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愚かな超能力者達は世界を蹂躙する  作者: 里道 アルト
プロローグ
9/16

ep9 面会

 「あなたも知りたがっていた実験台にされた『超能力者』のその一人。私の親友宮野 真理。昨日、面会の許可をいただいたので、会いに行こうと思いまして。どうせなら、知りたがっていたあなたにも会わせてあげようと思っただけです」


 香宮野はそう言った。僕としても知りたがっていた所だが、いざ知るとなると心が構えてしまっている。


 「僕はとりあえず、亜衣に帰りが遅くなるって伝えてもいいか?」


 「かまいませんよ。むしろ、こちらからお願いしようと思っていたぐらいです。なんせ、電車とバス往復で三時間はかかりますから。面会時間も入れて四時間ちょっとはかかると思います」


 今、一七時だから、帰ってこれるのは二一時くらいだ。僕は、おそらく、妹よりも遅くなる事が分かり、亜衣に電話を掛けた。


 なにか買い出しに行きたいとか言っていたが、僕がお金を持っていたので、駄目だと伝えるとしょぼんとした声で、「分かったのだ~...」と亜衣は言った。「僕がなにか買ってこようか?」と聞くと、「急いでないし、秘密なので教えないのだ~」とかよく分からない返答された。まぁ、急ぎじゃないならいいかと、僕は特に問い詰めることもしなかった。


 香宮野と僕は駅にいて、僕の隣で座っている香宮野は、僕たちの会話を聞いていた。話が終わると、「亜衣ちゃんとは仲がいいんですね」と言われた。確かに仲はいいほうだと思うが改めて言われると何だか照れくさくなった。あ、それでも別にシスコンとかではないが。


 「それじゃ、電車も来たことですし、行きますよ」


 「僕は、ついていくだけでいいんだよな」


 「はい、少し遠いですが。お金はありますよね?」


 「...二万ちょっとだけど」


 「まぁ、十分じゃないっすか」


 僕たちは、そんな会話を交わしながら、電車に乗り込んだ。



 僕は、夕ご飯を買ってこなかったことを思い出したが、時すでに遅し。全く、コンビニに寄る暇などなく、結局のところ何も食べれてない。このことを見越していたのか、香宮野の手にはサンドウィッチが握られており、僕のことなど全く気にせずその手を緩めることはない。


 それでもまぁ、おいしそうに食べるその姿を見ると邪魔はしたくないと思った。


 電車に一時間ほど揺らされ、その間はほとんど話さなかったが、バスに乗ると少しずつ香宮野は話し始めた。捕まってしまった宮野真理という少女の話を。


 「私は、彼女、真理が『彼ら』に捕まったという話を聞いたのは、彼女の能力を聞かされた日から約五か月後のことでした。その前から、彼女は学校に来ていなかったのですが、心配して電話で聞いても、『大丈夫だから』と言うばかりで。そんな矢先、彼女が捕まったと聞き、私は、父なら何か知っているかもしれないと思って急いで会いに行きました」


 もちろん、そこで彼女の話は終わらない。後悔と挫折の匂いを漂わせながら香宮野は続ける。


「ですが、父でもすぐには、面会させることはできないと言われ、結局、会えたのはかなり後、五か月後ぐらい。その時、私は、見るも無残な友達の姿を見ることになりました...」


 この時の香宮野は、普段は見せないであろう涙目になっていたように見えた。かける言葉もなく、僕は香宮野の言葉を聞く。


「私の手ではどうすることもできなかったんです。いえ、私の覚悟が足りなかったからだと今は後悔しています。でも、どうすることもできなかった。私は、その研究所から彼女を連れ出し、逃げ出しました。彼らが追ってこなかったのは、不幸中の幸いでした。私は能力者だと気づかれていませんでしたし、もう、研究が終わった後だったんだと思います。そして、私たちはあの人に出会いました」


 「あの人?」


 「真理の預かり先である病院、阿久津病院を紹介してくれた人です。名前は名乗ってくれませんでしたが、今も能力者の情報を頂いてます」


 「へぇ、そんな人もいるんだな...」


 「だから、私、自分の見たものしか信じないというあなたの考え方、好きですよ。私も、唯一信じられる人はその人だけですし、もう、誰も信じないと心から誓い私は、彼女を連れ出しましたから」

 

 僕のは、そんな高潔なものじゃない。話から察するに父親は()()()()、香宮野と宮野を会わせなかった。肉親に裏切られた、友達を救えなかったそのことが、彼女を責め続けているのだろう。そして、自分のせいで、本当に友達に危害が加わってしまったこと、それを後悔しているのだろう。


 香宮野の話が終わり、気づけば、目的地のバス停に着き、香宮野は「ここから歩きです」と言って、長く続く階段を指さした。


 僕たちは、険しい階段を上り、丘の上に立っている病院を目指して歩いた。十分もかからず着いたが、僕は息が上がっていた。周りには、緑しかなく、なんでこんなところにあるんだろうと不思議に思うほど不自然に阿久津病院と書かれた建物がぽつんと立っていた。そこから、少し遠くの方を眺めると、きれいな海が見えた。


 僕は、少し病院の外を眺め、香宮野に置いて行かれないように彼女の後を追いかけた。病院のエントランスに入ると香宮野は受付の方に向かっていった。


 「予約していた香宮野唯です。宮野真理さんの面会に来ました」


 「香宮野さんですか。少々、お待ちください。...確かに予約を確認しました。宮野さんは四〇三号室にいらっしゃいます。面会時間はどのくらいを希望しますか?」


 「とりあえず、一時間でお願いします」


 香宮野は、看護師から渡された一枚の紙に自分の名前を書いて提出した。僕たちは、その後、エレベーターに乗って四階に上がった。。エレベーターの中は、少し薄暗く、途中で止まることもなくすんなりと四階に着いた。


