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八話

八話です。

よろしくお願いします。

 坂下流麗他六名との戦闘から、一日。


 果ノ鬼江戸支部 工廠区


「これが牛鬼の魂核?随分と綺麗になったねえ」


 ガイス爺に渡された牛鬼の魂核。赤黒い流れが内部に渦巻いていた禍々しい様相から、見違える程の清廉さを持った朱玉へと変わったそれを見つめる。


「三百余年で溜まりに溜まった源欲、中で圧縮されてたようでの。ちと手を加えたら、勝手に抜けていきおったわ」

「その源欲、一体どこ行ったんだよ、怖いわ」

「魂核にした時点で、復活はありえんからの。気にすることじゃないわい」


 ふーん、と、改めて魂核を見る。


「これ、能力は?」

「いつも使っとる直接型じゃと、身体への負担が大きくての。牛鬼の部位を再現した間接補助型じゃ」


 ほれ、とエクレアが差し出される。

 握りを持ち、片手で振って、


「ちょっと軽くなった?」

「刀身の合鋼を一部削り、下級鬼の心核で鬼力の『道』を描いた。その分軽くはなっているじゃろ」

「取り回しはしやすいけど......力押しには向かないね。鳴雷は、もう?」

「牛鬼との戦闘で、鳴雷による明確な淨滅武装への損耗は確認できたからの。『道』に鬼力を通す事で、それを『道』の損耗だけに留めているが......十数回の連続使用が限界じゃ」


 まあ、それでもかなり使いやすくはなる、か。

 十数回、はっきりした回数は......分かんないよねえ。


「しかしレンズ、随分と彼らに入れ込んだな?」

「たかが一回、作戦に同行するだけだよ。入れ込むって、そこまでじゃぁない」


 目を細め、シワを深めて笑うガイス爺。


「ワシは、塙の坊主には話を通しておらんからの。お前が自分で行けよ?」

「わかってるさ。でもなあ......昨日めちゃくちゃ煽ったからなあ......」

「お前達が使用した後、あの鍛練場、坊主が使ったらしいが、相当荒れておったぞ?修理の手伝いにワシまで駆り出される始末じゃ」


 腰が痛いわい、とボヤく老人(推定百歳後半)を尻目に、塙への対応を考える。

 ......ダメだ、なにも浮かばん。なるようになる、か。


「作戦概要の通達が、このあと支部の会議室であるようじゃ。そこで坊主に話、通してこい」

「はいよ......いってきまーす」


 §

 果ノ鬼江戸支部 会議室


「何故お前がここにいる......!」

「作戦参加を希望しに来たんだけど、ダメ?」


 眦を怒らせ、青筋を立て。

 まさに怒髪天の如き凶相の塙。

 なんだなんだと集まってくる果鬼達を一睨みですくませ、


「今回の作戦は、果鬼のみで行う。【討滅鬼】の出る幕は、ない」

「成功する確率、あると思ってんのか?」


 睨む。

 答えろ、どうだ?


「不可能ではない。確実に失敗するとは思っていない」

「お前、俺の安土付近の鬼域調査報告、読んだ上でそう言えるのか?」


 上級鬼が十体以上。全ての果鬼を集めたとしても、戦力的には確実に敗北する。


「上級鬼が十体、そう報告したのはお前だ、それを鵜呑みにするつもりはない。五体までならどうにかなる戦力を集めた」

「......失敗した時の対処法は、呪壁都市、【京都と江戸】は、誰が守る?」

「京都は奈良から、江戸は名古屋から、各三名中級果鬼を移籍させる。それで一応の防衛戦力は確保できよう」


 話にならん(・・・・・)


