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第8話 フェーデ

「貴様、我々に逆らうのか!?」


 自分達の隊長を蹴り飛ばされ、周囲に屯していた騎士達が一斉に剣を向ける。

 だが三郎は少しも怯まず怒声を飛ばした。


「うるせえ! テメェ等調子に乗りやがって、何が共犯者探しだ! やってる事は賊と同じじゃねえか! この村にゃあ住まわせてもらってる恩があんだよ! さあ持ってった(もん)を返してもらおうか?」


 頑として一歩も譲らない。

 騎士達は今にも襲い掛かって来そうな殺気を漲らせた。


「手を出すな!」


 だがシャルディはそんな部下達を止め、腰のロングソードを抜き放って前へ出る。

 彼が一騎討ちを求めていると三郎には分かった。


「ほう、根の腐った奴だと思ってたが武人としての矜持はあるんだな」

「王国騎士シャルディ・フレーザ。貴様に対しフェーデを宣言する」

「フェーデ?」


 初めて聞く言葉に三郎は聞き返す。それを笑亜が補足した。


「決闘の事ですよ。ああやって騎士達は力づくで人を従わせるんです」

「なるほど分かりやすくて良いな」


 納得した三郎は彼の勇気に応え、こちらも名乗りを上げた。


「我こそは朝比奈三郎義秀! その勝負、受けて立ぁつ!」


 ここにフェーデは成立した。

 2人の武人は皆が見守る中、互いに剣を向ける。

 とは言え、完全武装したシャルディと違い三郎は鎧を纏っておらず、得物も初めて扱うショートソードだ。本来なら盾で防御しつつ、隙を突いて相手を攻撃する物だが今はその盾も無い。更に相手の武器の方がリーチも長い。

 その優位性を活かして早速シャルディが仕掛けた。

 長いロングソードが三郎の攻撃範囲外から振り下ろされる。

 三郎は後ろに飛び退きこれを躱すが、勢いに乗ったシャルディはさらに追撃して剣撃を浴びせた。


「どうしたどうした!? 逃げてばかりじゃないか! さっきまでの威勢はどこへ行った!?」


 本来、武士の接近戦は大鎧で相手の攻撃を受けつつ力でねじ伏せるというものだ。鎧を纏っていない今の三郎はいつもみたいな戦いが出来ないばかりか、一撃が致命傷となりかねない。

 完全に主導権をシャルディに握られてしまった。


「何が決闘(フェーデ)ですか! あんなの卑怯です!」

「戦いに卑怯も何もあるものか!」


 笑亜の抗議など一笑して攻撃を続ける。

 三郎は何とか剣を躱しもしくは払い除けて防戦に徹するが、ここで痺れを切らしたのか剣をシャルディに投げ付けた。


「フッ、そんな苦し紛れの攻撃が通用するか!」


 渾身の一撃も軽く弾かれてしまう。

 だがその隙に三郎は猛ダッシュで背中を見せて駆け出した。


「ハハハ! 逃がすものか!」


 武器を無くして勝ち目がないから逃げ出したと見たシャルディは情けなど掛けず追撃する。

 他の騎士達も哀れな男の命乞いでも見てやろうと面白がって後を追い掛けた。

 三郎がやって来たのは昨日の河原だ。

 彼らを誘き出した三郎はくるりと反転すると、辺りに転がる拳大の石を拾って思いっ切り投げ付けた。


「なっ!?」


 石は胸甲に辺り致命傷は免れたが、その衝撃でシャルディが大きくよろける。

 この予想外の攻撃に誰もが「嘘だろ!?」という顔をして絶句した。特に笑亜。 


「おいおいおいおい!? 投石(それ)は卑怯だろ!」

「戦に卑怯もあるか! 坂東武者をナメんじゃねぇ!! うらぁぁっ!!」


 三郎は一層大きな石を拾い、雄叫びを上げてシャルディに迫る。

 想像してみて欲しい。バスケットボールくらいの岩石を持って、ボール鬼の様に必中の距離からぶち当てようと迫って来る坂東武者を――。


 普通に怖い。いや、三郎の気迫だけで十分怖い。


 そんなのを当てられたら例えプレートアーマーであってもただじゃ済まないし、剣を持ってたって何の脅しにもならない。

 シャルディは当たって堪るかと逃げ出し、その部下達も流れ弾を恐れて三郎の射線上から逃げる。

 しかし鎧を着た彼らにとって足場の悪い河原は最悪だ。

 遂に三郎はシャルディを捉え、持ってる岩石を投げ付けた。


「おわぁ!?」


 マヌケな声を上げながらシャルディは身体を捻って躱すが、石に脚を取られてバランスを崩してしまう。

 何とか剣を杖に転倒を免れるもののそこに三郎が襲い掛かった。彼はシャルディに組み付くと腰を掴んでポーンと宙に投げ飛ばす。

 きっとシャルディからしたら何が起こったのか分からなかっただろう。急に暴れ出した視界に間抜けな声を上げて、そのまま受身も取れず地面に叩き付けられた。

 三郎は起き上がろうとするシャルディを蹴倒し馬乗りになる。そして頭を抑え付けて彼のロングソードの切先をうなじへと押し当てた。


「殺しちゃダメ三郎!!」


 だがアルケーによってそれを止められる。


「あぁ? 何で?」


 せっかくのチャンスを止められ不満気に女神を睨む。


「何回も言わせないで。私達が倒すべきは魔王よ。その配下でもない騎士を殺しても意味ないわ」


 三郎はシャルディの白いうなじを惜しそうに見詰めた後、仕方なさそうに舌打ちした。


「おい、どうだ? 降参するか?」


 降参するなら許してやろうと問い掛ける。

 だがシャルディはそれを屈辱的な顔で返した。


「くっ! やれ!」


 三郎はその台詞に違和感を覚えた。「降参などしない。殺せ」という意味ではない。何故なら彼の目はまだ諦めていないからだ。

 直後、視界の端できらりと光る物が見えた。

 三郎は直感で剣を振るい飛来した何かを打ち落とす。

 しかし捌ききれなかった一発が彼の肩に直撃した。


「ぐぅ!?」


 衝撃と痛みで倒れる三郎。

 何事かと見れば、周りを囲んでいた騎士の数名が何かを構えていた。


(おおゆみ)だと!?」


 それはこの世界ではクロスボウと呼ばれる代物だった。

 三郎の時代ではあまり見かけなくなった武器だがその知識はある。台座に乗せた矢は引金を引くだけで発射され、弓の様に腕力を必要とせず素人でも扱える。何より狙いが付けやすい厄介な武器だ。

 三郎を退けたシャルディは勝ち誇った様に立ち上がる。


「フェーデとは仲間の助力も認められているんだよ。つまりここにいる全員が君の相手さ」


 その言葉を待っていたかの様に騎士達は抜剣する。

 普段のパトロール任務等で出ているとは言え、それでも30人は居た。

 それでも三郎は屈さない。


「元よりそのつもりだ! 坂東武者をナメんじゃねえ!」


 吠える三郎にクロスボウの一斉射撃が放たれた。

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