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第12話 ツインブラストアタック

 菊子の決断で戦う事を決めた冒険者ユニオンは川を渡り、迫る魔王軍に向けて前進していた。

 作戦は単純だ。逃げて来る避難民と入れ替わる形でユニオンは魔王軍を迎え撃つ。その隙に後方の王国軍が避難民を保護し、村まで逃がせば全軍退却するというものだ。

 アルケーの魔法砲撃を受けても敵は変わらず攻め寄せて来ている。その視界いっぱいに広がる土煙に笑亜は思わず呟いた。


「こうして見ると大軍ですね」

「そう見えるだけだ。大方アルケーの魔法を避けようと散ったんだろ。つまり一箇所辺りの敵は薄くなったって事だ」


 自分が敵の立場だったとしても同じようにしてアルケーの攻撃を避ける。歴戦の三郎は馬上から冷静に戦場を見極めていた。

 敵の密度が薄ければそれだけ突破も容易になる。ますます勝ちが見えて来たという感じだ。


 避難民達はユニオンとは逆方向に逃げて行く。味方が来てくれたと安堵し、「ありがとう」とお礼を言って去って行く者もいた。

 そんな彼等を笑亜は嬉しそうな目で見送る。街で助けられなかった人達が居た悔しさがあったから尚更だ。身体の奥底から力が漲って来た。


「よし! じゃあ一気に倒しちゃいましょう!」

「ああ! せっかく賜った先陣だ! 敵の大将首を取って武功を上げてやろうぜ!」


 2人は今にも駆け出しそうな勢いで気合を入れた。しかし、


「悪いけど朝比奈さんと笑亜ちゃんはうちの護衛やで」


 その勢いも菊子の言葉で急ブレーキを掛けられてしまう。


「「え?」」

「え? やないわ。あんたらはうちの護衛なんやから、うちを放っぽって行かれたら困ります。ちゃあんと守ってな」


 ユニオンのリーダーとして彼女も戦場にやって来ていた。

 長い黒髪に額当てを巻き、有り合わせの防具を身に着け、手にはアンキラザシュタットのギルド支部で使っていたギルド旗を槍に掲げている。


「えぇ~。せっかく先陣を切ってやろうと思ったのによぉ」

「まあまあそう言わず。主役は遅れて来る言いますやろ?」

「誰がそんなバカな事を言ってんだよ!? 遅れたら武功が上げれねえだろ!? 戦ってのはな、誰よりも早く、一番に敵陣に駆け入って大将首を取る! これが武士の花ってもんだ! なあ先陣切らせてくれよ〜!」


 三郎は身体を揺らして不満そうにごねた。

 どうやら鎌倉武士に現代ヒーローの様式美は相容れなかったようだ。

 けれど菊子だって言い分はある。


「そこを頼みます。うち戦やなんて初めてやから(こわ)あて(こわ)あて……。朝比奈さんや笑亜ちゃんみたいな強いお人が側に居てくれな心細いんです」


 お願い守ってと菊子は懇願する様に三郎を見詰めた。


「ぬ、ぐぐぐぅ……。そこまで乞われちゃあ仕方ねえ。大将を守るのも武士の務めか。おい笑亜、残念だが先陣は他の奴等に譲るぞ」


 至極残念そうな顔をしながら、三郎は割り切って笑亜を呼び寄せた。その時――、


「へへ、死神が下がってくれるなら安心だな」

「どうせならそのまま居なくなってもらいたいけどね」


 弟子を小馬鹿にする声が彼の耳に入った。

 声の主はあのソワレ兄弟だ。


「テメェ等! 次は首を刎ねるつったな!」


 再三の侮辱に三郎は遂に太刀を抜き兄弟に迫った。

 だが2人はその反応を小馬鹿にするように笑い駆け出した。


「は! 何ムキになってんだ! お前の相手なんかしてられないんだよ! 行くぞサンク!」

「ああ! 兄さん!」


 2人は三郎から逃げる様に飛び出すと魔法を発動する。


「「浮遊魔法(フロート)!」」


 ソワレ兄弟の身体が地面から僅かに浮かび上がり、そして地面を滑る様にして滑走し出した。

 そのスピードは馬の駆け足くらい速く、一気に魔王軍との距離を詰める。

 兄弟の装備は剣と盾という冒険者の基本とも言うものだが、それを2人は交換して両手に剣、盾という変な様子を見せた。


「サンク! アレをやるぞ!」

「準備はいいぞ兄さん!」


 両手に盾を構えたディースが前へ、剣を持ったサンクがその後ろに着き、今まさに魔王軍の先鋒を狙いに定める。


「「ツインブラストアタック!!」」


 まるでお互いにタイミングを計る様に叫んだ。

 瞬間、ディースの盾から火球魔法(ファイアボール)が連射され敵の先頭を挫く。

 そして後ろに控えたサンクが怯んだ敵を剣で斬り伏せた。


 アルケーの砲撃によって1人1人の間が空いていた事もあり、ソワレ兄弟の突進を止める者は誰もいない。

 その一糸乱れぬ連携で2人は瞬く間に敵を蹴散らして行った。


「お、俺達も続け!」

「あの2人だけに美味しいとこ持ってかれて堪るか!」


 他の冒険者達も我先へと駆け出して行く。

 そんな彼等を羨ましそうに見詰める武者が1人。


「なあ俺も行っちゃダメか?」

「あきません。ちゃんとうちを守ってもらわな困ります」


 釘を刺された三郎は子供の様に身体を揺さぶり駄々をこねる。どれだけ首が欲しかったんだろう。


「でも私達勝ってますよ! 街の人達を逃がす為にも敵を押し返した方が!」

「そうだそうだ! 今こそ攻め時だ! 中央を突破して敵の背後を取れば、後ろの王国軍と挟み撃ちに出来る!」

「あんたら意外と似た者同士やねえ」


 三郎どころか笑亜まで攻撃に出ようと言い出す。

 だがその主張も間違いではない。

 ビジネスでも一度着いた勢いを衰えさせてはいかないのだ。

 だから菊子はその言葉に乗った。


「まあせやな。うちらが頑張っとる所を王国軍に見せんとアカンし……。ここは前に出よか」


 数人の護衛達と共にギルド旗を掲げた菊子が前進を開始する。それを追い越して王国軍の騎兵が敵に向かって行った。

 この戦は勝ちに向かっている。

 そう感じた三郎は馬上から高々と叫んだ。


「俺達の分もとっとけよ!!」


 余計な事を言うなと菊子は思った。

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