ep2 呼び出しと編入
学校での話は少ししかありません
朝の不思議な少女との出会いのことが今日一日、頭から離れなかった。友達と話していても、授業を聞いていても、全く忘れられそうにない。
僕が絶対にいないと思っていた『超能力者』で初めて出会った彼女は不思議な雰囲気を持つ、感情があまり表に出ない人だった。
彼女は一体、何者なのだろう。僕の名前は多分だが、スマホをいじくってる間に見つけたのだと思う。彼女の名前は聞き損ねてしまったが...。
時は変わるが、放課後、僕はなぜか校長室に呼ばれ、校長、副校長、教頭、学年主任といった堂々たるメンバーと面向かうことになった。すごい空気が重いし、ずっと気を張っている。どうして、こんな事に僕が。何かやらかしてしまったのか、と内心焦る僕に、僕が今日一日忘れられなかった少女の声が聞こえた。
「朝ぶりですね、有羅木暦くん」
「有羅木くん 彼女のことは知っているかね?」
副校長先生が彼女の後に続いて口を開く。こんな面々を呼び出せるだけの有名な人なだったのか? だがしかし、僕は朝の通学で初めて出会い、少し会話をしただけだ。彼女のことは全くと言って知らない。僕は、それを正直に伝えた。
「今日の登校中に少し話をした程度ですが」
「そうか。彼女から君の編入を検討してくれたのだよ、星宮学園の」
星宮学園、隣街の最も偏差値が高い学校で、僕では到底レべルに合わない。ましてや、編入学なんてさらに難易度が高くなるだろう。
そもそも、なんで僕は制服で気付かなかったんだ? いや、普通、全くの逆方向なんだから、仕方ないか⋯。
「僕には、難しいですよね」
「いや、君には編入してもらうよ。彼女は星宮学園の理事長の娘なのだよ。拒否権はないに等しい」
校長先生は重々しく口を開く。本校のレベルの差を気にしているのか、あるいは、名誉が欲しいのか、それとも星宮学園の理事長と面識とかがあって、そこで何かがあったのか?
僕には、想像もつかないことだが、とりあえず少女は星宮学園の理事長の娘であり、彼女からの推薦書を もらった今の僕は、この話を断るに断れないということ 。これが唯一の事実であると理解した。
「それで、僕はどうなるんでしょうか?試験なしに、入学なんてことはできませんよね」
「それは大丈夫ですよ。私の推薦をもらうだけで入学の資格を得られますから。なんなら、今ここで、それに署名していただけたら、あなたは、今からでも星宮学園の生徒です」
僕は校長をはじめ、他の重鎮達の顔を見渡すが、誰も、こっちに目を合わせようとしない。これは、言わゆる引き抜きという奴じゃないのか? という顔をしてみるが、誰にも伝わらない。よって、選択肢は一つだけ。
「よろしく、お願いします」
その言葉を聞くと、少女は不敵に笑った。僕の平凡な一日はこれで終わった気がした。
ようやく、重たい雰囲気から技け出した僕は、長く深くため息をついて、星宮学園の資料を眺める。
近辺では、最も入学が難しいとされている小中高一貫校は当たり前のように私立なので授業料が高い。しかし、この推薦では皆、授業料免除になるみたいだ。
もちろん、この推薦を理事長の娘である少女が行っているということは、星宮学園の最高責任者である理事長と推薦された者しか知らない秘密裏なもので、他言厳禁、もし、外に漏れてしまった場合、学園からの永久追放、及び学園が代わりに負担していた授業料その他諸々を支払わなければならないという枷も存在する。『絶対ばらすな』と手書きで書かれた一枚のA4の紙を見たときは、背筋が凍るかと思った。
そして、現在、僕は少女に言われ教室に残っているわけだが....。
「どうして、僕がこんな事に...」
「それはあなたが『超能力者』だからですよ? すみません、待たせましたか?」
後ろから囁くような声で、少女は話しかけてきた。彼女の名前は、注意書きのようなあの資料にも書かれていた。
「香宮野 唯さん?」
「ちゃんと資料を読んだんですね。ところで、ちゃんと誰にも見られない所で、読みましたか?」
「ここで読んだよ。誰も、残っていなかったから、誰にも見られてないだろうな」
「そうですか、それなら安心しました。このことは、あくまで、内密に行いたいので」
香宮野は、僕と同じで電車を利用するらしく、同じ帰り道を歩いている間に少しだけ話をしようということで、僕に残っていてほしかったとのことだった。帰り道の小さな石を蹴ったりしながら、僕は、香宮野に尋ねた。
「僕は本当に『超能力者』なのかな?」
「えぇ、あなたは、ほぼ間違いなく私たちと同類です。まぁ、それを確かめるべくあなたに編入を勧めたわけですが...」
「僕が『超能力者』であるという根拠は?」
「そうですね。見えないはずの私の姿を目視していたこと。私にとっては、これが一番決め手になっています。登校中にも、見せましたが、能力を使っている間の私の姿が見えているのはある特定の条件下にいる人だけです。あなたは、その条件を満たしていないにも関わらず、私の姿が見えていました。だから、私はあなたのことを『超能力者』だと結論付けました」
「本当にそんな『超能力者』がいないと成立しないようなそんな能力が存在するのか?」
「少なくとも私は、存在すると考えているんです。そして、だからこそ危険だとも」
僕は、なぜ、こんなに、自分が『超能力者』であることを否定したいのか、それは僕にも、もう分からなくなっていた。
目の前の少女が、『超能力者』であることも、正直まだ全然ピンと来ていない。それは、彼女が(表情が読み取りにくいこと以外は)普通の女の子と何も変わらずに見えているからだ。
これが一歩違えば、世界を滅ぼす危険な因子と見なされる。
なぜ、研究者たちは、『超能力者』のことを危険分子だと決めつけるのか。もちろん、突然人とは違う才能に目覚めた者の中には、その力に溺れ、自由勝手にする者もいるだろう。
しかし、それは全員が全員というわけではないと思う。むしろ、身に余った才能に振り回される、その可能性だってあるはずなのに。
僕が貰った資料に「科学者は敵」と小さく書かれていたのを思い出し、僕は、香宮野に尋ねた。
「危険っていうのは研究者たちに捕まることなのか? なぁ、なんで『超能力者』はそんなにも嫌われ役なんだ?」
「それは、...電車が来ましたね。それは、あなたの家で話すとしましょう」
香宮野は少し言い淀んで、とんでもないことを言い出した。あなたの家? 僕の家? つまりは、僕が住んでるマンション?
この少女は、事前の連絡もなく僕の家に来ようとしている!!
「まさか、お前」
「想像通りですよ。最初からあなたの家にお邪魔するつもりでした。善は急げ、レッツゴートゥー」
「レッツゴートゥー、じゃねぇよ!!」
僕は、この少女香宮野唯の邪悪な笑顔をこの時、初めて見た気がした。
本当に少しずつしか投稿出来ませんがよろしくお願いします。また、誤字等がありましたら、感想などで伝えていただけると助かります。