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そして愛は突然に  作者: 志波 連
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 辺境伯の後ろに回った妹の姿を確認したオースティンは、大きな声をあげながら辺境伯に正面から切りかかった。


「やあぁぁぁぁ!」


 廊下の部下たちを振り返ろうとした辺境伯だったが、オースティンの気迫に視線を戻す。

 一瞬でも判断が遅れていたら危なかったというタイミングで、オースティンの剣を避けた辺境伯の視線の端にレモンが映った。

 レモンの手には長剣が握られており、凄まじい気迫を漲らせている。


「待った! ここまでで十分だ!」


 辺境伯は低い声でオースティンとレモンを制した。

 二人は動きを止めたが、殺気は放ったままだ。


「わかった。あながちお前たちもバカでは無かったということがわかった。話し合おうではないか」


 シュラインがニコッと笑って辺境伯の前に進んだ。


「提案できる立場だとお思いですか? まずはその剣を僕に渡してください。ああ、無駄なことは考えない方がいい。レモンは勿論だが、皇太子の侍従であるオースティンの剣技も侮れないですからね。それに僕は時間が惜しいのですよ」


 フンッと鼻を鳴らした辺境伯が、剣の柄をシュラインに向けた。


「お前ごときに剣を奪われる日が来るとはな。私も年を取ったものだ」


 シュラインに剣を渡そうと手を伸ばし、それをシュラインが受け取った瞬間、シュラインは笑顔のままで握った剣の柄を押し出した。


「ぐふっ……きさま……」


 シュラインが柄から手を離し、自分の腹に刺さった長剣に手を添えた辺境伯を冷めた目で見た。


「詰めが甘いんだよ! おっさん! さっさと逝ってくれ! 国王が待ちわびているんじゃないか?」


 口から血を流し、恨みがましい目でシュラインを睨みつけていた辺境伯だったが、堪らずその場で膝をつく。

 その肩を思い切り蹴り飛ばしたシュラインは、返り血のついた掌をハンカチで拭きながら投げ捨てるような言葉を吐いた。


「大人しくしていれば天寿を全うできたんだ。何をいまさら出張ってきた? 娘たちを送り込んで地固めでもしていたつもりか? あんたの娘たちは言いなりになってたかもしれないが、如何せん頭が悪すぎたんだよ! あんたには家族に対する情ってもんが無いのか?僕はあんたの孫で、アルバートは甥だろ? このクソジジイが!」


 廊下で二人の護衛を難なく切り捨てたサミュエルが、剣の血を拭きながら戻ってきた。

 オースティンもレモンも苦しそうな顔をしている。

 サミュエルがシュラインを見た。


「もう良いか?」


「ええ、もう十分すぎますよ」


 シュラインが言い終わった瞬間、辺境伯の首が落ちた。

 本人のマントにそれを包み、サミュエルが立ち上がる。


「行くぞ」


 四人は何も言わずその場を去った。

 廊下を進みながらレモンが馬車の中で聞いたエドワードの計画を話した。


「だったらシェリーの様子を確認してから行こう。全てを信じるのは危険だ。そのメイドというのが本当に味方なのか見極めなくては」


 シュラインがそう口にすると、レモンがサッと顔色を変えた。


「仰る通りです。申し訳ございません」


「いや、君も攫われた状態で冷静な判断は難しかったと思う。ところでシェリーは?」


「侍女長の部屋に向かったはずです」


 四人は頷きあって侍女長の仕事部屋に向かった。


「邪魔するぞ」


 オースティンが声を掛けてドアを開ける。

 そこにはシェリーと二人の戦闘メイドが優雅にお茶を楽しんでいた。


「ご無事でしたか、妃殿下」


「良く分からないけれど、片付いたの?」


「ええ、舐め切っていたのでしょう。簡単でした」


 不思議そうな顔でシェリーが首を傾げたが、時間が無いとばかりにレモンが前に進み出た。


「妃殿下、主力はイーサン卿のところに集中しているはずです。我々はそちらに向かいます。妃殿下は……」


 最後まで言わせずシェリーが声を出した。


「私も行きます。アルバートと話をしないといけません」


「妃殿下?」


「とにかくそうします。このままメイド服で行きますから時間は取らせません」


 シュラインとサミュエルは顔を見合わせた。

 肩を竦めて見せたのはシュラインだった。


「では僕がここに残りましょう。辺境伯は地下牢に入れておきますが、尋問など無駄でしょうからしませんよ。進軍の噂を聞きつけた貴族達が集まってくるでしょうから」


「ああ、わかった。ではシェリー妃殿下、行きましょうか」


 結局シュラインとオースティンが王宮に残り、登城してくる貴族たちに対応することになった。

 サミュエルとシェリー、そしてレモンと二人の戦闘メイドが馬車に乗り込む。

 走り出した馬車の中でふとサミュエルが言った。


「おいおい! 私以外は全員女性じゃないか!」


 クスクスと笑い声が車内に響いたが、流れる空気は重たいものだった。


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