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七回表:最後のマウンド

 六回の裏が終わった。

 六回の結果は無失点だった。四番の須崎は三振。五番の浅井は内野ゴロ。六番の仲村はフォアボールで出塁したものの、七番の浜田が内野ゴロで倒れた。


 けれど、内容は悪くない。打者はたったの四人だが、それでも30球近くは村井に投げさせている。他の回にも投げさせているから、100球は大きく越えている。120球くらいは投げさせたかも知れない。


 村井の交代が有り得るのかと思ったが、三原曰く恐らくそれは無いそうだ。

 主な理由は、三つ。今まで米倉がそこまで考えてピッチャー交代をした事が無い。村井の代わりのピッチャーが育っていない。三点のリードをしている状態で、点差をひっくり返されるとは考えにくいだろうということ。


 一方で、柚木はここまででの球数は100球程度だ。6回には打ち込まれ、随分と投げさせられたが、他のイニングが10球から20球程度に抑えている。

 「ただ、流石に限界か」というのが、柚木の自身に対する冷静な見立てだった。


 バッティングピッチャーとして、全力ではないにしろ毎日のように投げ込んで、ランニングなども走り込んでスタミナには自信があるつもりだった。けれど、ペース配分も滅茶苦茶に投げてきたのだから、こんな無茶なピッチングが続くはずも無い。

 こんな奴をよくもまあここまでリードしたものだと、今更ながらに三原に尊敬の念を覚える。


「柚木-。しっかりな」

「打たしていけ」

 マウンドに立つと、背中に仲間の声が当たった。

 小さく笑みが漏れる。何言ってやがる。お前ら下手くそじゃないか。信用出来るかと。でも、そんな声が今は力強い。


 六回の裏は休憩に徹した。意識は切らさないまま、出来るだけ脱力する。そして、深呼吸を続けていた。

 それがどれほどの効果があったのかは分からない。けれど、今は疲れは感じても、体はまだ軽い気がした。


「プレイ」

 審判の宣言から少しだけ間を置いて、柚木は大きく振りかぶった。

 ボールをギリギリまで軽く握る。全身から力を抜く。左足を真っ直ぐ、大きく、ホームベースへと向けて踏み込んで。リリースの瞬間にだけ、指先に神経を集中させる。

 拳銃を撃ったような音が、グラウンドに響く。


「ストライク」

 審判が右手を挙げた。

「OK。ナイスボール柚木」

「その調子だ。さっさと仕留めようぜ」


 楽しいな。そして、嬉しい。味方の声援を受けながらの野球は、ピッチングがこんなにもいいものだなんてな。

 返されたボールを受け取り、柚木は嘆息した。もっと、こんな気分で野球がしたかった。こんな風に、ピッチャーをやりたかった。

 これが最後のマウンドだというのは、残念に思う。


 柚木はベンチに座る村井を見た。遠目でも分かるくらいに、肩で息をしている。視線は地面に落ちていた。

 村井。悪いけど、お前を休ませるつもりは無い。

 残りの三人、さっさと終わらせて貰う。

 第二球。柚木は大きく振りかぶる。

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漆沢刀也が書いている別の連載小説。
この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-
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