念願の異世界!!えっ…チート能力無し…??
異世界系のラノベは大好きだ。現実世界を生きる平凡な主人公が、チート能力やチートアイテムを手に入れて異世界へ転生!頼れる仲間達と冒険して世界を救う──
ただ、それらは夢物語、フィクションの世界の出来事だったのだ。
そう、たった今の今までは。
まさか、まさかまさかまさか!
僕が!!異世界転生を果たせるとは!!
ブロンドの彼女は不思議そうな顔でこちらを見つめている。どうやら、念願の異世界転生を果たした僕のにやけ顔に気づいているらしい。ふっふっふっ。驚くがいいさ。私の潜在能力に。早速鑑定スキルみたいなので調べてもらおうかな──
「君!」
と言ったところで気づいてしまった。そういえば名前を聞いていなかったな。
「そういえば、お名前はなんというんです?」
彼女は澄んだ瞳でこう言った。
「アッシュ=ユミーユと申します。ユミィとお呼び頂ければ。」
ユミィさんというのか。凄く可愛らしい名前だ。
「じゃあ、ユミィさん。僕の能力を鑑定するスキルとかってありますか?」
「えぇ、ありますが…」
「ちょっと僕の事を見てもらっても?」
ユミィさんにはどう思われているのだろう、ニヤニヤしたかと思えば、ドヤ顔で自分の能力を鑑定してくれと頼んでくる私の姿は。現実世界で考えると、ドヤ顔で履歴書を見せてくるみたいなものなのかな。まぁいいさ。見せた履歴書に旧帝国大学卒なんて書いてあったら、ドヤ顔の理由も分かるというもの。ちょっと嫌な奴、いやかなーり嫌な奴な気もするが、これから世界を救うんだ。これくらい。
「!?」
ユミィさんが驚きの表情を浮かべる。
気づいちゃったか…僕のチート級スキルに…
「どうなってるんですか…これ…」
もうドヤ顔が止まらないよおおおおおお!!!
「魔力値が0…スキルも魔法も0だなんて…」
その瞬間、僕はほぼ初対面の相手に中卒の履歴書をドヤ顔で見せてくる痛い奴となってしまったのだ。多分。
♢ ♢ ♢
「ぜ…ぜろ…?」
唖然とする僕、そしてユミィさん。
どうやら0という数値は普通に考えれば存在しないらしく、握力が0kgとかそんなレベルのことらしい。
「こんな数値…ありえません…」
震えた声でユミィさんが言う。
恐ろしく高い数値を見て同じ台詞を言ってもらいたかったんだけどな…
「なんて面白い人なの!ヒロトさん!」
おや。とたんに目をキラキラと輝かせてこちらを見てくる。チートスキルに驚いてって感じじゃなく、これは単純に面白がられているんだろう。
「私はね、実はディアーナ王立魔法学園に通っていて、魔法学を研究しているの!今まで沢山の人に出会って来たけれど貴方みたいな人は初めてよ!」
貴方みたいな人は初めて…って惚れてくれる時の台詞じゃないか!それをこんな実験動物を見つけたみたいなニュアンスで言われても全然嬉しくない!なんだこの異世界転生!!全然楽しくないぞ!
先程までのドヤ顔ニヤニヤ顔はどこへやら。徐々に引き攣っていく僕の顔。
しかし、忘れるな!ユミィという名の彼女が魔法使いである事が確定した今、何故我が家の父の部屋に来て、なぜ僕を攻撃したのか。その理由次第では、異世界転生して早々のゲームオーバーも有り得る!
表情をお客様対応モードに切り替えて、コホンと咳払い。まずは彼女の人物像を何となく知りたいな。それから、昨晩の事を──
「魔法学園?では、どのような事を勉強しているのですか?」
「時空間魔法の研究を!」
時、時空間!?すごくスケールが大きくなったぞ。まさか彼女、昨晩の感じからしてポンコツみを感じていたのだが、割とやりおるのでは…
「失礼ですが時空間魔法にはどのような種類があるんでしょうか…?」
と聞くと、先程までのテンションが少し下がった様子。自分の趣味にあまり共感して貰えなかったのと似たような感じなのか…?
「まぁマイナーと言えばマイナーな分野ですもんね…ええと例えば物を瞬間移動させたり…」
といって彼女はおもむろに取り出したコインを片手に握るともう片方の手に出現させてみせた。やってる事はマジックと同じなんだが、魔法を使っているという事らしい。
「他には?」
「実を言うとこれくらいで…」
バツが悪そうに彼女は答えた。どうやら、時空間魔法という分野はそのスケールの大きさからか難度が非常に高いらしく、小さな物体を片手から片手に移動させるくらいが彼女の限界なんだそう。高位の時空間魔法使いになると、瞬間移動が可能なんだとか。どこでも行けちゃうドアみたいなものな。凄いな。そして何より気になるのが、「時空間」の「時」の部分。
「タイムスリップとかが出来たりは?」
「それは出来ません。厳密には、時空間魔法の開祖は時間跳躍の使い手だったとされていますが本当かどうかは…由緒ある学問なので、今更名前を変更する事もしなくって…」
ちょっとガッカリだなぁ。どこでも行けちゃうドアに時間旅行も出来るなんて、夢の22世紀のネコ型ロボットが!と思ったのに。
それから軽く彼女の身の上を聞いてみた。
アッシュ=ユミーユ、ユミィと名乗った彼女は現在19歳、魔法学園に通い始めて半年との事なので、現実世界での大学1年生って感じか。そこそこ上流の生まれらしいが、両親は忙しいらしく、広い屋敷(今いる部屋もその一部屋らしい)に1人で住んでいるとの事。
そして──
「昨日ユミィさんがいきなり私の家に現れたように見えました。あれは一体?」
さぁ核心を突く質問。どんな返答が来る?返答次第では逃げ出す準備を…
「古魔法の研究をしていたら、急に扉が開いて…いきなり私の家に現れたのはヒロトさんの方じゃないですか!」
おや、おやおや…?これはお互いがお互いに原因は相手にあると思っている流れなのでは?でも残念ながら僕に魔法が使えたことは一度もないし、魔力は0らしいし!これはユミィさんのせいでしょう!
かくかくしかじか。そんな感じの理屈を伝えてみると…
「いいえ!それは違います!あの時私が研究していたのは古の時間跳躍魔法!そもそも成功するものでもありませんし、見知らぬ部屋へ繋げる魔法じゃありません!」
だそうだ。相手は相手で相当自信があるらしい。まぁ現場を見てみない事には始まらない。
そうして、ユミィさんと僕は昨晩の事件現場、この屋敷の地下にあるという魔法実験室へ向かうのだった。
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