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第4章 父の選択

カナトは息を呑んだ。目の前に立っているのは、間違いなく彼の父親だった。だが、その父親は、どこか違って見えた。カナトが記憶している父親とは、少しだけ異なる。目の奥に浮かぶ影のようなもの、そして、過去に抱いたことのないような強いオーラを感じる。


「父さん…?」カナトは震える声で呼びかけた。


その声が届いたのか、父親はゆっくりとカナトの方を見た。だが、その目に浮かぶのは、もう彼が知っているものではなかった。まるで全てを見透かしているかのような、深い瞳がカナトを見つめ返していた。


「カナト…君がここに来たということは、全ては決まったということだな。」父親の声は、かすかに響くように感じられた。どこか遠い過去から伝わるような、重い言葉だった。


「何を言っているんだ、父さん…?」カナトは戸惑いながら尋ねた。「どうして君がここにいるんだ?」


父親は静かに歩み寄ると、カナトに向かって手を伸ばした。その手には、何かが握られていた。それは、あの奇妙な紋章のような模様を持った小さな石だった。


「これを見てみろ。」父親はその石をカナトの目の前に差し出す。「君が持っているものと同じ、だろう?」


カナトはその石を見つめた。紋章の形が、彼の胸元に刻まれていたものと完全に一致している。だが、それ以上に不安な感覚が胸を締め付けた。


「どういうことだ…? これが僕の…?」カナトは手を震わせながら、その石を手に取ろうとしたが、父親がそれをすっと引き戻した。


「それは君が持っている『力』だ。」父親はゆっくりと語り始めた。「君が選ばれし者である証だ。だが、この力を使うには、覚悟が必要だ。」

「覚悟?」カナトはその言葉に深い疑問を感じた。「覚悟って、何を意味するんだ?」


父親はカナトの目をじっと見つめた。その瞳の中には、悲しみと同時に、何かを背負うような重圧が宿っているように見えた。


「君は、この『力』を使って時間の歪みを修正し、すべてを元に戻さなければならない。」

「元に戻す? でも、それって僕に何をさせるってことなんだ?」カナトは一歩後退り、父親から目を離さなかった。

「君が選ぶことだ。」父親は静かに続けた。「君が時間を修正するために、その力を使うか、それともこの歪みを放置して、全てが崩壊する未来を迎えるか。」

「そんな選択、僕にできるわけがない!」カナトは叫んだ。「僕がどうしてこんなことをしなければならないんだ?」


その言葉に、父親は一瞬だけ苦しそうに顔を歪めた。だが、すぐにその表情は冷徹なものに変わった。


「君が選ぶべきことは、最も難しい選択だ。」父親はゆっくりと語った。「君は、過去に犯した一つの選択を修正しなければならない。それが時間を歪め、この世界を危機に追い込んでいる。」

「過去に犯した選択…?」カナトは眉をひそめた。

「君は、かつてある『約束』を交わした。それを守らなかったことで、未来に大きな影響を与えることとなった。」

「約束?」カナトは過去の記憶を必死に辿ろうとした。しかし、思い出せるのは断片的な記憶ばかりだった。彼の記憶の中で、何か大切なことが隠されているような気がした。


父親はその時、深く息を吸い込んだ。そして、ゆっくりと言葉を続けた。


「君が過去にした選択が、未来にどう影響を与えるか。それを解決するのは、君の責任だ。君は『結び目』を解くために、この場所に来た。しかし、それは君一人の力ではできない。君には、他の『守護者』たちと協力する必要がある。」

「他の守護者…?」カナトはその言葉に耳を傾けながらも、依然として父親の言っていることが理解できなかった。

「君が交わした『約束』の内容を知っているのは、君だけだ。そして、それを解きほぐすのは、君の決断にかかっている。」

「僕だけ?」カナトは疑問の眼差しを向けた。


その時、突然、空間が歪み、父親の姿がぼやけ始めた。カナトは驚き、足を踏み出したが、リナの声が遠くから聞こえてきた。


「カナト! 時間が動き出す前に、選ばなければならない!」


その声を聞いた瞬間、カナトは父親を見つめることなく、背を向けてその場を離れた。目の前の空間がゆらぎ、霧が再び現れる。彼はリナのもとに急いで向かった。


「父さん…」カナトは心の中で呟いた。だが、その言葉はどこにも届くことなく、霧の中に消えていった。


リナはカナトが近づくと、静かに彼を迎え入れた。


「君が選ばれた理由が、少しだけ分かったかもしれない。」リナは言った。「でも、これからが本当の試練だ。」

「試練?」カナトは息を切らして言った。「どういう意味だ?」

「君は『結び目』を解くために、多くのものを失う覚悟をしなければならない。」

「失う…覚悟?」カナトはその言葉に強い不安を感じた。


だが、彼にはもう後戻りはできなかった。時間の歪みを直すため、彼の旅は続くのだ。

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