表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

二回表:巨人への挑戦

スラッガーとの対決

 バッターボックスには四番の赤城が立っている。

 こいつは、中学で既に身長が180cm近い。大人顔負けの体格をしている。こいつだけは、この学校の野球部のメンバーで本物と言ってもいい怪物かも知れない。柚木にしてみれば、見上げるほどに身長が違う。


 実際、米倉からも信頼が篤い。

 日頃から知っているが、素振りのヘッドスピードが速い。棒きれか何かでも振っているのかと。

 そこに立っているだけで、威圧感を振りまいている。

 柚木は赤城を睨んだ。臆するものか。


「プレイボール」

 柚木は大きく振りかぶった。これまでの投球と何も変わらない。全身の力と殺意を込めてボールをミットへと放り込む。


 狙うはインハイ。

 腕は地面へと叩き付けるように、しかし向かうボールはリリースポイントよりも上になる位を意識して。


 キンッと甲高い金属音が響いた。

 バックネットにボールが弾かれる。

「ファールボール」

 舌打ちする。当ててきやがった。擦らせすらしたくなかったというのに。


 だが、僅かだが差し込んだ。当たったのもバットの根元だ。

 今度は三原がアウトローにミットを構える。セオリー通りの配球だが、それでもインハイの印象は頭に焼き付く。

「ファールボール」

 バットの先端に当てられる。一塁線を割ってボールが転がった。


 つくづく、嫌な野郎だと思う。今のもバットを振るのはタイミングとしては、これまで相手した一番から三番よりも遅かった気がするのに、それでも食らいつく。

 三原は、もう一度アウトローへとミットを構えた。ただし、右手で「より外へ」とジェスチャーを送ってくる。柚木は頷いた。カウントは悪くない。


 柚木はミット目掛けてボールを投げた。

 赤城は少しだけ反応する素振りをしたが、バットは出さない。

「ボール」

 ホームベースから僅かに外したボール球は見極められた。


「OK。赤城ナイセンナイセン。見えている見えているよ~っ!」

 一軍ベンチが活気づく。たかだか一球外したくらいで、おめでたい奴らだと思う。

 今度はインハイか。

 こっそりと、気付かれるかどうかは分からないが、プレートの左端へと移動する。少しの違いだが、こっちの方が、角度が付いて打ちにくい気がした。


 無様に仰け反れやがれっ!

 渾身のストレートは一直線に赤城の胸元へと抉り込んでいく。

 キィンッと、金属音が鳴った。

 鋭い打球。テレビで野球を見ていると、これはホームランだと分かる打球があるが、それだ。


 柚木は振り向き、打球を目で追う。

 高く舞い上がった打球は三塁線を大きく割り、レフトの脇にある体育館の壁に当たった。

「ファールボール」


 一軍ベンチから歓声と野次が上がった。ファールボールだっていうのに。調子に乗りやがって。

 とはいえ、さっきはまともに芯を食われた当たりだった。

 柚木は嘆息する。さて、次はどこに投げるか。

 三原は高めにミットを構えた。今度は上へと人差し指を向ける。「上に外せ」ということか。分かったと頷く。


 真ん中高めの釣り球。見逃せばボール。

 赤城は手を出した。

 鈍い音。ボールはバックネット裏に。空振りはしなかった。


「いいぞーっ! タイミング合ってる合ってる」

「ヘイヘイ、ピッチびびってんよ~っ!」

 どうかな? 釣られる程度には、赤城を追い込んでいる。柚木は逆に、そう確信した。


 三原が今度は真ん中低め、膝の高さギリギリにミットを構える。

 柚木は振りかぶった。

 限界を感じるほどに、歩幅を広げて、上半身を落として。

 地を這うようなストレートが伸びていく。


 赤城は体を震わせた。しかし、手を出さない。

「ストライクっ! バッターアウト」

 低めいっぱいに、ストレートが突き刺さった。

 赤城の顔が驚愕に染まる。そして、溜息を吐いて肩を落とした。

 手を出せなかったんだな。柚木は堪らない愉悦感を覚えた。


「ナイスボール。柚木」

 投げ返されたボールをキャッチする。

 ふと、一軍ベンチを見た。先ほどまでの活気はどこに行ったのやら、途端に静かになった。ああ、それでいい。そのまま静かにしていろや。


 五番がバッターボックスに入る。

 しかし、赤城に比べれば随分と迫力が足りないように思えた。お前らなんか、恐くはない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆沢刀也が書いている別の連載小説。
この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