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第6話 一方的な対抗心

 兵士に案内されてようやく砦の村に到着した。

 小高い岩山の麓にある川沿いの小さな村で元はアンキラザシュタットの後詰めとなるべき拠点だったが、その街が先に落ち、今やそこからやって来るだろう魔王軍に備えているとは何たる皮肉だろうか。


「怪我人が多いな」


 村には至る所に負傷した兵士や街からの避難民が横たわっていた。

 一応、村には小さな教会があるのだが、そこに収まり切らない程に負傷者が多いのだ。


「体力のある者達はもっと遠くの街に避難してもらった。ここに居るのは怪我をして動けない者とその家族達だけだ」


 案内してくれる兵士が状況を説明してくれる。

 薬も医者も足りず避難民まで手が回らない。

 今は王国軍指揮官の命令で貴族と兵士を優先的に治療しているのだと言う。

 

「怪我人か。アルケー何とかならないか?」


 こんな時に頼りになるのが彼女の超回復(リヴァイブヒール)だ。その力はこれまでの旅でどれ程のものか十分に分かっている。


「そうね。じゃあ私はあっちで怪我人の治療に当たろうかしら」

「めが、じゃなかった。アルケー様。私も手伝います。私も少しは回復魔法が使えるので」

「じゃあアタシも手伝う!」


 ミュンネイとアンジェリカも怪我人達の治療に手を上げた。


「ならそっちは任せた。俺と笑亜は綾無殿に着いてるからよ」


 一行は二手に分かれて行動する。

 アルケー達は怪我人達が収容されている教会までやって来ると、そこには負傷した人達がうめき声を上げて苦しんでいた。


「これは……」


 地獄という次の句をアンジェリカは言えない。それだけ教会内にはムッとした死の香りが充満していたのだ。


「カラミティの奴……!」


 また奴の所為で自分の世界に住む生命達が傷付けられた。その怒りを抱きアルケーは脚を踏み入れる。


「ん? 何だ君達は?」


 鎧を脱いだ兵士が彼女達に気付き声を掛けた。

 医療マークの入った腕章を着けている事から、王国軍の軍医なのだろう。


「ギルド所属の魔法士よ。怪我人の治療を手伝いに来たの」

「という事は回復魔法が使えるのか。ありがたい。ではこの方から魔法で治してくれないか?」


 軍医の男は今診ていた兵士をアルケーに託す。

 上等な毛布を掛けられ気品のある髭を生やした男性だ。きっと上の階級の者なのだろうと察せられたが、首と腹に大きな切り傷がありもう虫の息と言った所だった。


「分かったわ。超回復(リヴァイブヒール)!」


 アルケーはいつもの通り一瞬で傷を癒す。腹を穿つ傷も首を裂いた傷も跡形も無く消え去り、いきなり無くなった苦痛に兵士はきょとんとして起き上がった。


「あれ? あれ? あれれ? 俺、死んでないよな? 何で? 痛くない」


 突然苦痛を感じなくなった事を天に召されたのだと勘違いしたのか、まるで信じられないと自身の身体を確認する。

 その驚くべき回復魔法に軍医は目が飛び出さんばかりにアルケーを凝視した。


「何だ!? 何だ今の魔法は!? 何をした!?」

「それより次は?」


 アルケーは軍医の疑問など付き合わずに次の患者を求める。それでもボケっとしている軍医にもう一度強く「次は?」と急かした。


「あ、ああじゃあこの列を任せて良いか?」

「分かった。ミュンネイ、貴方は向こう側から順に回復魔法を掛けて行って」

「は、はい!」


 同じく女神の回復魔法に驚くミュンネイは慌てて奥にいる怪我人の元まで行く。

 しかしこの兵士も酷い怪我だ。腕の骨が折れて3箇所に深い刺傷がある。

 ミュンネイは息を整えて回復魔法を発動した。


「アメイジングヒール!」


 この回復魔法を使えた人間は過去数人しか居ない。エルフだって魔力に恵まれた者が修行の末やっと習得する超上級の回復魔法である。

 女神の魔法に面食らいはしたが、自分だって魔法士だとミュンネイは対抗心を燃やして傷を癒す。

 もうすぐ傷が塞がると言った所でアルケーの様子をチラリと横目で見た。


「あれ? 何だか凄く近付いて来てる?」


 さっき2人目の治療に取り掛かったはずなのに、もうこの列の半分くらいまで終えている。

 飛ばし飛ばしやっているのかと思ったが違う。

 彼女が1人当たりに費やす回復時間が異様に短いのだ。何なら立ち上がって次の怪我人の元に行き、腰を下ろすまでの移動時間の方が長い。


「うわ~、さっすがアルち。あんなんチートじゃん」


 女神だからこのくらいはやるだろうと思っていたが、実際に目の当たりすると凄まじい無力感に襲われる。

 現にさっきの軍医は居辛くなったのか向こうの方の兵士を診ている。もうここはアルケーの領域だ。

 だがその劣等感がミュンネイに火を付けた。


「くぅ~、私だって負けてられない!」


 自分だって200年以上無駄に生きた訳じゃない。エルフの意地を見ろと魔力を更に上げた。


「うお!? ミュンミュンが燃えてる!」

「アンジェ! ちょっと魔力供給お願い!」

「え!? ここで!?」


 お手伝いのアンジェリカを捕まえてミュンネイは熱い視線を送る。

 エルフ族や魔族と言った魔力の扱いに特化した亜人は、自分と身体を接した相手との間で魔力の移動が出来る。

 代表例を上げるならサキュバスだろう。あれは肌と肌を重ねて人間から魔力を奪って行く魔族だ。

 と言う訳でミュンネイがアンジェリカに求めているのはまあそういう事だ。


「いや~、さすがにここではチャレンジ過ぎんかミュンミュン?」

「じゃあ貴方のミュンミュンが負けて良いの?」

「勝ち負けとかそういう問題じゃ……」

「じゃあ手で良いから握ってて」


 サッと手を差し出すミュンネイ。

 そのちっちゃく新雪の様な滑らかで白い肌をした手マジ可愛い(かわち)とアンジェリカは握ろうとするも、しかしその手は早速引っ込められた。


「やっぱバックハグにして」

「くっ! この天使段々と接触面積を広げる要求をして来やがる!」


 でも呑んじゃうのがアンジェリカだ。

 ミュンネイの背後から覆い被さるようにして抱いてやる。

 端から見ればじゃれてる様にしか見えないのだが、たったそれだけでミュンネイの回復魔法が物凄くパワーアップした。

 これが愛のパワー。2人が力を合わせれば女神の魔法にも匹敵するのだ。


「何にしてんの?」


 だがまあ場所は選ばなければならない。

 アルケーはこの意味不明な合体をしている2人に冷めた眼差しを向ける。


「あー、えっと……。マジックフォーメーションα(アルファ)!」

「遊んでるなら出てって」

「ごめんなさい」


 まさにド正論。

 人の命が掛かってる現場で変な意地は出さないでおこうと思ったアンジェリカとミュンネイだった。

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