮私もこの程度か。


 自分の器の小ささにヘドが出る。


 どれだけの戦友を死線に送り出して来た事か。数々の見知った顔を死地に見送り、帰ってきた者もおればそのまま亡骸すら弄ばれた者もいる。そうなることを承知の上で命令を下してきたのだ。今更、私自身が「怖い」などと誰が笑ってくれよう。


「ふふふ」


 己を奮い立たせるためにか自然と笑みがこぼれた。

 敵の数は幾千万、しかし乗り込んできたやからはたった数名。

 何も恐れることはない、否、何を恐れることなどあるだろう?

 これまで私たちは虐げられ、踏み躙られて来たのだ。仮に負けたとてそれが繰り返されるだけではないか。何も変わらないのだ、何も……。


「っ……」


 ……何も変わっていないのだ。まだ、何も。


 グッと拳に力が入った。恐怖からではなく、怒りで拳が震える。

 私は何も変えることができていない。

 何も、成し遂げられていない。

 数多くの屍を築き、数多くの友を失ってきた。


 大義のために、目的のために、私の……我が儘のために。


 その結果がコレだ。


 その報いがコレなのだ。


 時折城全体を鳴らす振動は彼らが踏み入ってきている証拠。じき私の首を取らんと挑みかかってくるだろう。


 負けられない。負けることは許されない――

 これまで散っていった命の為に、これから生まれ来る命の為にもッ……!


 根絶やしにされる一族を持ち得なかったことを自嘲し、誇らしくも思おう。

 血のつながり以上に大切に想うてきた者たちを数多く奪われたことに心を痛めよう。


「さぁ、やってくるがいい。私はここだッ……」


 突然蹴破られ開く扉。

 その向こう側から雪崩れ込んできた数名の人間に対し私は嘲笑った。


「魔王はここにいるぞ!」


 戦いの火蓋は切って落とされた。

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