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第9話 形勢逆転

 放たれた矢が三郎に向けて飛翔する。

 その時、三郎の前にひらりと何かが舞い降りた。


「ブレイブシールド!」


 瞬間、目の前に光の壁が出現しクロスボウの矢を防ぐ。

 ブレイブシールド――、本来は彼女が持つ盾を拡張、強化する魔法であるが、盾を持っていなくてもある程度の防御力を発揮する事が出来る。

 いきなり飛び込んできた彼女の姿に三郎はその名を呼んだ。


「笑亜!? 何してんだお前!」

「仲間の助けがアリなら私も参加出来ますよね? 私ずっとあの人をぶん殴りたかったんです。合法的に!」


 笑亜は待っていたかの様な溌剌とした顔をして返すと、次の魔法を発動する。


「ブレイブソード! ライジング!」


 魔力で出来た擬似魔法剣を作り出し、強化魔法を駆けて突撃する。

 騎士達は飛び込んできた少女に剣撃を浴びせるが、身体強化された笑亜には当てることが出来ず、むしろ周り込まれて叩きのめされる。

 その武者顔負けの戦闘能力に三郎も目を丸くした。そもそも彼女の戦いを間近で見たのはこれが初めてだ。


「こうしちゃいられねえ!」


 彼もまた剣を振るって騎士と刃を交える。

 三郎と笑亜。たった2人と言えど、坂東武者と女神の勇者の猛攻撃に騎士達は、熱した鉄球を押し当てられた氷の様に陣形を崩した。

 シャルディは舌打ちをしつつも2人を押し返そうと指揮を取る。


「魔法の使用を許可する! 取り囲め! クロスボウは下がって矢を装填しろ!」


 だが後退したクロスボウ騎士の目の前に現れたのは、怒りの形相で襲い来る村人達だった。

 騎士達の略奪行為に溜まっていた怒りが、三郎の反抗をきっかけに爆発したのだ。


「てめぇ等よくも好き勝手にしてくれたな!」

「村荒らされちゃあ俺達も黙っていられん!」

「三郎さんに続け! 盗賊騎士を追い出せ!」


 背後を突かれた騎士達はたちまち大混乱となる。

 村人達は満足な武器なんて持っていない。それでもここで立たねばと薪や農具を持って彼等は騎士に立ち向かった。

 剣を振るう騎士に複数で飛び掛かり押し倒す。それを引き剥がそうと助けにやって来た騎士をまた徒党を組んで制圧した。


「クソッ! 何なんだ貴様らは!? 我々に逆らったら、どうなるか分かっているのか!?」


 シャルディは部下達に守られながら絶叫する。

 だがそんな脅しはもう村人達には通用しない。

 三郎の立ち向かう姿がそれだけ彼等に勇気を与えた。もう騎士だからとか関係ない。自分達を虐げる者は自分達で打ち払う。

 シャルディの部下達は一人また一人と迫り来る波に飲まれて行った。

 その時、彼を守る騎士の1人が、まるで馬にでも引っ張られた様な勢いで引っ剥がされる。


「よお大将」


 三郎だ。

 彼は並居る騎士達を薙ぎ倒し遂にシャルディの元まで辿り着いたのだ。もうこうなっては止められない。彼を守る騎士達を払い除け、今回の元凶たるシャルディを捕まえる。


「ふ、触れるな! バカ者!」

「うっせえ! その首もらった!」


 そうはいかないとシャルディは必死に逃げようとする。

 三郎は逃がすまいと彼の纏うマントを掴んで、うんと引っ張った。


 ビリッ!


