ex5 束の間の休息
本当に休憩中。香宮野さんの話はまだ続く。
香宮野は自分のなりそめを話すと、少し休憩すると言い出した。
せっかく妹から隔離したのにまたぶり返したらどうする気だ、と思ったが口には出さなかった。ホールドはもう勘弁なのである。
それにしても高飛車で自由まなお嬢様なイメージとは一転してシリアスな家庭状況だと思う。友達の選択など普通は自分の自意思が尊重されるものだ。
それを真っ向から否定、しかも実力行使で引き裂くなんて旧時代でも稀だ。
そこまで撤底できるのは、そう言わせるまでに彼女の才能に価値を見出せたからなのか、それとも親の期待が甚大なのか、それは分からないが、他にもまぁ、普通とは違うのだろう。
かく言う僕の家庭も他とは違う。この家に「親」は、いない。父親と呼ばれる人の顔は、一度しか見たことがないし、母親は病で倒れてしまった。
この家の家計を支えているのは、河合に住むおじさんが毎月支給してくれるお金と大学の研究所で働いている兄さんの収入である。
兄さんは、大学に入ってからはあまり、顔を見せないが、元気でやっているのだろうか?と僕は家族の事を少し思い浮かべたてみたが、嫌でもあの日のことを思い出すのでやめることにした。
そうして、僕は区切りをつけ、自分の部屋から退出して、香宮野を追った。
ゆっくり歩いて、リビングに向かうとダイニングテーブルの三席のうち一席を占領している香宮野がいた。
まるでそこにいるのか当たり前というように全く違和感を感じなかった。
「早く座って下さいよ 亜衣ちゃんのご飯が来ますよ」
香宮野は上機嫌で、隣の席をバンバンと叩き、僕が座るのを促す。僕は香宮野の隣に反射的に座ったが、そこで、ようやくおかしなことに気付いた。
「どうして香宮野がここで夕食を取ることになっているんだ?」
「どうしてそんな怪訝な目でこっちを見るんですか?違いますよ。そんなに強情じゃありません」
「そんなにじっと見つめちゃってお兄ちゃん。やっぱり唯お姉ちゃんのこと...」
「違うってば。今日知り会ったばかりだって言っただろう」
急に話に入ってきた亜衣は僕の方を見てにんまりとしながら、そして、香宮野と向き合うと、
「唯お姉ちゃんが何をしても無表情なのは愛情の裏⋯」
「返しじゃありませんよ。私のは素です」
「やっぱリお二人はお付き合い...
「「してない(ませんよ)」」
今日の亜衣はひと味違う。なかなかにしつこい、厄介過ぎる。
そこまで意固地になっているのは、多分僕のせいだとは思うが、いくらなんでもお節介すぎる。無理矢理にでもくっつけようとしてるじゃないか。
僕は香宮野に、話を聞くこともできないのか?悩みの種が香宮野から妹に移ってしまって、これ以上言及する気持ちにならなかった。
が、一応香宮野はこそっと耳うちしてくれた。どうやら、リビングに行くと妹から質問攻めに遭い、何とかリビングから逃げようと試みるも失敗し、小腹が空いてお腹がぐぅーと鳴ると座らされ、ごちそうしてあげるのだ〜と言われたので座って待ていたそうだ。
表情の読み取にくい香宮野が純粋に笑っている気がするし、妹がなんだか、うきうきしてはり切ってる。これを後から来た僕が奪うというのは違う気がした。
だから、僕はこのまま何もしないことにした。ちなみに、妹の質問責めは僕の方に回ってきた。
「ハンバーグ今日はみんな大好きハンバーグ〜♪♪」
「いつもあんな風に歌ってるんですか?」
「いや、今日はいつもより上機嫌だからだろ」
「お兄ちゃんがカマってくれないからなのだよ?家事全般私に任せるのに〜」
「最低ですね」
香宮野は辛辣な言葉と鋭い目を僕に投げかけた。僕はちょっと身を引いて、
「まぁ、確かに悪いとは思ってるんだけどな。バイトで時間がつぶれるから」
