マリーゴールド
夢で見た内容です。
マリーゴールド
気がつくとそこにいる。周りは暗く何も見えない。手足を動かす。なぜかわからないが、銃の弾薬がそこら辺に散らばっているのがわかる。不思議と不安は感じない。僕はまるでその先の結末を既にしっているように、ただただそこに立ち尽くす。
靴の反響音が聴こえてる。誰かが近づいてきているのだろう。僕は諦めたように目をつぶる。
そして、僕は頭を撃ち抜かれた。
目が覚めると、12月だというのにじっとりと汗をかいていた。
「気持ち悪い。」
身体的にも、精神的にも。若干頭がズキズキする。
最近よく同じ悪夢をみる。原因はなんとなく分かっているが、何故かどうするつもりもなかった。
とりあえず僕は朝の支度を済ませ、学ランに着替え自分の部屋をでてリビングへ向かった。
とても憂鬱な気分で。
テーブルにはすでに朝ごはんが2人分用意されていた。もうパートに出かけているのだろうか、母はもういなかった。
リビングのテレビの前のソファーにだらしない格好で寝ている中年のオッサンがいる。父だ。この人が自分の父だと思うと少し悲しくなってくる。
少し前と違う朝ごはんは、味を全く感じなくなっていて、ただの行為として喉を通っているだけだった。しかし、わざわざ母が作ってくれた物を残す訳にはいかないので、無理やり腹の中に入れて家を出た。登校前に家の外に咲いている母が植えたマリーゴールドを見るのが、朝の唯一の救いだった。
家にいる間がとても憂鬱な時に感じるようになってしまったのは、父のせいだ。
小学生から中学2年の二学期まで、この小さな田舎街で母と2人で暮らしていた。シングルマザーとはいえ、母の愛情を受けて幸せに暮らしていたと思う。2ヶ月前までは、そうだった。
突然、何の前触れもなしに母が父を連れてきた。初めて会う父に、僕は気持ちの整理がつかなかった。どう接していいか、どんな気持ちを抱くべきなのか。僕は母からは生まれてきてから父の話は一切聞かされていない。不思議と自分からも聞くことはなかった。なんとなく聞くのはいけない気がしていたから。
一緒に暮らすことになった父は世間一般の理想の父とは言えなかった。むしろ嫌悪を覚えた。仕事はせずに酒を飲んで、急に怒鳴りつけ、僕と母を殴りつけてくる。絵に書いたようなクズだった。そんな父に対し、母はなぜかいつも謝っていた。一切反抗せず、言う事を聞いてばかり。僕が反抗しようとすると母は何故かいつも父を庇うのであった。
「ごめんね、我慢して。」
この言葉がいつしか母の口癖になっていた。母と僕の家庭をこんなことにした父を憎む気持ちもあったが、それ以上に母のそんな状態を見るのを辛くなり、いつしか同じ夢を見るようになっていた。
マリーゴールドは昔一緒に住んでいた祖母が育てていた花だ。自分で育てているくせにそんなに好きではなかったらしく、結構ひねくれている祖母だった。亡くなった今でも何故か母が育てているので、きっと何かしら思い入れがある花なのだろうと思っている。僕はいつも1輪だけ摘んでお守り代わりにしている。そんなマリーゴールドの花言葉は、まさに今自分の状況と同じなんだろう。
父と一緒に暮らすようになってから最近、周りの人の目も冷たくなった気がする。前まで友達だった同級生も何故か態度がよそよそしくなっていた。そんな友達の態度が気に入らないので、つるむ事もなくなり話す事すら自ら拒むようになった。結局、家にいても学校にいてもどこも自分の居場所なんてない気がする。そんな自分の態度が気に食わないのだろうか、学校では柄の悪い同級生や先輩から絡まれるようになっていた。殴られる事もあり、僕も家での鬱憤を晴らすように抵抗したが、助けてくれる人はいなかった。だが、1人だけ気にかけてくれる人はいた。隣のクラスの先生だ。
彼女は最近新任でここに来た若い先生で、とても素直で明るくみんなに好かれている人だった。そんな人が何故構ってくれるのかは、全くもって検討がつかない。他の大人のように無視してくれればいいのに。どうせ、偽善で、他人の評価の株上げがてら僕に優しくしてくれるのだろう。だけど、僕はそれが嬉しいと思ってしまう。なんてひねくれているんだろうか。今日の放課後もまたその先生に呼び出されて職員室へむかった。
先生はいつも特に何かを注意する訳でもなく、他愛のない世間話をするだけで、ただただ時間が流れるだけだった。この前は家に連れてってもらい晩御飯までご馳走してくれた。よく思い返せばこの時間も救いの1つだったんだろうか。彼女との時間はそんなに悪い気はしなかった。
「似たような人をしっている気がするの。」
この前そんな事を言っていた。だからと言って無愛想な自分にここまで構ってくれるのだろうか?やっぱりわからない、もう少し大人になったらわかるのだろうか。大人になればあの父から解放されるのだろうか。大人になったら彼女と対等に接する事ができるのだろうか。いつしかそう考えるようになっていた。
