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第10話 一騒動の後

「まさか容疑者の治療を受けるとは……」


 治癒魔法によって折れた鼻もすっかり治ったシャルディが苦い顔をして言った。


「まだ言ってんの? 私達は共犯者じゃないっての」

「僕は自分の直感を信じるタイプなんだよ」

「じゃあこれからは信じない方が良いわよ。てんで的外れだから」


 アルケーは思いっきり嫌味を言ってやる。

 昼間の乱闘騒ぎの余韻も鎮まり、怪我人達も全てアルケーが魔法で治してやった。

 シャルディは騒ぎの責任は自分にあると言って、一番最後に彼女の治療を受けた。


(こいつ真面目なのか悪どいのか分からないわね)


 笑亜に嫌味を言ったり、部下の略奪を知らんふりしたり、卑怯な手を使ったり、一見悪党のような事をしときながら責任はきっちり取っている。何だかよく分からない男だ。


「それより早くハルトさんを解放してくださいよ!」


 傷が治ったシャルディに笑亜は詰め寄って訴える。

 だがシャルディは馬鹿げた妄言を聞いた様な顔で返した。


「何を言ってるんだ? あいつを解放するわけないだろう」

「な!?」

「笑亜、それは無理な要求よ。ハルトがジュリを連れ去ったのは事実なんだから。さすがにそれを無視して許す事は出来ないわよ」

「そんな……」


 笑亜は落ち込んで椅子にへたり込む。

 気の毒だが、魔王に関わりのない所での問題は、人の法に従うと決めているアルケーにはどうする事も出来ない。

 今回の騒動だって問題は騎士達の横暴やシャルディの失礼な妄想が原因で、ハルトの件には触れていないのだ。

 とは言え、彼女とて全く心配事が無いと言う訳ではない。特にジュリが気掛かりだ。愛する夫が連行されてしまいどうしているのか心配だった。


「ジュリの様子はどうなの?」

「ジュリエッタ様と呼べ無礼者。君達に教える事は無い」

「貴方ねえ、こっちはご近所同士の付き合いだったのよ。知る権利くらいあるでしょ」

「そんな権利は無い。下賤な者達が軽々しく貴族の様子を知ろうとするな」

「ジュリさんはもうすぐ赤ちゃんが産まれるんです。せめて少しだけでもハルトさんに会わせてあげて下さい」

「だからジュリエッタ様だ。ふん、誘拐犯に会わせるバカがいるものか」

「ハルトさんは誘拐犯なんかじゃありません!」


 笑亜は声を荒げて机を叩いた。


「話はここまでだ。君達の共犯容疑については証拠不十分で保留にしといてやる。だからこれ以上変な気を起こさないでくれよ」


 シャルディはそれだけ言うとさっさと帰ろうとする。

 それが見逃す代わりにハルトを見捨てろという交換条件なのか、はたまた自分の妄想の無理を認めたのか分からないが、その傲慢不遜な態度はやっぱり気に食わない。


「待てよ。それはそうと俺達の武具を返してもらおうかシャル()


 帰ろうとするシャルディを三郎が呼び止める。ただし「ディ」が言えていない。


「シャル()()。だ。人の名前を間違えるな」

「分かった。シャル()()

「僕はバカにされているのか?」

「滑舌が悪いだけよ」


 三郎は口を横に引き伸ばして頑張るがやっぱり発音出来ない。

 その顔が面白かったのかシャルディは鼻で笑った。


「まるで馬糞を嗅いだ馬だな。分かった。武具を返してやるから着いて来い」


 そう言って三郎を連れて行く。だが玄関の扉に手を掛けた所で思い出した様に振り返った。


「ああそうだ笑亜君。君の異名について無礼を言って悪かったな」


 それだけ言い残し出て行った。


「良かったじゃない。謝ってもらえて」

「謝られたって簡単には許せませんよ」


 笑亜はムスッとした顔でシャルディが出て行った扉を睨み付ける。

 死神の異名を持つ笑亜だが、それは仲間の死の上に出来上がったものだ。そんな呪いを上げて疑われた彼女の怒りは相当なものだった。


「ところで笑亜。貴方のその二つ名の原因だけど、ただ単に生き残ったって訳ではないわよね?」


 急にアルケーは話題を笑亜の地雷たる「死神」の異名について問う。

 だが笑亜はシャルディの時とは違い少し儚く笑った。


「分かりますか?」

「そりゃあ貴方の身体を見ればね。だって傷一つないんだもの」


 この数日間でアルケーは水浴びや着替え等で笑亜の裸を見る機会があった。彼女の身体はこれまで魔王軍やモンスターと戦って来たとは思えないくらい綺麗なものだったのだ。アルケーはそれが気になった。

 対して笑亜も不思議そうな顔をした。


「アルケー様は私達勇者に与えた力がどんな能力か分からないのですか?」

「そうね私には分からないわ。女神の力は与えられた者によって変化するから、どんな力が発現するかまでは分からないの」


 その答えに笑亜は悩む様に黙り込む。そして決心したかの様に口を開いた。


「アルケー様には言っておこうかと思います。私の勇者としてのスキルを」


 アルケーは黙って頷く。

 理由は分からないが笑亜は覚悟を持って、自らのスキル情報を開示しようとしている。それに余計な言葉は邪魔に思えた。


「でもお願いがあります」


 本題に入る前に笑亜はもう一つ付け加える。


「師匠、三郎さんにはこのスキルの事を言わないで下さい」

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