第6章 失われた約束
カナトはその手を見つめながら、一瞬躊躇した。手のひらに光が宿り、過去の選択を修正できるかもしれないという希望と、そこに潜む危険な真実が入り混じっていた。だが、リナの言葉が頭の中で繰り返される。「君が選ぶべき道は、君の選択にかかっている。だが、それを選んだ結果がどうなるか、君には分からない。」
「本当に、これでいいのか?」カナトは心の中で問いかけた。過去を思い出すことが、時間を修正する唯一の方法だと知りながらも、その選択が引き起こす可能性のある破滅に対する恐怖は消えなかった。
「カナト、迷っている暇はない。」リナが言った。「この時間の歪みは、君が決断を下さなければ、さらに深刻化する。もしも過去に戻らず、この歪みを放置すれば、君が知っている世界そのものが消えてしまうかもしれない。」
カナトはその言葉に背中を押されるように、一歩踏み出した。深呼吸をして、覚悟を決めた。
「分かった、やるべきことをやるんだ。」カナトはつぶやき、手を差し出した。
その瞬間、空間がゆらぎ、目の前に現れたのは、かつての仲間、そして今は失われた時間の中で失われた思い出だった。彼の前に立っていた人物は、以前カナトと共に戦っていた仲間のユウだった。
「カナト…」ユウは穏やかな声で言った。「君がこれを選ぶことを、私はずっと信じていた。しかし、君は本当に過去を変えてしまってもいいのか?」
その言葉に、カナトの胸は締め付けられた。ユウの目に浮かんでいるのは、どこか遠くを見つめるような深い悲しみだ。
「君が選んだ力は、決して無償ではない。」ユウは続けた。「それがどんな代償を伴うか、君は分かっているだろう?」
「代償?」カナトはその言葉に驚いた。「何かを失うって言うのか?」
ユウはゆっくりと頷き、カナトに向かって手を差し伸べた。その手のひらには、見覚えのある紋章が浮かび上がっていた。それは、あの時、彼が手にした光の力と同じ紋章だった。
「君が選んだ力には、常に代償がついて回る。」ユウは言った。「過去に戻り、時間を修正すれば、君は多くのものを失うことになるだろう。」
カナトはその言葉を反芻しながらも、どうしても自分の中で整理がつかなかった。彼は過去の選択を後悔していた。しかし、それを修正するために、何かを犠牲にしなければならないという現実を、どうしても受け入れられなかった。
「僕は…失いたくない。」カナトは苦しげに言った。「仲間も、家族も、僕の大切な人たちを。」
ユウは静かに目を閉じ、カナトの言葉に耳を傾けた。しばらくの沈黙の後、ユウが口を開いた。
「誰もが犠牲を恐れる。でも、時にはその犠牲を払わなければ、未来は変わらない。」ユウは言い、ふとカナトを見つめた。「君が選ぶべきことは、君の心にしか分からない。ただし、どんな選択をしても、その後に待つ運命を背負う覚悟は必要だ。」
カナトはその言葉を胸に刻み、ユウを見つめ返した。彼は何かを決意したように、ゆっくりと歩みを進めた。
「分かっている。」カナトは静かに答えた。「どんな代償があっても、僕は選ぶ。過去を修正し、未来を変えるために。」
ユウは微笑み、手を引っ込めた。その姿が、次第に霧の中に消えていった。カナトの目の前には、再び時間の歪みが広がる。それが、この先どんな結果をもたらすのかを、彼はまだ知らない。
「リナ、行こう。」カナトは後ろを振り返り、リナに声をかけた。「時間を修正するために、僕はもう迷わない。」
リナは頷き、カナトの前に立った。
「君の決断を待っていたわ。」リナは静かに言った。「それが、未来を変えるための第一歩。」
カナトは深く息を吸い込み、再び前を向いた。時間の歪みを修正するためには、過去に戻り、あの選択を修正しなければならない。その選択が、どれだけ危険であっても、彼は覚悟を決めて進むことを選んだ。
そして、二人は再び霧の中に消えていった。