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そして愛は突然に  作者: 志波 連
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「ちょっと待ってくれ」


 アルバートが手を上げる。

 全員の目がアルバートに注がれる中、自ら車椅子を操りシェリーの前に回り込んだ。

 シェリーの手を取り、にっこりと微笑むアルバート。


「こんな体になってしまったから跪くことができないことを許してほしい。これからこの国を作り直していくみんなの前で誓う。僕はこの国を必ず立て直す。僕の代で終わらないかもしれないほど、今のゴールディは疲弊している。でも絶対に諦めない。僕が最後の息を吐き出すその瞬間まで、この国を想い、国民のために心を砕く。でも一人じゃ無理なんだ。君がいないと頑張れない。シェリー……愛している。僕と結婚してください」


 全員が驚いた顔でシェリーを見た。

 アルバートが差し出した手をとり、シェリーが微笑む。


「はい、ゴールディ王国新国王アルバート陛下。喜んでこの身と心を捧げます。私に機会を与えて下さり、心より感謝申し上げます」


「ありがとうシェリー。必ず幸せにする」


「ええ、愛しているわアルバート」


 レモンが一番初めに手を叩いた。

 そしてその場にいる全員が拍手をする。

 アルバートは照れながらシェリーの手の甲に唇を寄せた。


「はぁぁぁ~ 緊張した。断られたらどうしようと思ったよ」


 シュラインがお道化た口調で言った。


「今のは? 何かのゲームか? お前たちはもうずっと前に結婚してるだろ?」


 アルバートが嬉しそうに言う。


「だって兄上。僕はシェリーにプロポーズしていなかったし、そもそもが政略的な結婚だったでしょ? でも僕はシェリーを心から愛してしまったんだ。だから恋愛結婚として仕切り直したかったんだよ」


「拘ってたんだ?」


「というより、自信が無かった」


「まあいいさ。二人は納得したんだろ? お前が幸せになることはとても嬉しい。兄として改めて言うよ。シェリー、弟をよろしくね」


 シェリーが見事なカーテシーで応えた。


「アルバートの幸せこそ私の幸せですわ。義兄様、そして叔父上様。皆さんも改めてよろしくお願いします」


 もう一度部屋中に拍手が響く。

 シュラインがパンパンと手を叩いた。


「さあ! 始めよう!」


 全員が席につき、国をどう動かすのかの会議が始まった。

 宰相を中心として大臣たちが円卓を囲む。

 アルバートとシェリーはそれぞれの執務机に座り、文官や側近たちがそれぞれの主の後ろに立った。

 まず口を開いたのはアルバートだ。


「今まで本当によく頑張ってくれた。不甲斐ない王家を支えてくれてありがとう。この国が国としての体裁を保っていられるのも、すべて君たちの尽力のお陰だ。本当なら立ち上がって頭を下げて礼を述べるべきなのだが、僕は体を悪くしてしまってね。このままの姿勢で申しわけないが、謝罪をさせてほしい」


 アルバートがゆっくりと頭を下げた。

 円卓を囲んでいた者たちが一斉に立ち上がり、アルバートに向かって頭を下げる。

 アルバートと共に深々と頭を下げていたシェリーに、その光景は見えなかった。


「シェリー妃殿下、どうぞもう頭を上げてください」


 誰の声なのか分からなかったが、その声に怒りは無く、シェリーはアルバートが許されたのだと感じた。

 シュラインが大臣たちの方に向き直って続ける。


「この国の中枢を担うあなた方には、事の真相をお伝えしたい。ただし書面にはせず、口頭のみでの説明であり、メモをとることも差し控えていただく。それと申し訳ないが大臣職と王族でないものは退出するように」


 文官たちと侍従やメイド、側近たちまで部屋を出た。

 しっかりとドアが閉まり、部屋の外にも人の気配がない事を確認したシュラインが、ゆっくりと口を開いた。


「改めて心からの謝罪をさせてほしい。皆には苦労を掛けた。そしてこれからも苦難の道となるだろう。宰相としてではなく、王家の人間として申し上げる。本当に申し訳なかった。そしてありがとう」


 大臣たちが頷き、幾人かが拍手をした。

 顔を上げたシュラインが続けた。


「今回の真相はこうだ。ああ、言うまでもないが他言無用を約束して欲しい」


 シュラインの話を黙って聞いている大臣たち。

 ところどころ当事者であったアルバートやサミュエルが補足説明をしながら、淡々と事実だけが伝えられた。

 話が終わり、暫しの沈黙が流れる。

 誰も顔を上げない中、一番年配であろう財務大臣が声を出した。


「内容は理解しました。謝罪も受け入れます。これからの話をしましょう。ゴールディ王国の希望はまだここにある」


 大臣たちは顔をあげて頷いて見せた。

 ここからは実務の話となるため、一旦退出していた文官や側近たちを呼び戻す。

 シェリーは戻ってきたレモンに、お茶とお菓子を準備するよう伝えた。

 全員戻ったことを確認した財務大臣が声を出した。


「それでは宰相閣下、ひとつずつやっつけていきましょう」


 次期王はアルバートで承認され、サミュエルが国王代理となり、近衛騎士隊長を退くことになった。

 宰相を含めた大臣たちはそのまま留任、文官にも大きな異動はないことが確認された。

 グリーナ国との関係は、かの国の新王が決まり次第話し合うことになった。


「問題はバローナ国ですな」


「ミスティ家の養子殿のことも考慮しなくてはなりません。そうなるとヌベール辺境伯のところのエドワード殿の件も関わってきますね」


 会議はおおよそシュラインが想定していたものと同じような流れとなっている。

 シュラインは準備していたヌベール辺境伯の爵位の承継完了と、今は亡きロナード・ミスティの異常性を説明した。

 何人かは難色を示したが、次期王と次期王妃、そして国王代理という立場となった三人に説得され、最後には頷いた。


「さて、バローナの統治者を誰にするかですね」


 幾人かの貴族名があげられ、そのたびに議論が繰り返される。

 アルバートもシュラインも、黙って耳を傾けていた。


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