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君と出会って。

君は「異世界転生」に憧れるだろうか。

人生に絶望した主人公が不慮の事故、それに神様の間違いなんかであっけなく人生を終え、チート級の能力を授かって異世界で無双する!なんて話を。


僕自身も憧れていたさ。でも現実はそう上手くいかない。部相応の一般人ステータス。言ってしまえば、RPGの世界に出自が少し不思議なモブキャラが1人増えたみたいなもんだ。


チート級の能力は?だって?


そんなものはないない。いや厳密に言えばあるのか…?でも能力かと言われると…うーーん。


まぁいいさ。これから皆さんにお届けしようと思うのは、ごくごく普通の一般人だった僕がひょんな事から異世界へ!という体験談。


読者の皆さんにはこのブログを通じて、来るべき異世界ライフに向けた攻略情報なんかをお伝えしようと思うので、ぜひぜひ見ていってくださいな。


では早速、私と異世界との邂逅について語りますか──


♢♢♢


んーーーーーーっ!!!!


大きく伸びをする。


サイトの開設に手間取り、ブログでもやるか!なんて決心してから、かれこれ5時間もかかっている。酔った勢いで始めた作業だったが、すっかり酔いが醒めてしまった。


そもそも、異世界体験ブログなんて誰が信じてくれるんだ?まぁ十中八九フィクションとして受容されるんだろうが、現実よりも重厚な異世界転生作品が跋扈してるこの世の中、異世界体験ブログなんて誰にウケるんだ?


とはいえ、そんな不安要素と5時間という労力を天秤にかければギリギリ5時間の労力が上回る。当たればラッキー、物は試しってことだ!


「ヒロト、長いことそのパソコン?を触ってたけれど何をしているの?」


振り返るとそこには、ブロンドの少女が立っている。名前はユミィ。


彼女のせいで?おかげで?僕は異世界〈ファルグンド〉と繋がることが出来た。


「まぁ、少しこっちの人間にも向こうの事を知って欲しいし、情報発信してみようかなって。」

「情報発信…ね。それにしてもこのパソコンって魔道具。遠く離れた場所にいる人ともツーシン?してコミュニケーションを取れるなんて…つくづくこちらの世界の魔法体系に謎が深まるばかり!知神様も真っ青でしょ!」


そろそろ慣れてきたかなと思ったが、ユミィのこちらの世界の物への反応は変わらないな。でも…魔法か。魔法の存在しないこちらの世界ではあるけれど、パソコンやスマホなんてやってる事は案外魔法そのものなんだろうな。


「それで?情報発信してどうするの?」

「まだ見ぬ仲間探し…かな?」

「なるほど…確かに私たちだけだとは限らないもんね。」


そうだ。別にこのブログが万人受けせずとも構わない。ただ見てくれるべき人が見てくれれば。


「最初はユミィとの出会いの話をしようかなと思うんだけどどうだろう?」

「あの話を事細かに書かれるのは少し嫌かも…。」


ふふふ。そうだ。僕と彼女、ユミィとの出会いはちょっと滑稽というかなんというか。まぁそういうエピソードもきっと読者にウケる材料ではあるんだろうな。


「さて…と」


気を取り直して、ブログ記事の執筆を再開する。

ユミィとの出会いは今から大体…2週間くらい前だったか。


♢♢♢


単身赴任で1人東京へ行った父の部屋の扉を久しぶりに開けるとそこは見知らぬ汚部屋だった。


薄暗いその汚部屋は、まるで長い間放置され続けた私の祖父母宅の倉庫のようで、独特なホコリとカビの臭いが鼻をツンと刺激するが…あれ?こんな部屋だったか?今から大掃除するってのになんだこのゴミ屋敷みたいな部屋は…


父は以前、ここで仕事をしていたようで僕にとっては気軽に入れるような部屋ではなかった。それもあってか、この大掃除シーズンまでかなりの期間この部屋に立ち入る用事もなかったのだが、それにしても汚い。まるで、父の部屋だけ全く別の汚部屋とそっくりそのまま入れ替わっているようだった。


「!!!」


ボソッと誰かの微かな声がした気がする。突然、暗い部屋が一瞬赤く光ったかと思うと、野球ボール大の光の球が高速で頬を掠めた。


「熱っ!!!」


何だ!?炎か!?


恐怖で足が竦む中、何が何だか理解出来ぬまま暗がりの先を凝視すると、目が慣れ始めたのか、ぼんやりと人影が見えてきた。


強盗!!殺される!!


急いでポケットからスマートフォンを取り出した。警察を呼ばねば。いや救急か?警察だ。警察の番号は何番だったか。“ひゃくとーばん”だ!しかし、ひゃくとーばんという音の響きを理解できても、それが何番なのかが分からない。まずい。パニックだ。尋常になく息が荒くなる。幼い頃から当たり前に覚えてきた緊急の電話番号。死を前にすると、あれだけ短くシンプルでも思い出せないのか。震える手で電話を起動しながら、“ひゃくとーばん”という音の響きが何番だったかを必死に思い出そうとする。消防に電話する時も警察に電話する時も110番台の数字だったはずだ。110…そうだ110番だ!


思考は一瞬。焦りの中で答えを見つける。


“1”をタッチ、もう一度!


