STORIES 072: 古い友達(side. C)
2年ぶりに訪れた街は、いつものように色褪せて見えた。
海と農産物だけの生まれ故郷。
小学生になった姪っ子に浴衣を贈る約束をしていた私は、今夜の花火大会に合わせて帰郷した。
両親はさっきからずっとお喋りを続けている。
みんなが集まって嬉しいんだろうな。
蚊取り線香と、首を振り続ける扇風機、蝉の声。
祭りの開催を告げる花火が、ドンドンッと聞こえてくる。
そう、今夜だけはとても賑やかで華やかな街になる。
それで…
少しは私の気も紛れるだろうか。
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明くる日。
姪っ子たちはプールに出掛けて行った。
散歩中に、レディボーデンが食べたくなった。
あの子はストロベリーが好きだったかな。
オレンジジュースとカンパリも買って帰ろう。
冷蔵庫の中、ビールと酎ハイばかりだしね。
駐車場を抜けようとしたとき、見覚えのある車が入って来るのが見えた。
あいつかな?
どうしよう…
今はこっちの知り合いと関わるの、気分じゃないかも。
まぁ、1人だったら声を掛けてもいいかな…
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高校の頃から仲の良かったグループの1人。
音楽の好みが一緒だったし、なんとなく落ち着く話し方が安心できた人。
本人は自覚してなかったけれど、結構モテてた。
私の友達からも何度か相談された。
いつも同じ答えしかできなかったけれど。
あいつ、他の学校に好きなコがいるのよ。
中学の頃の同級生だって。
わたし?
趣味じゃないよ、ただの友達…
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いつものモノトーン、こざっぱりした服装。
度の入ったサングラス。
左目の下の古い傷跡を気にしていたみたい。
そんなに目立たないし、むしろ個性的な顔だから隠す必要もないのにな。
コンプレックスなんて個人の価値観の凝縮で、他人には計り知れない。
私にとってのそれは、背が高いこと。
色んな場面で損をしてきた気がする。
おーい、久しぶり!
やっぱり、夕食にでも誘ってみようかな。
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その夜。
海岸近くの洋食屋で食事したり、夜の砂浜を歩いたりしながら、取りとめもない話をして過ごした。
本当は、連絡しようと思っていた。
暫く会っていなかったし、ちょっと聞いて欲しい話もあったから。
でも、やめた。
不倫関係の末にこじれた上司との問題とか、そのせいで雰囲気が悪くなった職場の話なんて。
よく考えたら、彼には1番聞かせたくない話題なのかもしれない。
冗談を言い合っているくらいがいい。
最近じゃたまにしか電話で話せないし、ね。
変わらない声が心地よくて、落ち着く時間。
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家まで送るよと、彼が立ち上がる。
もうそんな時間なのね。
本当はまだ話していたかったな…
ありがと。少し気分が軽くなったよ。
なんだか気恥ずかしくなって、顔を見られないように先立って歩き始めた。
この暗さじゃ、表情なんてわからないと思うんだけれどね。
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私たち、付き合えたら良かったのかな。
もっと早くに?
これからでも間に合う?
でも、そういう縁じゃないんだよね。
それだけはわかる。
なんとなく、ね。
次に会うのは何年後になるのかな…