第22話 不死鳥の笑亜
信じられないものを見ていた。
カラミティとの戦いで屍となった筈の笑亜が目の前に生きて現れたのだ。しかも何か燃えている。
だが不思議と熱は感じない。太陽の様な黄金の炎を纏う彼女の姿は神々しいまであった。
「笑亜か? お前さん何で……?」
理解が追い付かない三郎は口をぽかんと開けて聞く。
そんな間抜けな顔をする師匠の懐に笑亜は嬉しそうに飛び込んだ。
「師匠……。良かった生きててくれた」
噛み締める様な喜びの声を絞り出す。
「そらぁこっちの台詞だ! 何で生きてんだよ!? 山で死んでただろ!?」
そう言って三郎は底無袋から彼女の遺髪とドッグタグを取り出した。
「俺はお前が死んだと思ってよぉ……」
「三郎。今はそこまでよ」
今は話している時間はないとアルケーは制する。
「笑亜。よく帰って来てくれたわ。あと一息でカラミティを倒せるの。お願い力を貸して」
「はい! お任せをアルケー様! スキル不死鳥が発動した私は無敵なのです! 必ずカラミティを倒して見せます!」
笑亜は炎を翼の様に広げ天へ飛翔する。それは朝焼けの空に煌めく流星の様な速さでカラミティに切り込んだ。
「おい、何であいつ生きてんだ!?」
三郎は我慢出来ずに事情を知っていそうなアルケーを問い詰める。
そんな事を聞いている場合じゃない事くらい分かっているが、それでも聞かなきゃ気が収まらない。
アルケーは仕方ないと言った顔で三郎の質問に答えた。
「あれが笑亜の勇者としてのスキルよ」
「スキル?」
「あの娘は死んでも日の出を迎えれば蘇るの。不死鳥みたいにね。しかも蘇生した時に魔力を解放して強化されるオマケ付きでね」
要するに死んでも強くなって蘇るという事は理解出来た。
「何でそんな大事を俺に言わなかったんだよ!?」
知っていればもっと違った対応があったと怒りが込み上げて来る。
だがアルケーはそれを跳ね返す様な目を向けた。
「笑亜は貴方が怖かったのよ。死を恐れない貴方がね」
「どういう意味だ?」
「笑亜は以前、スキルの事を知った仲間に殺された事があるの。蘇るって言っても死の恐怖や苦痛はそのままだから相当なショックを受けた事でしょうね。だから貴方には言えなかったのよ。もしかしたらまた同じ様な目に合うんじゃないかってね」
「バカが! 俺がそんな人間に見えるか!?」
なんて失礼な話しだと食って掛かる。
「じゃあこの話を聞いた時、彼女のスキルを利用した作戦を1つも考えなかった?」
「それは……」
「考えたでしょ?」
確かに考えた。
もし笑亜のスキルを知っていれば、無理にこの街に潜入する事もなく、彼女の復活を待って攻めただろう。
もっと言えば、アルケーが語った出来事のように、笑亜には予め死んでもらい、日の出と共に戦を仕掛ければスキルを最大限に発揮できると一瞬でも考えてしまった。
坂東武者は戦に勝つ為なら何でもするし利用もする。だが――、
「けど仲間を殺して勝つなんて事、そんなのは武士の、人のする事じゃねえ! バカにすんな!」
仲間の命を贄して得られる勝利に何の意味があるのか。その様な不義は坂東武者として以前に人として許されるものではない。
その答えにアルケーは微笑むと一つ彼に問い掛けた。
「三郎。この話を知って笑亜をどうする?」
「……腹が立ってるのは確かだ。けどこんなんで首を刎ねようなんて思うほど俺もバカじゃねえよ」
「そう。じゃあこの話はもう終わり。もうすぐ笑亜がカラミティを追い落としてくれるわ。そしたら次こそは奴に引導を渡してやるわよ!」
2人は上空で繰り広げられる戦いに目を向けた。