スマホ全盛の時代に学生時代を過ごした僕にとっては1秒と経たずにタップ出来るであろう110。しかし、恐怖がそれをスローモーションに感じさせてくる。


あとは0を押すだけだ──


「動かないで」


動きが止まった。それは、その言葉によるものではない。その声が、とても強盗とは思えない美しさであったこと。さらに言えば、強盗だと思っていた人影から発せられた声がどこか懐かしく、恐怖を取り除いたからだった。


視線をゆっくり人影に向ける。


空中には、殺意を秘めた大きな火球が浮かんでいる。その赤光は人影の、いや少女の姿をはっきりと明らかにした。黒いとんがり帽に黒いローブ。ステレオタイプな魔女の格好は、まるでコスプレのように思えるが、立ち姿はまるで本物の魔女のよう。当然本物の魔女なんて見た事もないしきっと存在しないのだろうが、直感的にそう思った。


そして、なによりも凛々しい顔。

長く艶やかなブロンドの髪、火の光を受けて飲み込まれそうなほど輝く瞳。プルっとした唇…


いや待て?


飲み込まれそうなほど輝く瞳は、今にも泣き出しそうなほどうるうるとしているし、ぷるっとした唇というよりも、本当にプルプル震えているようで…


「う…うごかないでぇぇぇ」


先程の僕を恐怖から解き放った凛々しい声ではない。今度はどこか情けない震え声だ。強盗が住人に対して邪魔をするなと命じる声とは程遠いし、強盗どころか強盗の被害者っぽい…


キュイーーン キュイーーン


火事です!火事です!


「ぎゃぁぁぁぁぁあ」


突然、家庭用火災報知器のサイレンが鳴り響く。ハッと振り返ると、廊下の壁から火が出ているではないか!さっき頬を掠めた火の玉がそのまま引火したのかもしれない!火を放った張本人が何故か驚き、とんでもない悲鳴を上げている気がするが、今はそれどころじゃない!


都合良く11まで入力されたスマートフォン。急いで9を押す。1度死を前にしたパニックから解放されたからなのか、今度は冷静に。


「119番、消防署です。火事ですか?救急ですか?」

「火事です!」


電話をしていると、奥でなにやらぶつぶつ呟く少女の声が。


「あなたの名前と住所を言ってください。」

「齋藤ヒロトです!住所は愛知県…」


少女の声は段々と大きく、熱を帯びてきた。

一体なにを言っているのだろう。まあ今はそれどころでは無いが…


「おいお前!死にたくないなら一緒に逃げるぞ!」


聞こえているのかいないのか。少女の声はさらに熱を増し、ハッキリと聞こえる。


「海神ガイオスよ!大水を呼べ!」


魔法の詠唱みたいだ。火が広がっているというのにここまで魔法使いキャラを演じるかね??待て…さっきの火の玉…確かにこの少女が操っていたな…

あいつ本当に魔女なんじゃ…?


まぁいい。魔女だろうがなんだろうが、火に焼かれれば死んでしまう。


「おい!詳しい話は後で聞くから!死ぬぞ!ひとまず…」


「コール=ヒュド!」


──刹那。

少女の前方、空間が歪む。

これは…水!?


思うが早いか、いきなり水流に押し流される。

息が出来ない。苦しい。


「僕の人生…魔女に殺されて終わりかよ…」


そうして僕の意識はプツリと消えた。







♢ ♢ ♢







「──! ──さい! ──ください!」


海の中を漂っているような感覚。

どこかで誰かが呼んでいるような声が聞こえるが、心地良さすら感じるこの感覚にこのまま身を委ねていたいと思う。これが死ぬということなのだろうか。死んだのだとしたら、僕の死因は何なのだろう。記憶が濁っているようで何が起きたのかどうにも思い出せない。


思索に耽りながらも、どうにも心地良いこの空間。今は陽の光を浴びながら大空を優雅に漂っている。すると、フワフワと飛びながら天使がやってきて私に口付けをした。かなり整った顔をしている。


あぁ、この美少女に連れられて天国に行くのかな―


「──ください! ──てください! 起きてください!」


どうやら誰かが呼んでいるらしい。だがそんな事はどうでも良い!


「起きて!目を覚ましてくださいぃぃ!」


「僕は!美少女天使と一緒に天国へ行くんだ!!!」


―はっ!?


覚醒。

今のは夢だったのか、夢だとしたらやけにリアルで、心地よい夢だったなぁ。


ボヤけた記憶にボヤけた視界。これは…誰かが僕を覗き込んでいる??


目を擦り焦点を合わせると、そこには涙を目に湛えながら、なぜか今にも笑いそうになっている少女が居た。彼女はまるで夢の中に出てきた──


「天使だ…」


ボソッと呟くと、彼女は堪えきれず吹き出した。


「ぶっ…天使!?どんな勘違いしてるんですか!」


そう笑う彼女は、まさに夢で見た天使のようだった。ブロンドの髪の毛はサラッと長くツヤがあり、キリッとした瞳は涙でキラキラと輝いている。唇はぷるっとして…


待て待て待て待て!!!!!


記憶が蘇る。ハッキリと鮮明に。

死への恐怖と共に。


「ま…魔女…」


そうつぶやいて、僕はまた意識を失った。

たくさんの作品の中から見つけて頂きありがとうございます!


これが初投稿!今後の励みになりますので、

「良い設定してるな!」「続きを早く書いて!」

などなど少しでも思って下さったら、

「ブックマーク」「☆評価」で応援してくださると嬉しいです!

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