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第2話 モンスター襲撃

 どんくさい女神様に業を煮やした三郎は、アルケーを担ぎ戦場へと急いだ。

 何かが破壊される音、怒号や悲鳴が混じった喧騒が次第に大きくなって来る。

 森を抜けた先は急な斜面になっており、その下の小さな集落で見た事のない生き物が暴れ回っている。


「あれがモンスターって奴か!?」


 伎楽面ぎがくめんの様な顔をした餓鬼。

 猪頭いのがしら偉丈夫いじょうぶ

 人間の様に立っている山犬。


 それぞれゴブリン、オーク、コボルトと言ったモンスターだ。


「ちょっと早く下ろしなさい」


 担いでいたアルケーが脚をバタバタさせて蹴るものだから、地面に下ろしてやったがバランスを崩して転んだ。いよいよどんくさいでは済まなくなって来た。


「アンタもっと丁寧に運びなさいよ」

「なら自分で歩ける様になれ。お前の脚に合わせてたら10里歩く内に日が暮れちまう。それより見てみろ」


 兜を被り直す三郎に示されて眼下の惨状に目を向ける。

 そこには1人の少女がモンスターと戦う姿があった。

 少女は軽装の鎧を纏い、右手に剣を左手に盾を装備して、逃げる村人達を庇いながら孤軍奮闘している。

 だが驚くべき事に、多勢に無勢である筈の少女の方がモンスターを圧倒していた。

 鎧の重さを感じさせない軽やかな動きで駆け回り、攻撃を受ければ盾で防御、すかさず剣での斬撃を見舞う。

 既に多くのモンスターが屍となっている。

 が、高所から見ていると、モンスターの一部が迂回して村人達が避難している建物に向かっているのが見えた。

 

「どうする女神様?」


 問い掛ける三郎の手には既に矢が取られていた。


「当然、助けるわよ!」

「どっちを?」

「人間に決まってるでしょバカ!」

「誰がバカだ! ぶっ殺すぞ!」

「いいから撃て!」


 三郎は口をへの字にしながら弓を構えると、一番大柄なオークに向けてびゃっと射る。

 放たれた矢は、今まさに少女を潰そうと大槌を振りかざしたオークの首元に命中し、勢い余ってそれを跳ね飛ばした。


「ぃよーし! 見たか! 一番デカい首を射てやったぜ!」


 さっきの怒りはどこへやら、三郎は子供の様にはしゃぐ。


(いや、オークの首を跳ね飛ばす矢って、どんな威力よ!?)


 オークは強靭な肉体を持つモンスターだ。生半可な攻撃では倒す事は出来ず、むしろ怒らせて返り討ちに合う者もいる。

 そもそも矢で肉を断つなんて事が出来るのだろうか。

 突然の援護射撃に少女がこちらを向く。それに対して三郎は弓を掲げながら、空に轟く大音声を上げた。


「敵が迂回しているぞ!! 戻れぇ!!」


 だが少女は中々戻ろうとはしない。

 戻りたいがここのモンスター達を捨て置く訳にはいかないといった所だろう。

 三郎はもう一度叫んだ。


「戻れぇ!!」


 その後押しで漸く少女は後退を始める。

 しかしこの叫びで三郎達の位置がバレてしまい、数体のコボルトがこちらに向かって来た。

 彼等にとってはこんな急斜面なんて事はない。わずかに手足が掛かる足場をさえあれば駆け上がって来れる。

 三郎はそれを獲物が来たとばかりに弓を構えた。

 その時――。


射撃魔法(スナイドル)!」


 アルケーの銃口に光が走った。

 淡水色の魔法弾は向かって来るコボルト達を次々と崖下に叩き落として行く。


「おいおいおい……」


 弓なんかより遥かに優れた速射は、三郎が狙った獲物までも横取りしてしまい、アルケー1人で一方的な勝利を見せたのだった。


「はぁ~撃った撃ったぁ!」


 全ての敵を撃ち落とした女神は満足感たっぷりの清々しい笑顔を見せる。

 そして一体も射る事が出来なかった三郎は不満気なジト目を向けた。


「ずりぃ……」


 こんな言葉しか出て来ない。

 こっちは身体全体を使って渾身の一射を放っているのに、あっちは指一本で敵を全滅させてしまった。これではあまりに不公平だと感じた。


「それ俺にくれ」

「は? 人間が扱える訳無いでしょ。一発撃つだけで魔力が吸い取られて干乾びるわよ」

「寄こせよ!」


 それでも引き下がらず三郎は無理やり奪おうとする。


「何でよ!? 人には使えないって言ってんでしょ!?」

「やってみねえと分かんねえだろうが! 寄こせ!」

「無理矢理奪おうとするなんて、どういうつもりよ!? 一体どんな教育を受けて育ったの!?」

「欲しけりゃ奪えって教わって来た!」

「親も蛮族かい!」


 アルケーは取られないように、さっさとアーリーライフルを別次元へと格納する。

 ああっと三郎は惜しい声を出すが、こうされては引き下がるしかなかった。


 下を見ると既に村を襲っていたモンスター達は逃げ去っている。

 避難していた村人達が、斧などを持って周辺の警戒に当たり始めていた。


「さあ、行くわよ。この村で情報を手に入れるの」


 アルケーは比較的傾斜の緩やかな所を見付けて、斜面を降りていく。三郎もそれに続こうとした時、


「イヤァァァァ~~!」


 バランスを崩して転げる様に滑落して行った。


「どんくさ過ぎるだろぉ……」


 三郎も続くがこんな斜面、彼にとってはなんて事はない普通の下り坂だ。

 崖を降りると、さっきモンスターと戦っていた少女がこちらに駆けて来た。

 赤と白を基調とした鎧に濃紺色の羽織りを纏った小柄な少女。髪は茶色で顔にまだ幼さが残っている一番可憐な時期の娘だ。

 こんな少女がさっきの大立ち回りをしていたとは、にわかには信じられなかった。


「あれ? 貴方は……」


 少女の顔を見たアルケーは驚いた様に目を丸くした。

 同じく向こうも彼女の顔を見た途端、口を大きく開けて驚愕し女神の名を言う。


「あ、ああ……アルケー様!?」


 その声はまるで恩人に出会ったかの様な、喜びの感情が混じっている。


「やっぱり! 貴方は!」

「はい! 貴方様に力を与えられた勇者! 志藤(しどう) 笑亜(えあ)です!」

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