表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄訳・曾呂里物語  作者: 帝江
4/11

鬼神を愛してしまった男(巻第一「女のまうねんは性をかへても忘れぬ事」)

 数年来、修行してきたある僧が、何か思うところがあったのか、一人の女に入れ込んで還俗した。




 そうして年月が過ぎたところで、この僧、つくづくこれまでの人生を思い返して、


「一度は出家の身となって、滅多にない立場にありながら、このまま空しく三途に帰ろうとしている。かえすがえすも口惜しいことだ」


と思い、ちょうど近所に尊き聖がおり、よくよく申し上げて、その聖の下で再び修行の日々を送り始めた。




 一方、僧と暮らしていた女は、彼が再び修行を始めた後も、折を見て寺を訪ねてきた。僧は女を疎ましく思うものの、この女、日頃から常軌を逸して気性が荒く、その度になんのかのと言いくるめて、やっとの思いで宥めて帰えらせる、という日々が続いた。




 そんなある時、僧は病にかかり、苦しみ始めた。


 病床にかねてよりの友人である僧を呼ぶと、こんな頼みごとをした。


「もしあの女が私を訪ねてきたら、『彼なら寺社へ参拝に出かけました』と伝えてくれ」


 案の定、女が寺へとやって来た。僧の居場所を尋ねられた友人の僧は、頼まれたとおり、


「彼なら昨日、寺社へ参拝しようという気持ちを起こして、どこへ行ったのやら、出かけていきましたよ」


と答えた。女は少し顔色を変えたようであったが、そのまま帰っていった。




 さて、その後、僧は快癒することなく、遂に涅槃に入ったのだった。


 日頃のこともあり、流石に知らせないわけにもいかないので、院主から女へ使いを出した。


 報せを受けた女は急いで寺までやって来ると、少しも嘆いた様子もなく、こう言い出した。


「この僧は五百回生まれ変わる以前より、我々の仇であった。こやつが成仏しようとすれば、色々と形を変え、この身を変じて、障碍を成して妨げてきたのだ。今生も、もし死に目に遭ったなら、なんとしても往生は遂げさせてやるまいぞと思っていたのだが……」


と憤怒の気色で、みるみるうちに、身の丈二丈はあろうかという鬼神へと変じ、口から火焔を吐きながら、天へと昇っていった。


 しばらくは雲の隙間にその姿が煌めいていたが、やがてそれも見えなくなった。




 このようなことは仏の教えでも説いていると云われ、わが身のことと恐れて、普段から慎ましく生きるべきである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