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愚かな超能力者達は世界を蹂躙する  作者: 里道 アルト
プロローグ
4/16

ep4 香宮野の過去

 少女は有名な研究者である父親と有名な私立校の理事長である母親との間に生まれ、それほど苦もなく一日を過ごしていた。


 父親と母親の仲は大変仲睦まじく仲の良さは、はたから分かるぐらいだったと言う。


 少女が小学校に入ると、仲の良い友達が一人二人と徐々に増えいった。このまま、仲の良い友達と一緒にずっと過ごせるとさえ思っていた。だがそんな時は突然終わる。


 両親から中学は母親が理事長をしている所に入れと言われる。少女は、頑なに拒んだ。


 今まで一度も言う事を聞かないことはなかったのに と両親は頭を悩ませた。父親は、それを友達のせいだと、母親は学校のせいだと 本当は違うのに そう言い始める。

 

 少女はただ友達と過ごす日々をあきらめきれなかっただけなのだ。しかし、少女の思惑とは裏腹に、それは起こった。


 一番仲が良かった友達から「本当は あんたの事なんて嫌いよ。なんで私があんたと友達だと思ったの?」

と言われたのだ。

 

 少女はその時、多分初めて涙を流した。おぼろげな視界の中でそんな酷いことを言った『少女』も泣いていた。


 少女は意味が分からなくてさらに泣いた。少女の事を嫌いだと言った友達に理由を聞くことさえできなかった。


 それから間もなく少女は母親が理事長をしている中学になかば、無理矢理に入らせられた。一部の友達から『裏切り者』のレッテルを貼られたが、あの時のように涙を流すことは無かった。両親ともあの日を境に話さなくなった。


 ただ何の意義もなく、何の意味なく、新たに友達を作ることもなくつまらない日々を過ごしていた。


 そうして、中一のある日転起が訪れた。理事長の娘だからとかいうつまらない理由で、自分から、歩みよっても孤立していた少女にとある少女が付き添ってくれた。


 少女の名は宮野(みやの) 真理(まり)、おどおどした感じで絶対に友達になってくださいとかそういう事を言うタイプじゃないましてや、クラスで浮いている少女に話かけるなんてそんな大それた事できないと思っていた子だった。



 彼女は少女にきょどきょどしながら狼狽えて、でも、友達になってほしいと伝えた。少女は驚いた

顔をしたが、やがて嬉しそうに照れくさそうに「うん。お願いします」と答えた。


 宮野はおどおどした態度だったが根は真面目でしっかりとした子だった、友達は少女と同じで少なかったが、だからこそ、少女達が親友になるのにそんなに時間はかからなかった。


 彼女と時を経て仲良くしている内に、昔の記憶はだんだん薄れていった。そして中二の時、偶然にも、聞いてしまったそのせいで、再び記憶が戻ってくることになる。


 少女が家に帰ると両親は話し込んでいた。このまま自分の二階の部屋に向かおうとしたが、この時少女はなぜかふと立ち止まった。そして、聞くことになる真実は耳を疑うようなものだった。


 「やはり、小学生は簡単だったが、中学生になると難しいな」


 「もう、これ以上はやめて、あの子が友達を作ることの何がいけないの!?」


 「唯には才能がある。関わる人の選別をするのが親の役目だろ。だからあの時も引きはがした。お前も協力しただろ」


「確かに私はあなたの言う通りだと思ったわ。でも違った、あの日からあの子は話さなくなった。子供だからってあんなに強引にあの子達の仲を引き裂くべきじゃなかった。今は、後悔しているわ。友情というのを私達は軽じすぎたのよ」


「今は、そんな事を論じている場合じゃないだろう。今すぐにでも宮野真理とか言う子を退学させろ」


「そんな事させないわ。これ以上あの子の心を壊すような真似はしない。宮野真理もあなたに近づけさせない。分かる?私達だけがおかしかったのよ!!」


 少女は呆然とその話を耳にして立ち尽くしていたが、やがて、ゆっくりと音を立てずに二階の自分の部屋に戻った。


 少女はどうすることもできなかった。


 ずっと、仲が良いと思ってた両親が口ゲンカしている姿を初めて、見た。


 突然、友達が少女を裏切った理由を初めて知った。そしてまた同じ事が繰り返されるかもしれない。その事実が少女の胸をしめつけた。


 これは誰のせい?親のせい?違う。

 学校のせい?違う。

 友達のせい?違う。

 環境のせい?違う。違う。違う。違う。違う。違う。


 こんな世界に産まれてしまったから?


