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そして愛は突然に  作者: 志波 連
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 シェリーにとっては初めてだったが、そもそも仮面舞踏会というのはそういうものなのだろう。

 来た時とは違うパートナーと二階に行こうとしているのに、誰も視線を寄こさない。

 見て見ぬ振りが暗黙のルールなのだろうか。

 最大限の気遣いをみせながら、階段に誘導するバラの君にシェリーが言う。


「慣れていらっしゃるのね」


「そうでもないさ。初めてとは言わないけれどね」


「まあ! 知らなかったわ」


「僕だって男だぜ? しかも若くて健康なね。もちろん結婚してからは君だけだ」


 シェリーは黙ってしまった。

 バラの君は迷うことなく二階の一室を目指した。

 てっきりバラが飾ってある部屋に行くものだと思っていたシェリーは、入ろうとしているドアノブの花を見て戸惑った。


「ここなの?」


「うん、ここだ」


 そこはバラが飾られた部屋の隣だった。

 ドアノブに飾られているのはリリーの花だ。

 戸惑いながらもシェリーは部屋に足を踏み入れた。

 ドアを閉める時、バラの君は飾られていたリリーをスッと抜き、指先で弄んでいる。


「花を取ったの?」


「うん、花が飾ってあるということは空室だという合図なんだよ。花がないドアは開けてはいけないというルールだ」


「ではさっきのは?」


「叔父上が用心したのだろう。最初からこの部屋を使うと伝えていたからね」


「あの二人は何処に行ったの?」


「もうすぐ来るんじゃないか?」


 そう言った途端に、クローゼットのドアが開いた。

 シェリーは危うく悲鳴を上げそうになる。

 バラの君が慌ててシェリーを抱きしめた。

 入ってきたのはサミュエルとオースティンだった。


「こういうカラクリか。知らなかったな。今後は用心しよう。まさか隣の部屋と繋がっているとは……これなら浮気のアリバイ工作も簡単だな」


 サミュエルが笑いながらソファーに座った。

 その横に座りながらオースティンがサミュエルに言う。


「今後って……利用されるおつもりですか?」


「淑女の前だ。ノーコメントで頼む」


 バラの君がバーカウンターからワイングラスを持ってきた。

 光る粒を纏ったワインの瓶に、ほの暗いランプの光りが反射する。


「これは少し辛口だけどおいしいよ」


 四人は静かに二回目の乾杯をした。

 コトンとグラスを置いたサミュエルが口を開く。


「さあ、全て話してもらおうか」


 バラの君が口角を一度上げた後、徐に仮面をはぎ取った。


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