第9章 新たな誓い
カナトは目を開け、周囲を見渡した。暗闇が徐々に晴れ、彼が知っていた世界がその姿を取り戻しつつあった。しかし、それは彼がかつて知っていたものと完全に同じではなかった。過去の選択が、世界を少しずつ、しかし確実に変えていた。
手のひらに残った温もりを感じることなく、彼は自分が今立っている場所を理解しようとした。どこか遠くで鳥のさえずりが聞こえ、風が軽やかに吹き抜ける。しかしその静けさの中には、深い静寂が漂っていた。それはまるで、時が一度止まり、再び動き出すまでの間の静かなひとときのようだった。
「リナ、ユウ…」カナトは小さく呟きながら、周囲に目を向けた。彼の意識が元に戻り、周囲の現実が徐々に浮かび上がってくると、彼は彼の仲間たちがどこにいるのかを確かめたくなった。
リナがその時、彼の前に現れた。彼女の顔には、どこか穏やかな表情が浮かんでいた。「カナト、君が選んだ道は間違っていなかった。新たな世界が、君の選択によって作り直されている。」
カナトはその言葉に、深く頷いた。「でも、これで本当に全てが終わったのか?」
「終わったわけではない。」リナは静かに答えた。「君の選択によって、過去は変わった。しかし、新しい道が開かれたということは、未来もまた無限の可能性を持っているということ。君がこれからどんな世界を作り出すかが、これからの鍵になる。」
カナトはその言葉に深く考え込むように黙った。力を失ったことで、彼の中に確かに変化が訪れていた。かつてのように世界を支配する力を持っていない自分には、未来をどう形作るべきかが分からなかった。
その時、ユウが現れた。彼の表情はいつもと変わらず、冷静でありながらも、どこか真摯なものが感じられた。「カナト、お前が力を手放したことで、君の未来もまた未定だ。しかし、それこそが一番大切なことだ。」
「未定…?」カナトはその言葉に眉をひそめた。
「過去を変えることで、世界は新たにリセットされた。だが、それはお前だけでなく、他のすべての人々にも影響を与える。」ユウはしばらく黙ってから続けた。「君が選んだ未来、それがどんなものになるのかを、今、君が決めるべきだ。」
カナトはその言葉に自分の心を揺さぶられるような感覚を覚えた。過去を変えることで、確かに一部の人々は救われたかもしれない。しかし、今後自分がどんな選択をするかで、さらに多くの命が影響を受けることになる。その責任をどのように果たしていくべきなのか、彼にはその道筋が見えていなかった。
「僕が進むべき道は、まだ見えない。」カナトは呟いた。「でも、今はその道を一歩ずつ歩んでいくしかないんだよな?」
「その通りだ。」リナはうなずきながら言った。「今は新しい世界が始まったばかり。君が歩む道は、君自身が選んでいくもの。力を手放したことが、逆に君に新しい可能性をもたらしたんだ。」
カナトは深く息を吐き、目の前に広がる新しい世界を見つめた。それは、確かに未知のものだった。どんな困難が待ち受けているのか、彼には全く分からない。しかし、過去を変えたことで、彼は新しい力を得たと感じていた。それは、他者と共に歩む力、人々の未来を共に作り出す力だった。
そして、彼は心の中で新たな誓いを立てた。どんな未来が待っていても、彼は決して一人ではない。彼が歩むべき道は、孤独な戦いではなく、共に歩む者たちと手を取り合いながら切り開いていくものだと。
「僕は、もう迷わない。」カナトは静かに言った。「どんな世界が待っていようとも、僕は進み続ける。」
その言葉に、リナもユウも微笑んだ。彼らの目には、カナトが成長した証がしっかりと刻まれていた。彼は、ただ力を持つ者ではなく、選び、決断する者としての覚悟を持っていた。
そして、カナトは足を踏み出した。彼の歩みは、これからの未来に繋がる一歩であり、それがどれほど重いものであろうとも、彼はその道を進む決意を固めたのだった。