「うちのお兄ちゃんは、バイトはものすごーく忙しいのだー」
「すまないな」
「なるほど、なるほどつまりは家計のために、働いているから仕方ないというんですか?」
なんかやたらと攻めてくるなと思ったが口には出すまい。そう思ったが、僕はむきになって言い返していた。
「僕たちの家庭のことだ。文句を言われる筋合いはない」
「ちゃんと反応してあげてもといいんじゃないですか?」
僕と香宮野はお互いの目を睨ませながらムーっといがみ合った。
まぁ、ただ香宮野の言い分は理解できる。
実際、僕は料理が下手だから、妹にはキッチンの立入りを禁止されている。僕がやるのは、冷蔵庫の中身の調達ぐらいで、家事全般は全て妹がやっている。たまに僕も手伝うが、バイトが多くてほとんどできなかった。
これだけ苦労をかけている妹にお返しもできてないのは問題だ。
今の僕があるのも妹のおかげで、感謝しても感謝しきれないし、本当にすごいと思う。でも、本来はこれは...と考えた所で僕は思考を一旦放棄した。
「お二人さん、夫婦げんかも程々にして、できましたなのだ〜」
「彼女じゃないし、なんだよ夫婦げんかって 、どこまで妄想膨らましてるんだよ!!」
「おいしそうですね、私もうお腹ペコペコなので、お先に食べさせてもらいますよ」
「どうぞーなのだぁ〜」
僕はどうやって妹を元に戻すか考え、げんなりする一方で、香宮野は自分目の前に出されたハンバーグに夢中になって、まるで子供のように、目をキラキラさせていた。というか、もう食べていた。
ほっぺたに右手をついて、おいしいですよとアピールすると、それに対して妹は、右手を前に出してグッジョブしていた。
僕も温かい内に食べたかったので、色々考えるのをやめて、食べてから考えることにした。そのハンバーグはなんだか、懐かしい味がした。
「なぁ、話の途中だけどもう帰るのか?」
「もう少しだけ話してから帰るつもりでしたが、ご都合が悪いですか?」
「いや、食べてからもう一度話して欲しい。まだ、全然、超能力者がどんな存在なのか分かってないし」
「それは、直接学校に行って実際にその目で確認した方が分かりやすいかと思いますが、話せる範囲で話しておきましょう」
香宮野から、その話が聞けるなら話は早い。大体の状況は知っておきたいものだ。
「(それにしても『なりそめの話』が、まさかここまで長いとはな。生まれてから今までの事をつらつら つらつら話すなんて。超能力を得る経緯を話すのにまだそこにたどりついてもねぇじゃねぇのか??)」
僕は、心の中で愚痴を呟いたつもりだったが、小声で口から出ていた。そして、その愚痴がすぐ隣にいる香宮野の耳に届き、
「言いましたね、今ちょーっと、私を小馬鹿にしましたね。えぇ、えぇ私だって気にしてましたよ。でも話し始めたら止まらなくなるんです。いいじゃないですか。悪いんですか?」
「ぎ、ギブ、ギブ。別に悪いとは思ってないし。本当の事だからって技をかけようとするのはやめてくれ!?」
食事をしている途中、多少の掴み合いがあった。妹はおもしろがって、「やっぱり好き同士なのだ〜」とか言っていたが何をどう見たらそう見えるのだろうか?
香宮野の頭に角が生えてきそうな形相に僕は真っ青になった。
そして、食事を終えると、僕と香宮野は再びにやにやした妹に見送られながら僕の部屋に戻り、彼女の話が再開した。
こんにちは、里道アルトです。序章も半分まで来ました。予定では、序章は星宮学園に行くまでのストーリーなので、有羅木が今の学校を辞めるところまでを予定しております。ちなみに、香宮野さんはまだまだ、自分の話をします。次回は、どうやって、彼女は「超能力者」になったのか?です。