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第8章 失われた時の扉

カナトは深く息を吐き、目の前の光景に向き直った。力を放棄するという選択がもたらす代償を、彼は完全には理解しきれなかった。しかし、今はそれを選ばなければならないと感じていた。過去を修正するためには、何かを失う覚悟が必要だった。


ユウは静かにカナトを見守り、言葉を慎重に選んだ。「君の選択が、どんな結果を招くとしても、それは君が決めた道だ。それを恐れることなく進め。」


カナトは頷き、心の中でその言葉を噛み締めた。彼は一度も恐れを感じたことがなかったわけではない。過去の選択が全てを変えてしまう可能性を知りながらも、それに立ち向かう覚悟を決めた。


「力を放棄するということは、すべてを元に戻すことになる。」リナが静かに言った。「君が手にしたその力は、君の記憶にも、君の人生にも深く刻まれている。それを失うことが、君にとってどれほどの痛みとなるか、私にも分かる。」


カナトはその言葉を耳にしながらも、胸の中に温かい感覚が広がっていった。彼が選んだ道がどんなに辛いものであっても、それが必要な道だと確信を持てたからだ。


「でも、僕にはもう後戻りできない。」カナトは静かに答えた。「過去を変えて、失われた時を取り戻すためには、この力を手放すしかない。」


彼の言葉に、ユウもリナもただ静かに頷いた。時間の歪みが、彼の背後で渦巻き、扉が再び音を立てて開く。その扉の向こうには、彼が選んだ未来が待っているはずだった。


カナトはゆっくりと歩み寄り、手を差し出した。すると、扉の向こうから現れるのは、彼の記憶の中で何度も繰り返し見たあの日の光景だった。家族との温かな時間、仲間たちとの笑い声。だが、その光景にはひとつの違和感があった。それは、どこか不安定で、揺れ動いているように感じられた。


「これは…僕の過去、だけど何かがおかしい。」カナトは声を漏らした。


その時、突如として光が強くなり、目の前の景色がゆっくりと歪み始めた。家族の顔が崩れ、仲間たちの姿が消えていく。それらはまるで一枚一枚の絵画が引き裂かれるかのように、音を立てて崩れていった。


「これが、僕が選んだ結果だ。」カナトは自分に言い聞かせるように言った。「力を放棄し、過去を変えることで、この世界は新たに作り変えられる。でも、代償があるのは確かだ。」


リナは彼に近づき、ゆっくりと肩を叩いた。「カナト、君が選んだことを後悔しないで。どんなに世界が変わっても、君が選んだ道は君のものだ。」


その言葉を聞き、カナトは深く頷いた。心の中に迷いはもうなかった。彼は過去を変えるために、この力を放棄することを決めた。力を失うことで、どれだけ自分の記憶が薄れ、彼の存在が消えていくのか。それでも、他の誰かが幸せをつかむためには、彼が犠牲になるしかないと感じた。


「僕は…その覚悟を持つ。」カナトは静かに言った。


そして、彼は手のひらをゆっくりと広げ、力を放棄するための儀式を始めた。彼の体から光が放たれ、その力が彼の中からすべて抜けていくのを感じた。温かさが次第に冷たさへと変わり、まるで自分の存在が少しずつ薄れていくような感覚が広がった。


その瞬間、目の前の世界が一瞬で消え去り、カナトは何も見えなくなった。ただ無音の闇に包まれ、彼はただひたすらにその感覚に耐えていた。


やがて、闇がゆっくりと薄れ、カナトは再び目を開けた。目の前には、かつての世界の一部が姿を現していた。だが、それは彼が覚えていたものとは少し違っていた。家族の笑顔も、仲間たちの声も、以前のように鮮明には感じられない。しかし、確かなことは、それが新たな始まりを意味しているということだ。


「カナト、君は自分の選択を果たした。」リナの声が、優しく響いた。「そして、君の新しい道が、今、始まったの。」


カナトはその言葉を受け入れながら、もう一度自分の歩みを感じた。過去を変えたことが、すべての問題を解決するわけではない。しかし、彼はそれでも進むしかない。新しい未来を作るために。


そして、カナトは再び一歩踏み出した。

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