 扉が開くと、一つの部屋に向かって歩を進めていく。その部屋は個室だった。ほかの人の声など一つもしない。


 一つしかないベッドの上で一人の少女がうめき声のような、泣き声のような、それほど大きくもない叫び声を上げ、枕を引っ掻き回していた。枕だったモノは、大量の羽をまき散らし、ボロボロになっている。布団はすでに、大量の羽が溢れ出ていて、見るも無残な姿に変貌していた。


 「また、鎮静剤が切れてる」


 香宮野は、独り言のように少女は呟く。そして、宮野真理に寄り添って、近くにあるよく分からない機械のスイッチを押した。すると、宮野は、その動きを止め、落ち着いた。


 いつも、あんな感じなのだろうか。僕は反射的に驚いていたが、香宮野は慣れたという感じで冷静だった。


 その後、看護師の人がやって来たが、「大丈夫ですよ」と香宮野に言われ、その看護師の人は一礼して帰っていった。


 「良かったのか?それ。香宮野がやっても」


 「大丈夫ですよ。単に、薬を注入しただけですし、看護師の人も礼してくれたでしょう?」


 まぁ、香宮野が適切な処置をしたのは、火を見るよりも明らかだ。ボタンを押すだけで、宮野の動きは止まったのだから。


 落ち着いた後、宮野はうつろな目で夕日を見つめ、そして、また、あぁあぁと声を漏らす。


 「少し外に連れて行ってあげたいのですが」


 「手伝うよ。だけど、いいのか?勝手に連れ出したりして、家族でもないのに」


 「言ってませんでしたね。科学者に捕まったと言いましたが、正確に言うと、真理は親に売られたんです。だから、真理にはもう、親はいません」


 親は親権を放棄して、今は彼女のおじさんが親権を握っているそうだ。全然状況は違うが、今の僕たち家族と同じだ。


 彼女の体を持ち上げるとかなり軽く、たいした苦も無く、車いすに彼女を乗せることができた。少し暴れるかと思ったがそんなことは無かった。


 「ありがとうございます。では、少し外に出ましょうか」


 香宮野はお辞儀して、そう言った。


 「あぁ、そうだな」


 僕もそれに同意し、僕たちは、病院の外に出た。僕が少し気になっていた海の方に、僕たちは歩を進めた。相変わらず、宮野はうつろな目で、どこか遠くのほうを眺めては俯いた。


 そして、僕たちは、丘の上に立った。夕日が落ちかけ、海が赤く照らされている様子は、まるで、この世のものとは思えないほどで、僕は思わず「きれいだな」と呟いていた。


 「きれいですよね。あの人は真理を一番美しい場所にある病院に無償で入れてくれました。感謝してもしきれないくらい、私にこの道を勧めてくれたのもあの人なんです」


 「この道って、能力者を守ることか?」


 「はい。...ほんとに、すごい人なんっすよ」


 「お前は、その人のこと好きなのか?」

 

 「そりゃ、まぁ、はい。でも、どちらかっていうと尊敬してるっていう方が正しいですけど」


 僕たちが、会話していても宮野は全く入ってこない。おそらく、もう喋れるだけの能力が残っていないのだろう。廃人この言葉がよく当てはまる、それが能力者の成れの果て。騙されて、裏切られて、見捨てられて、最後には、物言えぬ体になってしまう。なんと、悲しいことなのだろうか。


 「やっぱり、興味も示しませんか。今の時間帯が一番絶景なんですけどね」


 「戻る兆しもないのか?」


 「今のところ、特効薬なんて作る気配もない。科学者たちはただ、私たちをモルモットにしたいだけ、それ以上の価値なんてないんでしょう。現に、昔の魔女狩りのように、特殊な能力を持つ魔女(わたしたち)を探そうと躍起になっているのに、聞かないでしょう超能力者(わたしたち)を見つけて、助けようとしているなんて」


 「分かっていたつもりだったけど、やっぱり深刻なんだな」


 「私たちは、パズルのピースに過ぎません。完璧を目指すなら小さいピースも必要かもしれません。ですが、大体の形を保つだけなら小さいピースなんて必要ない。そうなったら、元超能力者を治すメリットはありません。さらに言うなら、私たちの他にもスペアはいくらでもある。だから、彼らは私たちを助けてくれることはありません」 


 「.......そうか、やっぱり深刻だな」


 空は、こんなに明るく赤いのに、お先は真っ暗。能力者であるということは、ステータスであり、迫害の対象にされる。


 あるいは、未知のものを求める人間によって、実験動物のように使いつぶされていく。そんな酷い運命しか待っていないのかもしれない。


 僕は、身の毛がよだつような目に見えない恐怖に襲われた気がした。


 「私たちも明日にはどうなっていることやら」


 香宮野は独り言のように、不吉なことを言う。さらに、僕の体は震えているらしい。

 

 「怖いこと言わないでくれよ」


 「そうですね、必要以上に脅しすぎました」


 そんな風に返して、香宮野は、車いすを押して、宮野を病院の中へと戻って行く。もちろん僕もついて行って、宮野をベッドに戻し、寝かせてあげた。


 それから、僕たちは、バスに乗り、電車を使って、来た道を帰っていく。香宮野は、「では、また、明日。有羅木君の家で集合しましょう」と言って別れた。


 香宮野と別れた後、少しの間、呆然としていたが、夜遅くなって心配しているであろう亜衣のことを思い出して、僕は、夜の道を歩いた。







突然ですが、一年前を二年前に変更しました。今、時間軸的におかしな所がありましたら、報告していただきたいです。

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