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そして愛は突然に  作者: 志波 連
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 そもそもオピュウムの花から作る薬は『麻酔薬』のはずだ。

 精神を高揚させつつ痛みを感じなくする作用を利用して、酷い怪我の治療や強い痛みを伴う病気の時に使う。

 それを健康な状態の者が使うことによるリスクは『依存症』だが、それを政治利用するなど誰が思いついたのか。

 シェリーは頭を抱えた。


「お父様が王命に逆らえなかったのは理解もできるし、薬として使うと言われたら断ることもできないわよね」


 シェリーは寝支度の済んだ私室で独り言を呟いている。


「なぜイーサンはそんな役目を引き受けたの?」


 誰も答えてはくれない。


「いつから? もしかして私と婚約していた頃もやっていたの?」


 だとしたら耐えられないとシェリーは思った。


「そういえばアルバートがブルーノを信じる切っ掛けはイーサンだと言っていたわね」


 ふと立ち上がり、窓辺へ向かう。

 薄紅色の分厚いカーテンを少しだけ開けると、窓に自分の顔が映った。

 

「なんて疲れた顔……」


 眠れないわけでは無い。

 ただ眠りが浅いのだ。

 アルバートと顔を合わせ無くなってからずっと、シェリーは良質な睡眠を得ていなかった。


「明日よ、明日」


 カーテンを閉じてベッドに潜り込む。

 いつの間にか寝息を立てていたシェリーの部屋に寝ず番のメイドが入ってきて、灯りを落としたのはそれから二時間も経った深夜だった。

 その頃、国王の執務室にはまだ灯りが灯されていた。

 テーブルを囲んでいるのは国王とミスティ侯爵と王妃、そしてグリーナ王国の第四王子であるグルックだ。

 第一王子であるブランの妃であるたローズが病身となったため、グルックが付き添って入国しそのまま滞在しているという触れ込みで滞在し続けている。

 グリーナ国内では、ローズが罹った病が移ってしまった皇太子が倒れ、その責任をとって離縁となったことになっている。


「あっちはどうだ?」


 国王がグルックに問いかけた。


「そろそろ頃合いかと」


「思考能力もなくなったのか?」


「周りには酷い熱病だと思わせていますが、如何せん第三王子が思いのほか頑張っておりまして」


「優秀だと聞いている」


「まあ時間の問題ですよ。第一王子と同じ母親ですから情もあるのでしょう」


「国王は?」


「第一王子の病状回復を待ち望んでいますが、熱病だと信じている様子です」


「ふぅん。存外無能だな」


「ええ、第二王子が立太子すれば全てが終わります。その暁にはお約束は守っていただきますよ?」


「ああ、あれか。それほどの価値があるか?」


「私にとってはありますね」


 国王は片眉を上げて蔑むような顔をした。


「ところでアルバートは?」


 ミスティ侯爵が口を開く。


「相変わらず通って来てはローズの側におられますよ」


「フンッ! まあ傀儡としてならまだ役に立つ」


 ミスティ侯爵は頷きながら笑顔を浮かべたが、目は全く笑っていなかった。

 そんなミスティ侯爵の横で、トロンとした目で黙っている王妃。

 王妃の顔をちらっと見たグルックが、下卑た目で舌なめずりをした。


「ところでバローナの方はどうだ?」


 グルックの視線を無視して国王が声を出した。

 ミスティ侯爵が答える。


「愚義息が暗躍しているつもりになっていますが、予定通りですよ。ただ王弟殿下の動きを妙に警戒している様子です」


「サミュエルの?」


「まあその方がこちらも動きやすいですから放置しています」


「そちらは良きようにせよ」


 国王が立ち上がる。


「来月には良い報告が聞きたいものだな」


 グルッグが頷いた。

 国王は王妃を置き去りにして退出していく。

 そんな夫など気にする素振りも見せず、王妃も立ち上がった。

 王妃の側に寄り添うのはグルックだ。

 一緒に退出していく後姿を見送りながら、ミスティ侯爵は小さい溜息を吐いた。


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