エピローグ
「ねぇ、おじいちゃん?このお花綺麗だね。持っていっても良い?」
「裕基、何度も言っているだろう‼ここはそのお花のお家、つまり生きる場所なんだ。人間の都合で、抜いたりしてはいけないんだよって。」
裕基は小野井武士の孫で息子の武三郎の子供である。小野井は終の住みかを鹿屋に構えていた。71歳になった今でも、海上自衛隊OBとして毎朝、海上自衛隊鹿屋航空基地の周辺に咲くオオキンケイギクの水やりをしている。その他一切の整備を海上自衛隊から任されている。正に生き字引だ。
70歳を越えても尚、その活力は衰えない。今ではオオキンケイギクは鹿児島県の観光スポットである。
裕基も来年度はいよいよ中学生になる。いつまでも子供ではないが、鹿屋に何度も来るようになる内に、裕基の夢は自衛官になる事になる。祖父としては嬉しいやら悲しいやら心中は複雑だ。ちなみに、裕基の父である小野井武三郎は現役の自衛官である。階級は2等海佐である。武三郎は、裕基の自衛隊入りを歓迎している。反対する理由はどこにも無いからだ。
既にいつ死んでも良いと思っていた小野井武士は、裕基にお願い事を申し付けていた。
「なぁ、裕基?お前がどんな人間になっても、じいちゃんがいなくなったら、この黄色のオオキンケイギクに水やりをしてくれないか?」
「うん。分かった!俺やるよ。」
裕基はその花の意味すら知らなかったけれど、じいちゃんの命令には逆らえない。小野井武士は、孫にこう伝えた。
「花びらは散る。花は散らず、種を残す。」
特攻隊員の象徴ともなったオオキンケイギク。通称特攻花。その花の存在は、日本人が犯した過ちをいつまでも後生に伝えるものだと信じて、小野井武士は、水やりをする。記憶の風化は避けられない。だが、周囲の家族にはきちんと伝わっている。この花は、希望であり、忘れたくない過去の集合体でもある。
それでも小野井武士は、今日も水をやる。孫と和気あいあいと、それとなく伝える。もう2度と同じ事が起こらないように祈りながら。小野井武士は、語る。いくつもの時を重ねたとしても、特攻隊員達の国を思う気持ちがあったからこそ、今の日本国があるのだと。決して良い結果には為らなかったかもしれない。それでも特攻隊員の死は決して無駄なものでは断じてない。
「じいちゃん、僕軍医になりたい。」
「ほう?じゃあ目指すは防衛医大だな。」
「ぼーえーい医大?って何?」
「防衛医科大学校。じいちゃんでも行けなかった学校だ。勉強しなくちゃ入れないぞ?」
「うん!じゃあ僕勉強頑張る。あ、水やり…。」
「任せておけ。この小野井武士あと20年は生きてやる。それまでは心配はしなくていい。」
「軍医になっていーっぱい人を救うんだ!」
「偉いな。裕基は。だが、時には戦わなきゃいけない事もある。」
「どんな時?人は何で戦うの?」
「お互いの正義の為だな。」
「何で戦うのかは自分で考えろ。」
「うん!じゃあ僕行かなくちゃ。」
「おう!行け行け裕基!またな‼」
「BYE-BYE!」
「さ、行くぞ。裕基。」
「父さん俺、防衛医科大学校に行く!」
「おう!頑張れ!死んだ母さんも喜ぶよ。」
こうして一人の若者は険しい道を選ぶ事になった。
完




