日浦3佐が進めた小野井の想いを伝えるあとがき
日浦3佐の元に小野井が訪れたのは、絵本の出版直前の事であった。
「小野井も、これで夢の印税生活だな。」
「茶化さないで下さいよ。自分は絵本の売上で食って行こうなんて微塵も思ってませんよ。」
「分かってるよ。お前の作った絵本が商業向きじゃないって事は。」
「でも、売れて欲しくないか売れて欲しいかって言われれば、やっぱり売れて欲しいですよ。」
「人間そんなものさ。折角出版するんだ。売れた方が良いに越した事はない。」
「そんな訳で、今日は絵本の最終チェックをしてもらおうと思いまして。」
「俺よりプロの編集者に見てもらった方が良いのでは?」
「いえ。これは、絵本製作のきっかけを作って下さった、日浦3佐に見てもらいたいんです。」
「成る程な。お前も色々考えている所が有る訳か。」
「とりあえず時間も無いでしょうから、ささっと読んで頂ければ。」
その言い草は無いだろうと、想いながらも渡された"特攻花"を日浦3佐は読んだ。
「悪くはない。それなりに多くの読者が理解出来るような内容にはなっている。恐らくこれは、かなりの反響が出るだろう。だがな、大切な事が抜けている。分かるか?」
「大切な事ですか?」
「お前の意見や、主張がこの絵本には反映されていない。これじゃあただの歴史教科書だ。あとがきでも追記して、自分の意志を述べた方が良い。」
「そうですか…。あんまり主張が強すぎるとアクが強いかなと思いまして、意識的に削除したのですが。」
「少なくとも俺は、読者なら作者の意図を知りたくなるはずだ。絵本という構成上、作者の意図が伝わりにくい媒体ではあるから、作品の中に主張を入れるのは難しいかもしれんが、あとがきとして800字位で自分の意志を述べておけば及第点だな。」
小野井は日浦3佐に言われた通り、あとがきを追記した。まだ製本していなかった為に、ギリギリで間に合った。そのあとのがきを見た日浦3佐今度こそ、OKサインを出した。あくまで、素人の目から見た曖昧な評価ではあるが、小野井が知りたかったのは、一般の読者の目線であった。
"特攻花"を周知させるため、全国を回り出版に向けた準備を進めて来た小野井の挑戦も、いよいよ終盤戦を迎えつつあった。そして、事態は以外な展開を見せる事になる。




