安岡の語る特攻論
「しかし、毎日毎日特攻が繰り返されて行くと、恐ろしいもので、感覚はマヒして来る。最初のうちは悲しみの涙もあったが、人間という動物は、そんな地獄の様な環境にも適応する力があるのだ。」
「日本が負けるのは、時間の問題だと言う事は最前線にいる特攻隊員や特攻要員には、言われなくても感ずいていた。」
「あの当時の日本には始めた戦争を上手く終わらせる事の出来る政治家も軍人もいなかった。言わば不幸な時代だったのかもしれない。戦後の手の平返しの民間人には、怒りを越えて殺意すら覚えた。」
「あれだけ万歳突撃を煽っておきながら、アメリカ万歳、民主主義万歳なんだから、都合が良いにも程がある。ワシはどうやら長く生きすぎたのかも知れないな。」
「戦後は確かに困難な時代であった。それでも、戦時中の地獄に比べれば所詮ぬるま湯の温度が少し上がったくらいの、モノだった。ワシは右翼ではないが、8月15日には、言われなくても必ず靖国神社に参拝し、玉串を納める。」
「それが、亡くなって行った者達への、生きている者の務めだと思うからだ。ワシには2つだけ悔いがあった。それは、日本本土への空襲と原爆投下を防げなかった事だ。」
「恐らく、あの時生きていた帝国陸海軍将兵は皆、同じ気持ちだったと思う。無論、自己保身に走った者や責任逃れをした将兵は沢山いた。それでも、日本人として恥じない生き方をしろと教育された戦前、戦時中の人達の中には祖国のピンチを救えなかった無念さが、あったとワシは思うちょる。」
「特攻は確かに、酷い作戦だった。それでも、片道分の燃料で爆弾や魚雷を抱えて、機銃や対空砲火の嵐の中を突っ込んで行った英霊をワシは…。英霊の死を無駄にはしたくない。」
安岡は涙を拭うとこう言った。
「よく、考えたら特攻は不経済な作戦です。折角乗りこなせる様になったパイロットと決して安くない航空機を2つ同時に無くすのですから。それでも特攻を止めなかったのは、当時の日本人全員が、アメリカに勝ちたい。神国日本は負けない。という思いが強すぎたからです。」
「判断力の欠如ですか?」
「そうとも言えるかもしれません。その甘さが未来ある多くの若者を死に追いやったのです。」
安岡は、すっかり冷めたお茶を飲み干した。
「今日は貴重な時間をありがとうございました。とても勉強になりました。」
「どう致しまして。」
小野井は、帰り支度を始めていた。
「そうだ!小野井君、私の上官だった宇野倉滝三という人物に話を聞くと良い。」
そういうと、安岡は宇野倉の住所を渡した。
「君の様な熱心な若者がいて、ワシは嬉しいよ。」
まさか上官からの宿題とはとても言える訳もなく。安岡は小野井を笑顔で見送った。