 私が、私だ私のせいで誰かが不幸になっている。


 私の何がダメなの?何が悪いの??お父さんの言っていた才能?私には、そんなの分からない。


 あ、そうか、私が目立たなくなれば、秀でたものが無ければ、平凡になれば、私はもう一度取り戻せるかもしれない。私を受け入れてくれる世界を...。


 そんな事を考え始めたのはこの時だった。


 少女は思い悩んだ末、一度、宮野真理と距離を置くことした。少女が彼女に近づくと、ほぼ間違いなく彼女に危害が及ぶからだ。


 理由を話せば、余計に関わってこようとするだろうから少女は話さない。彼女はそういう子だと一年も関わっていないけど、少女には分かっていた。


 だから、つらいけど、悲しいけど、寂しいけど、何も話さず離れることにした。


 それから、少女は日々、地味になろうと平凡になろうと努力した。


 しかし、それがとても難しいことだと分かるのに、そう時間はかからなかった。


 最初から持っている者は、持っていないの者の平凡や普通がどんなものか想像できない。当然にできていたものが全くできなくなるのは非常に難しい。


 ピアノで例えると、ピアノを昔、弾いていたなら、習っていたなら、今になっていきなり、弾いてくださいと言われて弾くのは難しいとしても、ドレミファソラシドの位置ぐらいは分かるだろう。


 まして、今 現役のプロのピアニストが、鍵盤の配置を忘れるなんてことは絶対ありえない。彼女がやろうとしていたのはそういう不可能に近いことだった。




 そうして、ちょうど『星のお願い』が叶ったという噂が事実だと認められ、ニュースに取り上げられるようになった頃、見知った少女が声をかけてきた。


 そして少女は、それを振り払うことも、無下にすることもできなかった。ずっと話したくても、話せなかった、関わらないことで守ろうとした少女宮野真理それは中二の夏の話だった。


 

 二人は近くの喫茶店に入り、気まずい沈黙の中それに耐えられず、少女はメニュー表を見始める。


 宮野も同じようにメニューを開いた。が、開いただけで何かを頼もうとかそういう素振りを見せない。むしろ、ずっと少女の方を眺めていた。


 そして、宮野はゆっくりと口を開いた。


「あのね唯ちゃん、ねぇ聞いてよ!」


 少女は今まで聞いた事がない荒げた親友の声を聞いた、と思ったら顔を隠すように開いていたメニュー表をバサッと取り上げられた 。


 目の前には、今まで見たことがない真剣なまなざしで少女を見据えていた。少女は宮野が次に口を開くのを待った。


 「唯ちゃん久しぶり。前は、声をかけても無視されちゃったけど、今日はいいの?」


 「私とあなたはもう友達じゃないんです。話すことなんてないはずです。なんで、かまってくるんですか?」


 「唯ちゃん、それ本心で言ってるの?」


 「当たり前じゃないですか、私達はもう何の縁もない...」


 宮野は急に右手を大きく振りかぶった、殴られる。そう思った。


 当たり前だ、勝手に近づいておいて、勝手に手放したんだから。むしろ、この程度の贖罪で済むなら安いものだ。目を閉じた。



 だけど、まだ衝撃が来ない。

 暗くて、怖くて。でも、いっこうに衝撃は来ない。

 

 そして、暗闇の中、衝撃や痛みとは真反対のなんだか暖かいものに少女の身体は満たされた。


 驚いて目を開くと、宮野真理が少女の体を抱きしめていた。暖かいと感じたのは、彼女の体温だったのだ。


 「嘘つき、じゃあなんで、唯ちゃんが泣いてるのよ。私が泣きたいぐらいなのに...。会う度に悲しそうな顔をして、気にしないでって言う方が無理だよ」


 さらに、宮野のは、少女をギュッと抱きしめた。


 「なんで、...なんで言ってくれなかったの?私達、親友でしょ。...唯ちゃん、ごめん。本当は、私のためなんだよね、私のために絶交しようとしたんでしょ?唯ちゃんのお父さんが私に何かする前に」


