第2話 初訓練
朝、ルームメイトが起きる音で目が覚めた。
まだ眠いけど俺も起きなければいけない。
なぜなら今日は初訓練。
訓練開始時刻は7時と早い。
「マクロ。コーヒーいる?」
「うん。ありがと」
手渡されたコーヒーを1口飲む。
「ウッ……」
あまりの甘さに吹き出しそうになるのを何とか堪える。
「キアノス……これどんだけ砂糖入れたんだ?」
「いつもよりちょっと多いくらいだよ。どう?美味しい?」
「ああ。売れるレベルだこれは。糖尿病まっしぐらコーヒーっていう名前でな」
そこまで言って時計を見ると訓練まであまり時間が無い。
朝食を食ったらギリギリだ。
「朝飯食いに行くぞ。すきっ腹で訓練なんてできないだろ」
ジャージのファスナーが詰まって悪戦苦闘しているキアノスを連れて食堂に向かう。
ストリクト士官学校では士官候補生に栄養バランス
のとれた食事を無料で提供している。
強く健康な軍人を育てるには食事が大切という考えからうまれた制度らしい。
食堂に着くと無料の朝食を受け取り近くの席に座る。
「キアノス……。お前の朝食多すぎないか?」
「知ってるマクロ?腹が減っては戦はできないんだよ」
そう言って大量の食事を胃袋の中に入れていく。
「だいたいそんな量盛って貰えるもんなのか?」
「食堂のおばちゃんは『若いんだからたんと食べなさい』って言ってたよ」
おばちゃん……。
俺たち運動前なんだ。
―――
「私がお前達の訓練を担当するアメリア・マドレーだ。私はお前達に聞きたいことがある。お前達はここに何をしに来ている?そこのお前答えろ」
そう言ってマドレー教官は近くの候補生を指さす。
「えっ、えーと、軍人になるための訓練をしに来てます」
「そうだな」
教官はウンウンと頷いた。
「なのになんだ貴様らの甘ったれた面は!
ここは軍人を育てる場所だ。同級生と仲良しこよしする場所では無い!今から10秒数える。帰りたいやつはその間に帰れ!」
そう言って10秒のカウントダウンを始める。
「帰る奴はいないんだな?それでは訓練を始める!まずは私がいいと言うまで走れ!貴様らの甘ったれた根性叩き治してやる!」
教官の言葉に候補生が一斉に走り始める。
俺はペースを上げて先頭になった。
こういう所で教官の好感度を上げておけば成績が上がりひいては任務の成功にも繋がる。
かなりのペースで走っているのでついて来れる奴はいないと思ったが1人いた。
例の首席くん。ラスカ・バラサロナだ。
火星の荒れた大地で鍛えられた俺についてくるとはさすが入学試験総合1位の男。
侮れない。
「ほらそこ遅れているぞ!」
教官が後方集団に向かって怒鳴っていた。
そこにはお腹を抑えて走っているキアノスもいる。
めっちゃ険しい顔で走っていた。
それを見る教官の顔もかなり険しい。
「僕と同じペースとはやるな!」
「どうも」
よそ見していると首席君に並ばれた。
かなりのペースだが首席君には喋る余裕があるようだ。
そんな余裕がなくなるくらいペースを上げてやる!
そう思った俺がペースをあげる前に首席くんのペースが上がった。
「それでも1番はこの僕だ!」
「よーいドンって言えよ!」
ペースを上げた首席君をさらにペースを上げてぬく。
その俺を首席君は加速して追い抜く。
それをまた俺がぬかす。
これを何度かやった結果、全力疾走とまではいかないが両者かなりのスピードとなった。
首席君の顔にはもう余裕はない。
「負けず嫌いだな……ギブアップしたって……いいんだぜ」
「君に言われたく……ないね……まだ喋る余裕があるのかい?」
お前も喋れてるじゃないか!
それを言う体力は俺にはもうない。
「終了!準備運動はもう終わりだ」
俺が最後の力で前に出ようとした時教官が言った。
「準備運動程度でこれとは……。先が思いやられるな」
倒れ込んだ俺と首席君を見て教官が言った。
頑張った教え子に言うことかよ。
「立てるか?えーと、マクロって呼んでもいいかな?」
首席くんが差し出した手をつかんで立つ。
「いいよ。好きに呼んでくれ首席くん」
「その呼び方は好きじゃないな。ラスカって呼んでくれ」
心の中で散々首席くんと読んでいたのでつい口に出してしまった。
「そこ!早くしろ!」
見ると俺とラスカ以外はもうみんな教官について行っていた。
俺たちも慌てて教官について行く。
どんな訓練が待っているんだろうか。