五回裏:最高のマウンド
七番の浜田は不運だった。
鋭いピッチャー返しで打ち返したが、セカンドが飛び付いてキャッチした。ファインプレーとしか言いようが無い。二塁に入ったショートにトスをして、スリーアウト。チェンジとなった。
柚木はマウンドに登る。
一点をもぎ取った。勝機がある。それだけで、相当にいい気分だ。
大きく振りかぶる。
ボールが、気持ちよく走った。
しゅるしゅると、指先から放ったボールが空気を擦り上げる音が聞こえた気がする。
乾いた破裂音が、三原のミットから響いた。
「ストライク」
インコースいっぱい。腹を抉り込むように、ボースが突き刺さった。
次の球。
大きく振りかぶる。
アウトロー。空振り。
「ストライク」
バットはボールの下を振った。振り遅れている。
続いて、三球目。
今度は、高めの釣り球。
「ストライク。バッターアウト」
空振りで三振。
次は六番だ。
けれど、何番バッターだとか、そんなことはどうでもいい気がした。気にすべき事は、如何にしてボールをミットに放り込むか。それだけ。
「ストライク」
インハイ。空振り。
「ストライク」
アウトコースいっぱい。見逃し。
「ストライク。バッターアウト」
真ん中低め。空振り。
こいつも、三球で仕留めた。
七番バッターが打席に入る。
柚木の視界には、もはや三原の構えるミットしか見えていない。意識はすべてそこだ。
「ストライク」
見逃し。
ストライクゾーンが広い。踏み出した左足の、すぐ前にストライクゾーンがあるような。延ばした手の先にストライクゾーンが届いているような、そんな感覚を柚木は覚える。
「ストライク」
内角高め。空振り。
無言で、何も考えること無く柚木は大きく振りかぶった。
「ストライク。バッターアウトっ! スリーアウト、チェンジっ!」
真ん中低めにボールが突き刺さる。バッターは手を出さなかった。
体が、恐ろしいほどに軽いマウンドだった。