「なんで、知ってるんですか?私、一度も、...」


  宮野は一度手を離して、自分の目を指しながら、


「唯ちゃん、超能力って最近ニュースになっているよね。私もね、手に入れちゃったみたいなの。どう説明したらいいのか分からないんだけど、相手の言葉の裏を読むって言うのかな。相手の胸の内側に秘めている真実を読み取る的な能力。ただ、これ、話さないと使えないみたいで...」


「だから、私と話そうとしたんですか?なんで、どうして!?私はあなたに酷いことをしたんですよ!?私なんか忘れて、私なんかいなくても、あなたは別の誰かと友達なればいいじゃないですか!どうして、私に関わろうとしたんですか!!」


 言いたいのは、そんなことじゃない。本当は、分かってる。でも、これが最後のチャンスだ。ここで、私のことを突き放してくれたら...


 「だって、私は 唯ちゃんが、ううん。これは唯と私が仲直りするために神様がくれた『力』だと思うの。ねぇ、私達もう一度やり直せないかな?私、唯ちゃんともう一度友達になりたいよ」


 少女は小学生の時ぶりに大泣きした。それは、もう止まらないくらい、泣いて、泣いて、泣いて。 


 今、思い返せば恥ずかしくなるくらい大泣きした。


 途中で、ウェイトレスが駆けつけて、外に出て下さいとお願いされる程だった。


 帰り道、少女は冷静になって恥ずかしくなって宮野の顔を見ることができなかった。

 

 でも、あの言葉をないがしろには、なかったことには、したくなくて、だから、下を向いて宮野の手を掴んで少女は、返事を返した。


 「私ももう一度友達になって欲しいです。もう一度やり直せるでしょうか、私達」


 ポカンとした顔を宮野は一瞬見せて、彼女は言った。


 「もちろん、そもそも、私はもう友達に戻れたと思ってたよ。私は唯ちゃんのお父さんの圧力になんか負けないし、唯ちゃんに彼氏ができても離れるつもりなんてないからね」


 「さらっと恥ずかしいこと言わないで下さいよ。でも、ありがとうございます。嬉しいです」 


 「ははっ。久しぶりに唯ちゃんが笑ってるとこ見た気がするよ。ずっと思いつめてて何をする時も無表情だったから」


 「そうですか?でも、確かにそうかもしれません。もう誰も傷つけたくありませんでしたから」


 宮野は、少し険しい顔になり、うつむいている少女の顔を上げさせ、ほっぺを摘んでふにゅうと引っ張った。


 「唯ちゃん。一つだけ言っとくよそれは唯ちゃんのせいじゃないし、唯ちゃんが気負わなきゃいけない責任じゃない。唯ちゃんは色々、自分で抱えこみすぎなんだよ。どうしてもって言うなら、その荷を私に分けなさい。それが親友ってやつよ」


 少女はまた、泣きそうになった。嬉しくても泣けるということを少女はこの日二回も経験した。


 幸せだったこの日を少女は胸に刻んだ。


 反対してもいいと、逆らってもいい、反抗もしていいと教えてもらった。私も、覚悟しよう。


 怯えるだけじゃない、私の手でこの(ぬく)もりを守る。親とぶつかることになったとしても...。


 少女は心に誓った。

 






お久しぶりです。里道アルトです。今回は、香宮野唯ちゃんのお話、オンリーです。本文中の「少女」が唯ちゃんです。結構シリアスな家庭を描けたでしょうか?お父さんは結構、異常に見えたかもしれませんね。娘のためと言いながら、結構ギリギリなことをしてるかも...。それにしても、研究者と学校の理事長って実際にそんな組み合わせあるんですかね...。余談ですが、この世界の私立高校の学費はそれほど高くありません。合計すると公立の1.4~1.8倍ぐらいです。星宮学園は特別生徒枠(超能力者枠)があるので、ちょっと高め。


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