汚れなき愛国心
P-51ムスタング、グラマンF6F、ボートシコルスキーコルセア等の後発航空機や、マンハッタン計画による原子爆弾の開発等はその最たるものだろう。
そんな有名なマンハッタン計画と同額程の金をかけたという兵器に小野井は注目する。その名を近接信管或いはVTヒューズという。
砲弾の先が小型レーダーになっており、砲弾の周囲何十メートル以内に航空機が入ると、その瞬間に信管が作動して爆発するという代物であり、これにより日本海軍の特攻機は数多く落とされた。言うなれば、対特攻機対策兵器と言える。
とは言え、この兵器にも盲点はある。海面すれすれを飛行するモノには作動しないという事だ。その為、対空砲火を逃れようと、海面すれすれを狙って突っ込んで来る稀有な特攻機には苦労したようだ。
この兵器が威力を発揮したのが、マリアナ沖海戦であり、日本海軍はこの戦で航空母艦2隻と、航空機300機に加えて、日本海軍の至宝であるベテラン搭乗員を失い、アメリカに引導を渡されてしまう。
戦況が苦しくなった日本は、突き上げた拳の収め先を探す事になるのだが、その頃にはもう、最早戦果ではなく、死ぬ事が目的になってしまう。特攻と言えば聞こえは良いが、自殺攻撃というのが国際常識となっていく。
特攻の悲しさはそこにあった。海軍や陸軍の面子の為に、はかない命を散らせた若者の多さには呆れる。本来、普通の判断力がある軍隊ならば、成功の可能性が0%、或いは生きて帰れる見込みの無い作戦は中止する。
ところが、昭和の日本陸海軍は、違った。大本営は国民に嘘をつき続け末端の兵士や将兵をも欺いていた。ここに日本が負けた最大の要因隠されていた。と、小野井は思う。
現在の自衛隊にあって、国民の生命と財産を守るべき為にある戦闘機や艦船を隊の面子の為に犠牲にする事は有り得ない。倫理的な問題よりも、現行の体制で特攻は出来ないのである。
それは確かに戦前からのアンチテーゼであり、反省と内省の賜物なのかもしれない。それでも小野井は思う。特攻隊員として散って行った英霊の御霊は経緯はどうであれ、恐らく汚れなき愛国心と、家族や愛する人の為に、愛する人の日常を守らんが為に飛び立って行ったのだと。
そのくらいの覚悟がなければ、多分逃げ出す筈である。小野井は、ただ調べるだけじゃ駄目だと、思った。戦争の記憶が風化して行く時代。戦争体験者も高齢者になっている。その灯火が絶える前に一人一人とはいかなくても、特攻に行った人の気持ちを想像出来ない様では、これはただの学生レポートになってしまう。小野井はそう思うように変わった。
アメリカが憎いとは思わないにしても、せめて、なぜ日本とアメリカが戦う事になったのかという事についても調べなければいけなかった。