小野井武士鹿屋基地に着任
2020年4月1日、一人の若者が、この物語の舞台である、鹿児島県にある海上自衛隊鹿屋基地に配属された。主人公の名は小野井武士。防衛大学校卒業後広島県江田島市にある海上自衛隊幹部候補生課程を修了したばかりの新米3等海尉は、着任する前に彼の運命を大きく左右する事になる黄色い花と出会う。だが、その花をゆっくり眺めている時間は、今は無かった。
着任してからは、1ヶ月近く配属になった航空部隊のEP-3の操縦を覚えるのに必死で、全く自分の自由な時間は、無かった。
「小野井、一生懸命なのは分かるが、休むのも大事だぞ。」
なんて言われるくらい一生懸命に操縦を覚えた。小野井が自由な時間を持てるようになったのは、夏場になってからの事であった。
小野井武士は名前の通り、元を辿ると武士の家系であった。3人兄弟の長男として、両親に大切に育てられた。これといった家業も小野井家には無かった為、特に進路を束縛される様な事は無かった。
そんな武士が選んだ道が防衛大学校への進学だった。幹部自衛官を育成する、自衛官を目指す者にとって憧れの大学。それが防衛大学校である。とは言え、普通の大学とは全く異なる。陸海空の将来の幹部クラス(諸外国でいう所の将官、左官、尉官)を養成する4年生大学てある。卒業すると他大学同様学士の称号が与えられる様になったのは、つい最近のことだ。防衛大学校は要するに、陸海空各自衛隊の幹部自衛官を養成する士官学校である。
学費は無料(国民の税金によって賄われる)アルバイトは禁止されている為、学生手当(月額10万円程)が支給される。3食も支給され、全寮制で1年生から4年生までがいて、上下関係を叩き込まれる。勿論、入学するためには、東京六大学レベルの学力が最低でも必要である。競争率も高いためかなりの学力レベルが必要だろう。
小野井は横須賀にあるこの学校で、4年間を過ごした後、1年間海上自衛隊の幹部候補生学校のある江田島(通称赤レンガ)での教育を修了したばかりの新米である。防衛大学校卒業の自衛隊員はエリート隊員として、隊内の出世や給料で優遇されると、言われている。
小野井は、船乗りではなく航空要員になる事を希望していた為、地元福岡に近く欠員が出ている所は、鹿屋しかなかった。鹿屋という土地柄は、既に戦前から大日本帝国海軍の航空隊があり、海軍の街として、形は出来上がっていた。
敗戦と共に帝国海軍は姿を消し、代わりに海上自衛隊が入って来たという所である。本土最南端の県である鹿児島県は、薩摩隼人でも有名な通り、本土防衛のフタとも言うべき重要拠点である。薩摩藩出身の侍の多くが、創世記の帝国海軍(日本海軍)で、士官となり日本を盛り上げていったのは、有名な話である。