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妄訳・曾呂里物語  作者: 帝江
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殺人の報いを受ける話(巻第一「人を失ひて身にむくふ事」)

 摂津国は大坂に兵衛の次郎という男がいた。


 ひどく好色な心根で、召し使っている女と密かに関係を持っていた。




 男の本妻はこれまた妬みの大変に烈しい性分で、かの『雨夜の品定め』にて嫉妬のあまり左馬頭の指に噛み付いたという女と同じ立場であったならば、指を嚙みちぎってしまうだろう、と思われるほどの嫉妬深さであった。




 ある時ついに、男が用事で出かけている間、本妻は浮気相手の女を捕まえると、井戸の中へ真っ逆様に突き落とし、水に漬けて殺してしまった。




 男はそんなこととは夢にも思わず暮らしていたが、寵愛する息子が病にかかって酷く苦しむようになった。色々と養生させ、祈念祈祷も行ったがその験はなかった。


 その頃、あまのふてらやの四郎右衛門という、天下無双と聞こえも高い針師がいたので、彼を招いて一両日ほど息子の治療をさせた。




 月のくっきりとしたある夜、四郎右衛門が縁に佇んでいると、どこからともなく非常に優雅な女がやってきて、彼に向かってさめざめと泣き始めた。


 不思議なことだと思い、何者なのか、と尋ねれば、


「恥ずかしながら、既にこの世を去った者です。私が使えていた主の北の方が、私にあまりにも惨い仕打ちをしまして、それを恨んで来たのです。あの子に針を立てても何の効き目もありませんよ。そなたは急いで帰るがよい! さもなくばここで目にものをお見せいたしましょう!」


と云った。


 四郎右衛門は肝を潰して、


「さては亡霊であったか! しかしどのような恨みなのか、其の方の跡をば懇ろに弔って差し上げますので、恨みを晴らしてはもらえないだろうか?」


 と云った。


「いやとよ! あの女の息子を取り殺さずにはおられようか!」


と亡霊がこの場を去ろうとするのを、四郎右衛門はあまりの不思議さから袖を引き留め、


「そうは云ってもどんな恨みをお持ちなのか」


 と問えば、亡霊はしかしかの事がございましたと、折檻は世の常ではあるにしても、あまりにも惨い出来事をありのまま語った。


 語り終えた女は、身の丈一丈もあろうかという姿に変じ、逆立った髪の毛は白銀の針のよう、角も生やし、眼は朱く、牙の生えた歯を食いしばっている有様は例えようもない。


 四郎右衛門はそれを見た瞬間、気絶した。




 そこへ主人が来て、気絶している四郎右衛門を見つけると、


「こはいかに」


 とようよう手当をして、四郎右衛門の気が付いたので、


「いったい何があったのですか」


と事の仔細を問えば、


「あまりにも恐ろしいものを目の当たりにしまして、夢か現かよくわからなくなってしまい、そのまま気を失っていたようです」


と、始めから終わりまで事細かに語った。




 兵衛の次郎はこれを聞いて、


「いかがすべき?」


と思い煩い、そうして一両日が過ぎた。


 彼は使いをやって四郎右衛門を呼び出すと、また二人で、


「いかがすべき?」


と相談を続けた。


 その夜のこと、四郎右衛門の枕に再びあの亡霊が立った。


「何をどうしようと無駄なことである。日数こそかかれども、一門眷属を順に取り殺し、北の方に思い知らせてやる」


と云うかと思えば、息子の寝室の屋根の上から大きな岩を落とした。


 息子は粉々に砕けて死んでしまった。




 北の方は、月よ花よと愛でていた息子を、恐ろしい失い方をしたので、嘆き悲しんでいたが、それから北の方の一門の人間は次々と死んでいき、ついには北の方も重い病で床に臥せた。




 人を惨い目に遭わせれば、相応の報いを受ける、というのは昔話で聞いたことがあるが、今でもあることなのだなあ。

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