第2話 そのゲームの名前は?
もうちょい早く書けるようになりたい。
場面は変わって、時刻は13時半。今日は2人で遅めのお昼ご飯だ。
「今日はお兄ちゃんとこのゲームをしたいと思います!」
本日のメニューは俺特製のオムライス。
両親は共働きで、週末以外日中は家に居ない。
なので家事全般は、俺と向日葵で分担してやることになっている。
そんな食事の最中、向日葵が懐から取り出したのはゲームソフトのようだ。
目の前の食卓の光景は、テーブルの左から向日葵が大好きオレンジジュース、俺流特製オムライス、謎のゲームソフト(パッケージ有り)、付け合せのサラダ。
一つだけこの場にそぐわない物が……なんとも異質である。
ご飯中にゲームをしちゃいけません。
いや、ゲームソフトを食卓に並べてはいけません。
「へぇ、今回はテレビゲームか」
中身の確認もせず、パッケージのみで据え置き型ゲーム機のソフトだと勘違いした俺に向日葵は言った。
「ううん、違うよ」
「では、なんだ?」
「VRゲーム」
「へ?」
「バーチャルリアリティだよ」
向日葵はケチャップで真っ赤のスプーンを置いて、左手の人差し指を天に向けて立て、手首のスナップを効かせ、横に振ると同時にチッチッチッと口を鳴らす。
まるで、何にも分かってないね!と言いたげだ。
「そしてこのゲームの名前は…」
次に発せられるVRゲームこそが、後にゲームにどハマりするきっかけになることを、この時の瑛太はまだ知らなかった。
『Magic World Simulator略してMWS』
「へぇ、マジックワールドシミュレーターね…それって一体どんなゲームなんだ?」
こう言えば、向日葵はそのMWSとかいうゲームのストーリーから操作方法、制作秘話までご丁寧にわかりやすく教えてくれるだろう。
だが、そんな俺の予想は、向日葵の思わぬ返答で崩れ去った。
「説明は後、実はこのゲーム、さっき正式にサービスが始まったばっかりなの!」
向日葵はそう言うと、食べ終わった自分のお皿と俺のを急いで洗い始めた。
もしかして、このあとすぐに始める予定なのか?
思い立ったが吉日、とはよく言ったものだけれど、行動力の化身「向日葵」…やはり彼女は最強だったか。
「おいおい、だからってそんなに急がなくても……」
「ダメっ!お兄ちゃん。このゲームはね、MMORPGなの。だから最初のスタートダッシュがすっごい大事なんだ!」
向日葵の目は本気の目だった。
それはもう真っ赤に燃えていた。
今の彼女には何を言っても聞かない、やると言ったらやる凄みのある『ゲーマー向日葵』の覚醒であった。
先ほど我が妹が言っていた「MMORPG」のMMOとは、Massively Multiplayer Online つまり、大規模多人数同時参加型のオンラインゲームであるということだ。
なるほど、つまるところ向日葵は、誰よりも先にレベルをあげて常に最前線を攻略していきたいわけだ。
俺もそこまでMMOに詳しいわけではないが、それはたぶんスポーツと同じで、同じ最前線でゲームをやっている者たちと競い合うことで切磋琢磨していくのだろう。
出遅れたくない気持ちは十二分に理解できた。
そんなことを考えていると、すでに妹は歯磨きを行っていて準備万端のようだ。
「あ、そういえば、すでにお兄ちゃんの部屋にいろいろ準備しておいたから。VR用のヘッドギアは昨日から充電中だし、アカウントも作っておいたよ! ログインパスワードはこれねっ」
そう言うと向日葵はこちらに小さなメモ用紙を渡してきた。
すでにゲームを起動させるところまで準備していたとは、我が妹ながら恐ろしい子…というか勝手に俺に部屋に入ったのか? この思春期真っ盛りの黒野瑛太(16)の部屋に!? ベッドの下とか見たりしてないよね? 兄の威厳とか全て一瞬で滅びるけれども。
「わ、わかったよ…でも次から俺の部屋に入る時は一応声かけてくれると助かるなぁ…なんて」
「りょーかい! でも、大丈夫だよお兄ちゃん。私、どんなお兄ちゃんでも大好きだから、例えあんなものを部屋に隠していたとしても……も、もちろんパパとママには内緒にしておくね!」
俺の人生オワタ。
そんなこんなで久しぶりにゲーム始めます。
「おにーちゃん!」
「なんだ?」
「私のために頑張ってね?」
「はは……わかったよ。付き合ってやる」
誤字脱字報告よろしくです。