第21話 神の如き壮力
口上を言い終えた三郎にアルケーは呆れ顔で言った。
「侍になるのはこの戦いが終わったらじゃなかったの?」
「細けえ事は良いんだよ。それよりあいつを見てみろ。めちゃくちゃ怒ってんぞ」
三郎の言う通り、ただの外殻装甲である筈のヴァナリウスが生き物の様にプルプルと震えている。
「女神の侍だと? 意味は分からんがそこは、アルケーの隣は我の場所だ!!」
怒りのままにアームクローを拳の形にさせて三郎に繰り出す。
自身の身の丈程あろう鉄拳が迫るが、三郎はそれを避けもせず真正面から受け止めた。
「バカな!?」
「力比べか! なら負けねえ!」
巨腕を真っ向から受け止め、それどころか逆に押し返す。ただの人間がだ。
「調子に乗るな!」
カラミティはアルケーを捕まえたCの字型のドローンを射出する。
前回の捕縛を目的とした物ではない。その輪の内に魔法の刃を備えた突撃魔法兵器だ。
それを逃げる事の出来ない下等生物に突っ込ませようというのだ。
しかしその時を待ち構えていた者が居た。アルケーだ。
「させるか! 射撃魔法!」
このドローン群は前回の敗北の原因でもある。
「墜とす! 全部墜とす! 墜ちろ蚊蜻蛉!」
激情を滾らせ口汚い台詞を吐きながら、向かって来るドローンに猛射を浴びせる。
もう絶対に仲間を死なせない。死なせて堪るか!
そして全てのドローンを墜としてみせた。
「ははぁ! 見事!」
女神の援護を受け、彼女に続けと三郎は一層力を入れる。
ヴァナリウスの巨体が小さな武者によって押し返され、体勢を崩したところでさらなる力を加えた。
いかに相手が巨体と言えど、わずかでもバランスが崩れれば、それが付け入る隙となる。
「うらぁああぁぁぁぁーーーー!!」
咆哮と共に、その巨体がハリボテの如く軽々と地に転がされた。
三郎は横転したヴァナリウスの頭部に飛び付きヘッドロックを掛ける。そして全身全霊の力で締め上げた。
火花が飛び散り、破片が落ちる。
ヴァナリウスの首は、その神の如き壮力によって、遂に捩じ切られた。
「うおぉお!! 魔王が兜、取ったぁ!!」
取った首を掲げ、坂東武者は雄叫びを上げる。
頭部を失い、視界を失ったコックピット内で、カラミティはこの現状を信じられないという顔で呆然としていた。
「バカな!? 低次の存在がヴァナリウスを……!? こんな事があってたまるか!」
まだだ。まだ頭部が破壊されただけだ。
ヴァナリウスはまだ動く。失った視界もサブアイに切り替えれば良いだけの事。
機体をジャンプさせ距離を稼ぐ。
収束砲を開き、この一撃を以てこの人間を消し去ろうというのだ。
三郎とアルケーは共に朱弓とアーリーライフルを構えた。
「南無八幡!」
「射撃魔法!」
武者と女神は同時に放つ。
カラミティの一撃とアルケーの魔弾がぶつかり軌道がズレる。その後から三郎の放った矢が大気を裂いて飛翔しヴァナリウスの胸部に突き刺さった。
「あ!? アアァァァァーーーー!!」
装甲を貫き、文字通り目の前で止まった鏃にカラミティは悲鳴を上げる。
あと少し、何かが違い、何かが足りなければ頭を貫かれていただろう。
恐怖に囚われ、頭の中が真っ白になったカラミティはヴァナリウスとのリンクを手放してしまった。
「何だ!? 何なんだ!? 奴は何者だ!?」
再び真っ暗となったコックピット内でみっともなく泣き喚く。
リンクを試みても上手くいかない。焦れば焦るほどヴァナリウスは応えてくれない。
その時、機体が大きく揺れた。
また横転したのだと分かった瞬間、コックピットハッチを貫いて武者の手が侵入して来た。
「う、うわぁぁッ!!」
手はカラミティの顔を鷲掴みして捉える。
指々が肉に食い込み、内から骨が軋む音が脳に聞こえ、そのまま圧倒的な力で無理矢理コックピットの外へと引き摺り出された。
「俺が何者かって言ったか?」
ハッチ越しに武者の声が聞こえる。
「さっき名乗ったが改めて名乗ってやる。女神アルケーが侍、朝比奈三郎義秀なりッ!!」
その口上と共に三郎はカラミティを投げ捨て、それから貫いたハッチもオマケだとばかりに投げ付けた。
「ヒィッ!」
自分のすぐ側を跳ねたハッチにカラミティは短い悲鳴を上げる。
そんな惨めな魔王にアルケーはアーリーライフルの銃口を突き付けた。
「これで終わりよカラミティ。私の世界を滅茶苦茶にした罪。死んで償いなさい」
「ふ、ふざけるな!! まだ終わってない!! 終わって堪るか!!」
カラミティは激昂し叫ぶ。
アルケーは構わず引き金を引いたが、その魔弾は召喚された盾によって防がれた。
カラミティの周りにいくつものパーツが召喚され装着されて行く。
これは屋敷から脱出した時に纏った翼を有する外殻装甲だ。
「ククク、ヴァナリウスが1機だけだと思うなよ。我はお前達より至高の存在なのだ。倒される筈がない!」
装着した外殻装甲によってカラミティは上空までかっ飛んで行く。
三郎とアルケーはすぐに上空に向けて矢と魔弾を放つが、カラミティを守るオートシールドによって防がれてしまった。
「クソッ! この弓でもダメか!」
「破壊光線を撃つわ! 援護して!」
「おう!」
アルケーは上空に向けて銃を構えた。
反動を抑える為のアンカーが地面に刺さりアーリーライフルが変形して行く。
女神最大の一撃、破壊光線を以てすれば、あのシールドごとカラミティを倒す事が出来る。
だがアルケーが砲撃準備をしている間、カラミティもまた自身の最大火力である収束砲を地上に向けていた。
「これで終わりだ! 所詮、低次の存在が我に敵うはずなどないとしれ!」
魔王は勝利の笑みを浮かべて、終わりの一撃を放つ。
刹那、朝焼けの光が空を照らしカラミティを追い越した。
降り注ぐ破壊の光より速く、地上へと到達した金色の光は、翼を大きく広げ三郎とアルケーを護る。
「ッ!? お前……」
三郎は光りの中で見えた少女の顔に、唖然として呼ぶ。
その少女は2人に向かって微笑み、降り注いだ破壊の光を切り裂いた。
「アルケー様! 師匠! 間に合って良かった!」
太陽の様な黄金の炎を纏った少女はいつもの屈託のない笑顔を見せる。
その彼女にアルケーは優しく声を掛けた。
「おかえりなさい。笑亜」
「はい! 不死鳥の笑亜! ただいま蘇りました!」




