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異世界の灰被り姫

再び舞い戻ってきました。汚部屋。

魔法研究室…だったか。最初ユミィさんはそう言ってこの部屋を紹介したが、どうやら魔法研究室兼ユミィさんの自室になっているらしい。研究に没頭するあまり、この部屋以外の部屋は持て余しているんだとか。


というか、さっきからユミィさんと少しも目が合わない。汚部屋に住んでいるとはいえ、身なりや服装自体は凄く綺麗だし、汚部屋はユミィさんの隠してきた一面…だったのかな。


まぁ僕にとっては間違いなく第一印象が火球投げ汚部屋住み魔法少女だった訳で、ユミィさんの外面がどのようなものかは知らないけれど。


「さて…と」


この部屋、どう料理してくれようか。まずすべきは埃っぽさの解消だろう。それからカビ臭。研究道具が散乱しているのとかは、あまり触らない方が良いかな。というか触りたくない。


「掃除機がけ…するか。」

「ソウジキガケ…?」


ユミィさんと僕が円滑にコミュニケートする為に使っているという魔法は、知神の力を借りているらしい。知神とはいえこちらの世界由来の名詞とかは知らないのか、たまにユミィさんに理解されない単語がある。というか、掃除機を知らないのか。この世界は。やっぱりホウキを使って掃除をしているのかな…まあいい。さて、掃除機をかける前にまずこの部屋の様子を改めて確認しよう。そこそこ広いな。学校の教室くらいはあるんじゃないか?窓は無し、コンセントは…あるわけないか。ということは、延長コードを持ってきた方が良いかもしれないな。


「ユミィさん、少し準備するものがあるので、まず棚の上や机の上等の高いところにあるホコリをこれを使って取ってくれますか?」


そう言ってユミィさんに差し出したのは、「ハタキ」である。掃除機がけの基本のキは、まず高いところのホコリを落とすところから始まるのだ。掃除が苦手というユミィさんとはいえ、これくらいなら出来るだろう。


ユミィさんはキョトンとした表情だ。使い方が分からないのか?


「こうやって…高いところをパンパンと叩いてホコリを落としてください。」


少し実演してみせる。キョトンとした表情は変わらない。まさか、「ハタキ」すらない文明なのか?こちらの世界は。文明レベルが気になるな。一段落したら、お屋敷の外を見てみてもいいかもしれない。


ひとまずユミィさんにハタキを渡す。難しい仕事では無いはずだ。


「すぐに戻ってきますので、お願いします!」


そう言って、扉をくぐって現実世界へ。延長コードは祖父の工場で使っていた長いやつが確か庭の物置にあったはずだ。


♢♢♢


長年包囲されていた延長コードを物置から引っ張り出し、仮にも室内で使うのである程度綺麗にした。時間にして3分ほど。まぁハタキに慣れないユミィさんなら3割でも終わっていれば上等だろう。


そして、掃除機と延長コードを手にあちらの世界へ渡ると…


(どやぁぁぁ)


すごい!渾身のドヤ顔ですユミィさん!この汚部屋の主である事を踏まえると凄く滑稽にも思えてくる!このドヤ顔はどこから来るのだろうか。


「ハタキ?なんて私には必要ないのです!」


ユミィさんは言う。


「私は魔法使いですからね!風神どころか風の精の力を借りるだけで…ほら!」


そう言うとユミィさんは、この通気性の最悪な地下室に優しいそよ風を起こしてみせた。するとどうだろう。所狭しと並べられた本棚や、中央に置かれた机などからホコリがぶわっと落ちてくるではないか!ぶわっと落ちたホコリは中空を舞い、部屋中に充満して…


ベクシッ!!!!


「失ぱ…ベクシッ!!!しま…ハックシ!したぁぁ!クヂュン!」


さっきのドヤ顔はどこへやら。魔法使いらしい掃除方法で感動したかと思えばこの失敗だ。最初に客間で話した時には部屋の雰囲気も相まって、お上品なお嬢様系魔法使いという感じだったのに。今では灰被りのドジっ子系魔法使いといった感じか。本名はアッシュ=ユミーユ。灰のユミーユとはよく言ったもんだ。


と汚部屋大掃除仕様の2重マスク+防塵メガネ越しに考えていた僕だったが…


ベクシッ


おいおい…これすらも貫通してくるのかよ!


「一旦引くぞ!!!!」


思わずダンジョンで強敵に相対した時の台詞みたいなことを口走ってしまった。僕にとっての異世界生活ってなんなんだ。


♢♢♢


現実世界に戻ってきて、ユミィさんにもマスクを渡した。マスクのことも知らない様子だったが、僕の様子をみて用途はすんなり理解したらしい。


「それにしても…これはどんな糸を使って織っているのでしょうか?」


またも丁寧な言葉。さっきのドヤ顔でホコリを被った姿、その時の自信満々な言葉遣いを思い出すと、どうにも笑えてくる。


フフッ


笑いを堪えられずにいると、何がおかしいんです!と突っかかってくるユミィさん。元々年齢は近いだろうし、そもそも最初僕が敬語を使ったのも対応を謝れば殺される…!と思ったからで…


「もうお嬢様言葉は似合わないかも。ユミィさんには。」


少し砕けた言葉遣いでそう話しかけた。すると、少しはっとした顔をしてこちらを見つめてきた後、


「私はこれでも由緒ある家の娘なんですよ?それなのにそんな口聞いていいと思ってるん…クチュン」


瞬間、お互いに吹き出して笑ってしまった。昨日殺されると思った相手なのに、こんなにも居心地が良いのはなぜだろう。


「ユミィ。ユミィで良いわよ。」


ユミィさん。いやユミィはそう言った。

ユミィという響き。やはり懐かしさを感じる。どこかで会ったことがあるのか?全く身に覚えは無い…この感覚はなんなんだろう。まぁ今考えてもしょうがないか。


「分かったよユミィ。僕のこともヒロトって読んでくれ。」


「ユミィ。」「ヒロト。」


この響き…

やっぱりどこかで……


「じゃあヒロト、そろそろ部屋の中のホコリも落ち着いたんじゃない?それに…」


ユミィの視線が掃除機に移る。

ユミィにとっては、凄く新鮮に見えるんだろうな。この掃除機。


「気になる?これ。」


そう聞くと、凄く輝いた目でこちらを見つめて、うんうんと頷いてくれた。ユミィにとってこちらの世界の掃除道具は魔法に比べれば非効率的な「ハタキ」しか知らない状態だからな。刮目せよ。ユミィ。これが現代機械文明の利器よ!!


「さぁ行くぞユミィ。リベンジマッチだ。」


そう声をかけ、僕とユミィは重い扉を開け、ダンジョンの強敵掃討、もといお屋敷の汚部屋清掃に向かうのであった。

お読み下さりありがとうございます!

仁義なきptバトルを生き抜くためにも、

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