「あっ! クッソ()()かよ!」


 三郎の怪力によってマントが薄紙の様に千切れてしまった。その隙にシャルディは這いずって逃げる。

 その光景が先日の鎌倉での合戦で取り逃した足利の事が想い起こされ、三郎は悔しそうに千切ったマントを投げ捨てた。

 だが今回はあの時とは違う。何故ならシャルディの逃げた先には味方が居たからだ。

 この時を待ってましたと言わんばかりに笑亜は拳を構えた。


「人が気にしてる事を散々言ってくれましたね。この嫌味騎士!」


 今までの鬱憤を晴らすように笑亜の拳をその高い鼻っぱしに叩き込む。

 赤い飛沫を飛び散らせながらシャルディは仰向きに倒れノックアウトされた。

 そこを三郎が空かさず取り押さえて再びマウントポジションを取る。


「待て! 降参する!」

「もう遅えよ」


 三郎は躊躇なく剣の切っ先を彼の喉元に突き刺そうとした。その時だった。


 ダンッ!!


 天に響く銃声が轟いた。

 その轟音にその場にいた誰もが音の源へ注目する。


「そこまで。全員武器を納めて大人しくなさい」


 そこにはアーリーライフルを天に向けたアルケーがいた。


「はあ? おいおい今からがいいとこ――」


 ダンッ!!


 不満を言おうとした三郎の足元の地面が爆ぜる。

 その得体の知れないアルケーの武器に騎士も村人も凍り付いた。


「もう一度言うわ。全員武器を収めなさい。でないと私は容赦無くどちらへもこの魔法弾を撃ち込むわ」


 そう言って銃口を群衆に向ける。

 それがクロスボウと似た殺意の行き先だろうと察した彼等は、剣を収め、または地面に捨てた。


「シャルディ。これで分かったでしょう? 今すぐ村から取り上げた物を返しなさい。でないと皆の怒りを鎮める事は出来ないわ」

「しかしあれらは共犯者であるか否かの証拠ーー」

「そもそもジュリは洗脳なんてされてないし、共犯者も居ないのよ。アンタの勝手な妄想で村に迷惑掛けるんじゃないわよ」


 アルケーは有無を言わさず略奪品の返還を命じる。

 その声は威厳に満ちていた。


「チッ! 分かった。()()()()は返却する」

「もし()()()()()があるなら弁償しなさいよ?」

「分かった」


 もし消費してしまった物があった場合の補償まで約束させる。

 言質も取った所でアルケーは、敵の首を取れず不満そう不貞腐れてる三郎の所までやって来た。


「何だよ?」

「その矢、大丈夫なの?」

「ふん、屁でもねえ」


 目を合わせず口をへの字に曲げる三郎。

 肩の矢傷なんて、これっぽっちも気にしていないかの様だ。

 アルケーは彼の肩に刺さる矢に両手を添える。


「ッ!? 何する!?」

「えい!!」


 全体重を掛けて一気に矢を抜いた。


「ギャッ!? ってぇなコノヤロー!!」

超回復(リヴァイブヒール)!」


 襲い来る三郎に回復魔法を掛ける。その瞬間、三郎の肩から痛みが消えて出血も治まった。

 三郎は肩を確認しながらきょとんとした顔でアルケーを見た。


「お前……」

「別に大した事じゃないわ」


 アルケーは何かを求める訳でもなく立ち上がると群衆に向かって手を叩く。

 そしていつもの様な面倒見の良さそうな明るい声で呼び掛けた。


「はいはい、じゃあ怪我した人は私の所まで来なさいな。村人、騎士関係なく治してあげるから」


 短い間の乱闘だったとは言え、負傷者は村人、騎士の双方にたくさんいた。

 アルケーはそんな人々全員を治すと言ったのだ。


「本当ですかアルケー様!」

「ああ、なんて慈悲深い。本当に女神のようなお人だ!」


 村人達は大いに喜び、逆に騎士達はどうしたらいいのか分からないと言った風にバツの悪そうな顔をする。

 そんな彼等の内1人を指さしてアルケーは指名した。


「そこの騎士。うちのバカに投げ飛ばされたんでしょ? こっち来なさい。たぶん折れてるわよ」


 騎士は一瞬きょとんとした顔をするが、アルケーに手招きされると戸惑いながら彼女の元へと行く。

 そして彼に吊られてまた一人の騎士が続いた。

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