表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

第5章 時間の罠

霧の中に消えたカナトは、心の中で湧き上がる様々な思いを抱えながら歩みを進めた。父親の言葉が頭の中を巡る。『過去に犯した選択』――それが一体何を意味しているのか。彼の記憶には、確かに何か大切な出来事があったような気がするが、それが何なのか思い出せない。しかし、何度も繰り返すうちに、カナトは次第に強く感じていた。彼の選ばれし者としての役割は、ただの使命ではない。これは、彼自身の過去、そして未来を変えるための試練なのだ。


「カナト、立ち止まっている暇はない。」リナの声が、霧の向こうから響いた。彼女の姿は、霧の中でほとんど見えなかったが、声だけははっきりと届く。カナトは急いで歩みを進めると、ようやくリナの姿を見つけた。


「リナ、僕は…」カナトは言葉を切った。リナは彼をじっと見つめ、そして静かに頷いた。


「分かっているわ、カナト。」リナは目を閉じて、軽く息を吐いた。「でも、これから進む道は簡単ではない。君が過去を解き明かさなければ、この歪んだ時間を直すことはできない。」


「過去を解き明かすって、どういうことだ?」カナトは強い疑問を抱きながら尋ねた。「僕の過去に何があったというんだ?」


リナはしばらく黙って考え込み、そしてゆっくりと答えた。「君の過去は、君が思っている以上に重要だ。その選択が、今の時間の歪みに繋がっている。」

「でも、僕は覚えていない。何を選んだのか、全然思い出せないんだ…」


その時、リナがカナトに向かって一歩踏み出し、軽く手をかざした。すると、カナトの目の前に突如として浮かび上がったのは、過去の出来事の断片だった。


それは一枚の写真のように、カナトの目に映し出されていた。彼が子供のころ、まだ小さな彼が手に持った何かが、暗闇の中で輝いていた。その光は、まるで特別な力を持っているかのように放たれていた。


「これが、君の選択だ。」リナが静かに言った。


カナトはその光を見つめる。写真の中の自分が手にしているものは、見覚えがあるような気がしたが、それをどうしても思い出せなかった。


「それは、君がかつて選んだ『約束』の証だ。」リナは続けた。「君が手にしていたのは、あの時の力。それが、時間の歪みを引き起こした原因だ。」


「僕が選んだ『約束』?」カナトは驚きの表情を浮かべた。「どういう意味だ? あの時、僕は何を選んだんだ?」


リナはしばらく黙った後、慎重に言葉を選んで話し始めた。


「君が選んだのは、ある力を使って、人々の未来を変えることだった。しかし、その力には代償がついてきた。君がその力を使った結果、時空のバランスが崩れ、歪みが生まれた。そして今、その歪みを修正するために君が選ばれた。」


カナトはその言葉を噛み締めながらも、心の中で混乱が募っていく。自分が選んだ力が、世界を歪める結果になったという事実が、どうしても受け入れられなかった。彼は、その力を使った記憶すらも失っていた。だが、リナの言葉を信じるしかない状況に、彼は気づく。


「でも、それを修正するためにどうすればいいんだ? 僕にはその力をどう使うべきか、全然分からない。」


「君は、過去の『結び目』を解くために、まず自分が何を選んだのかを思い出さなければならない。」リナは目を閉じ、少しだけ苦しそうに続けた。「君がそれを思い出した時、最終的に選ばれるべき道が見えてくる。だが、その選択がどんな形であれ、君の運命は変わらない。」


その言葉に、カナトはしばらく黙っていた。自分の運命を変えるためには、どうしても過去を直視しなければならない。しかし、過去を思い出すことができないまま進むことに、強い恐怖を感じる自分がいた。


その時、カナトの目の前で空間が揺らぎ、歪みが広がっていった。リナが急いでカナトを引っ張り、避けるように彼を導いた。


「これが、時間の歪みだ。」リナは冷静に言った。「君が選ばれたのは、この歪みを修正するため。君の過去を知ることが、時間を元に戻す唯一の方法だ。」


だが、その歪みの中から、突然何かが現れた。それは、カナトが思い出せないはずの人物――彼のかつての仲間だった。


「カナト…」その声は懐かしいものであり、同時に不安を呼び起こすものだった。「君が選ばれし者なら、どうしてこんなことになったんだ? 君は本当に、あの時の選択を正すつもりなのか?」


その人物の姿は、瞬時にカナトの心を引き裂いた。過去の選択が、これほどまでに深い影響を与えていることに、彼は今、直面していた。


「僕は…」カナトは言葉に詰まった。「どうすれば、これを解決できるんだ?」


その人物は微笑んで、カナトに向けて手を差し伸べた。その手の先には、かつて彼が選んだ力の象徴が光っていた。それを取ることで、カナトは過去と向き合い、時間を修正できるのだろうか。


リナはその手を見つめながら、カナトに告げた。


「カナト、この手を取るかどうかは、君次第だ。しかし、その先に待っている未来が、どんなものかを見極めなければならない。」


カナトは深く息を吸い込み、最後の決断を下す覚悟を決めた。未来を選ぶためには、過去を乗り越える必要があった。


そして、彼はその手を取るべきか、それとも別の道を選ぶべきか、もう一度考え始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