二回裏:攻略方法
二軍チーム四番、須崎がバッターボックスに立った。
しかし、柚木はそれをただ冷ややかに見るだけだ。
このチームは点が取れない。そういう活躍は期待していない。
須崎は二軍メンバーの中では唯一、体格がいい。赤城には及ばないが、身長も170 cmを超えている。米倉の基準を考えれば、その体格だけで一軍入りしている。
そして、実際に以前は一軍に入っていた。しかし、どういうわけか絶望的にミート力が無い。他校との練習試合に出て、須崎がバットにボールを当てているのを見たことが無い。
そんなわけで、米倉も須崎を使わなくなり、彼は二軍の仲間入りとなった。
他のメンバーもそうだ。いくら村井が他校のエースと比べて、それほどでもないとは言っても、それで攻略出来るかというと、そうは思えない。
「ストライク」
須崎が大きく空振りをした。ひでぇもんだ。前よりも酷くなってないかあいつ? ボールとバットが何センチ空いているんだよ? これじゃあ、村井も投げやすいだろう。
柚木は隣に座る三浦を見た。
しかしだ。ふと、こいつは気になる目をしていた。妙に熱心に、村井と須崎を見ている。
「何、真面目に見てんだよ?」
「悪いか?」
「いや、別に?」
ただ、その理由がよく分からないだけだ。
「俺は、言っておくけれど、勝ちたいんだよ。あいつらに一泡吹かせたい。だったら村井を攻略しないとダメだろ」
「手があるのかよ?」
三原は首を横に振った。
「悔しいけど、まだ思い浮かばない」
だろうなと柚木は思う。柚木だって、これまで考えなかったわけではない。しかし、それでも思い浮かばなかった。
「柚木はどうなんだ? 勝ちたくないのか?」
「一泡吹かせたいっていう気持ちは同じだ。けれど、勝てるかどうか」
「何でそんなこと言うんだよ?」
「じゃあ、打てんのかよ? 村井の球、前に飛ばせるのか? 須崎以外、一番から三番まで振り遅れているんだぜ? それに、当たったとしても、長打になるとは思えねえし」
三原は怒りに顔を歪めた。
柚木は謝らない。これは事実だ。
「お前、俺達に打たなくていいとか思ってんのか?」
「んなわけあるか」
吐き捨てる。
「じゃあ、つまりは打てるものなら、打って貰いたいんだな?」
「当たり前だろ」
「じゃあいい」
「何がいいんだよ?」
柚木は深く嘆息した。
バッターボックスで須崎が三振したのが見えた。何球かファールを打っていた。須崎にしては、粘った方だろう。
「村井はさ。確かに悪くはないピッチャーだと俺も思う。低めに丁寧にボールを集めて、長打もあまり打たれない」
「そうだな」
「でも、他の学校から打たれるときは打たれている。特に、ランナーを溜めると浮き足立つ事が多い。俺はそう思ってる」
「まあな」
もう少し言えば、それには米倉からのプレッシャーも影響しているような気がする。
「じゃあ、ランナーを出す方法とかあるか? フォアボール狙いで少し構えを小さくするとか」
三原は顎に手を当てて頷いた。
「悪くないな。それ」
「マジかよ?」
「マジだ。俺ら、須崎を除けば身長は低い方だ。それが、不自然でない範囲ででも、少しでも構えを小さくすれば、投げる方としてはプレッシャーにはなるだろ」
「まあ、確かに投げる方としては少し嫌だけど」
その感覚は柚木も多少は理解出来る。確かに、赤城はバッティングは恐いが、逆にストライクゾーンにボールを放り込む意識で考えれば気楽だった。逆に、後続の浅村とかの方が、どこかボールを置きに行く感覚に陥りそうで、投げにくかった。
「だろ? そういうのが続くと、ストライクを取りにくくてピッチャーは嫌なんだよ」
「しかし、それでランナーが出ても、長打は難しいんじゃないか?」
「そこは仕方ない。長打は頭から捨てよう。とにかく、ランナーを溜めてゴロでも何でも打てば、チャンスはあるはずだ。それで、こっちが負けた試合だってあるわけだし」
「それもそうか」
策、と言うには、ほとんど運頼みで弱い。しかし、贅沢は言っていられない。今出来ることを出来る限りやるしかないのだから。
カキッと気の抜けた音が聞こえてきた。ボテボテのゴロがショートへと転がっていく。
ショートが流れるような動きで、キャッチして一塁へと送球。アウト。
「スリーアウト。チェンジっ!」
柚木は肩を竦めた。
「やるとしたら、次の回からだな」
「そうだな」
正直あまり休めていないが。肩が冷めなくて、ある意味では丁度いいくらいだ。