だけどその日、初めて彼女から否定をされた。そんな大した事ではなかった。いつもお守りに持っていたマリーゴールドをなんとなく彼女に見せたら、その花は好きではないと言われた。
何故かなんとなく理由はわかった。でも、なんだか無性にとても虚しくなるのと、怒りが込み上げるのを感じた。
カッとなった僕が荷物をまとめて帰ろうとすると、彼女は謝ってきた。悪かったと。家の事でなにか気が触ったのかと。一体、何に怖がっているの?と。
そんな事とは全然別だ。だけど、僕は1歩2歩とかってに自分の中に踏みられた気がして涙が込み上げてきた。彼女を涙を浮かべた目で強く睨んだ。人の前で泣いたのは久々だった。
暫くの間2人は固まっていた。それこそ、時間を止められたかのように。いつからか外は小雨になっていたらしい。
先に静寂を破ったのは彼女だった。彼女は僕に歩み寄ってきて優しく抱きしめてくれた。
僕はもう何が何だか分からずに頭が混乱していたのだろう。静かに泣いてた。自分の声を、外の小雨で消すように。涙を見せてしまったことへの、せめてもの強がりだった。
学校から出た後、一緒に彼女の家に行った。心の何かが振り切れたように周りの事、父の事、少々変わってしまったが、母がホントに好きなんだと言う事。夢の事は言えなかった。そんな僕の話を彼女は黙って聞いてくれた。嬉しかった。
だけど、やっぱり気になってしまう。何故こんなにも構ってくれるのだろうかと。僕は再度尋ねると、不思議な返答が帰ってきた。
「前世って信じる?」
信じてはいなかったが、もしあったら戻りたい。そう思い、信じると嘘をついた。
帰る頃になると雨は止んでいた。なんだか不思議な時間を過ごした気がする。彼女からいつでも来ていいよ、と言われたのがとても嬉しかった。僕はほんのさっきの自分と変わって、とても心が軽やかになっていた。きっと友達とも前のように接する事ができるだろう、父の事もそんなに気にも留めずに生活できるだろう、もしかしたら彼女とも、、、。
そんな事を考えながら帰りついた家からは異様な匂いがしていた。
母がなにかを焦がしてしまったのだろう。父は働かないので母がずっとパートに入っていたから、きっと疲れていたのだろうと思った。今日の晩御飯は自分が作ってあげようと、キッチンへと向かった。
コンロの強火で加熱されたフライパンには母の顔の皮膚と血液がこべりついていた。床には母が腹を裂かれ倒れている。冷蔵庫からビールを取り出した父の片腕には包丁が握られていた。
とても震えている。父の手が震えているのか、僕が震えているのだろうかもうどっちか分からなかった。
父が母を踏みつけ僕に向かってきた。と、その時雷が鳴り辺りは真っ暗になった。停電だ。僕は何をすべきか考える前に体が動いていた。思うように動けなかったのは、暗かったからか?床が濡れていたからなのか?もう悪夢だ。
家を飛び出した。もう母と父は動かないのだろう。何故か床に倒れた2人の姿がとても美しく思えた。
どこに行くべきか分かっていた。いつしか外は大雨になっていた。傘も何も持たずに出てきてしまっていた。とても寒いはずなのに、寒さなど感じなかった。だけど、なにか救いを求めていたのだろう。温もりが欲しかったんだろうか?逃げたかっただけなのか?
気がつくと彼女の家に着いていた。玄関から出てきた彼女は僕を姿をみて驚愕していた。雨に濡れても誤魔化せない真っ赤な制服のせいだろう。
彼女は何も言わずに家に僕を入れてくれた。僕は玄関に入るなりすぐに倒れた。酷い熱でも出たのだろう。まるで死ぬように意識を失った。
また暗闇の中にいる。もうここがどこなのか、これからどうなるのか全て分かっていた。でももうお前に殺されるのはごめんだ。俺は床に落ちている弾薬を手に持てるだけ握りしめて、あいつが来るのをじっと待った。暫くすると、足音が聴こえてきた。何故、夢の中のあのクソ野郎をやってやろうと思ったのか。今ではわかる。きっとここで変わらないと先へは進めない気がしたからだ。
足音が近づく。あの下衆がそばにいる。大体の位置を把握した俺は思いっきり手の中の弾薬を投げつけた。多分当たった。そう思いそいつに飛びついた。馬乗りになり殴ろうとしたその時、激痛が走る。だがもう制止の効かない俺は腹に刺さったトレンチナイフを抜き、彼?に何度も突き刺した。突き刺す度に心が解放される気がする。気持ちがいい。楽しい。
もう何度刺したのかわからない。腕はもうパンパンになっていた。そして思い出した。いつか彼女に聞かれた「何を怖がっているの?」という言葉を。
「あぁ、多分、それはきっと…。」
目は覚めていた。いつからかなのかはわからない。昨日の雨はいつしか雪に変わっていたらしく、外は一面銀世界になっていた。
そして、僕の足元は、まるで真っ赤なマリーゴールドのように、とても、とても美しく染まっていた。
僕は、とても優しく、暖かい夢から覚めてしまった。
夢の内容を断片的に繋げて、一部創作して作りました。多分主人公はマザコンだったと思います。