「中級果鬼三人で、都市を守れる、だと?笑わせるなよ」

「できないことは無い。死ぬ(・・)気でやれば、な」

「要は死ねってことじゃねえか」


 どうあろうと、俺を参加させるつもりは無いらしい。

 一種達観した様な眼差しを向けてくる塙を、鼻で笑い、


「どうであれ、無理矢理にでも俺も参加する。失敗時に、最低でも防衛戦力を生還させる為にもな」

「......良いだろう、ただし『城』内部の侵攻には参加させん。お前はあくまで後方支援だ」


 ......どこが(・・・)後方かは(・・・・)、俺が決める。

 話は終わりだ、と言って、塙は会議室内の果鬼、中級十人、上級一人を集め、机の上に広げられた地図を示す。


「これが、琵琶湖の畔に鬼が建てたと思われる『城』だ。

 巨大で歪な台形が二層に積まれた構造、戦闘という面に関しては比較的やりやすい構造ではあるが、問題はその周囲だ」


 広げられた地図に記された、大量の点。

 その数、優に百を超える。


「これは、『城』周囲の中級鬼の反応だ。外部に陣地を築く事は不可能。故に、短期決戦、一丸となって『城』に突入、そのまま最上部まで登りきる」


 ゴクリ、と誰かが唾を飲む音。

 百の中級、十の上級。どちらも地獄。魔境。人という種がいかに脆弱かを知る阿鼻獄。


「『城』の内部の上級鬼を殲滅後、『城』に籠城、機を見て脱出する」

「あ、あの......質問です」


 流麗と共にいた中級果鬼、その内の一人が手を上げる。


「その作戦は......周囲の中級が『城』の壁を破れないことが前提ですよね?」

「それに関しては、『城』を作った鬼の鬼力が強い事を願うしか無いな」

「運次第、ですか」


 運だけに頼りたくはないが。

 神に祈ったところで、今更・・だ。祈って変わるなら、五体投地で祈ってやる。変わりはしないから、俺は祈らない。

 相手もいないしな。

 神とて鬼に取って代わられた。今の人類おれたちに、祈る相手はもう、いない。


「『城』の東部から江戸支部隊は侵攻、逆側の西部から京都支部隊が同様に侵攻を始める」

「何故二手に別れる必要がある?」


 一点突破なら一つの部隊に纏めてからの侵攻が効率的だろうに。


「京都支部隊は、進路にいる中級鬼に御厨の【狐火】で幻惑を掛け、囮として引き連れてきて貰う。この囮と『城』に開けた穴の周囲の中級鬼が争っている間、それが作戦時間だ」


【狐火】は【九尾狐】御厨聖の陰陽術と鬼力の合一によって成される技。

 鬼力で作られた無数の火玉、それを見た鬼の鬼力を乱し、陰陽術によって幻惑を見せるモノだ。


「なるほど。で、その時間はどのくらいになりそうなんだ?」

「半数を連れてこれれば、およそ二時間。減る事に時間も減っていく」

「二時間、か。厳しいな」


 上級鬼の討滅には、俺でも三十分程かかる。

 牛鬼の討滅があんな短時間で終わったのは、虎の子の鳴雷を出したから。

 今回なら、最低でも六時間は欲しかったが......


「内部では、御厨が【狐火】の効力を維持するためにその場から動けなくなる。よって、御厨の警護に中級を四人。坂下と共に上級鬼を討滅するのが十人だ」

「俺はどこだ?」


 聞くと、


「お前は御厨の警護だ。あくまで後方支援、状況に応じて持ち場は変えて構わんが、極力それを守れ」

「......心には、留めておく。いざと言う時には、俺は俺自身の判断で動く、構わんな?」


 フン、と鼻笑い。


「現場に俺は行けん。よって、現場での指揮は御厨に一任する。『城』突入後は坂下に指揮権を移譲、以後の作戦概要はその場その場の指揮官の言に従え。質問は?」


 手を挙げる。


「『城』の壁はどう壊す?」

「坂下の【麾下献軍】で強化した中級果鬼十四人の一斉攻撃で、だ。火力が足りない場合、御厨と坂下にも参加してもらう」

「そこまでの強度なのですか!?」


 中級果鬼の一人が叫ぶ。


「物理的硬度に左右される観測術を弾く程だ。呪壁よりも硬いと見て良いだろう。お陰で内部の反応がさっぱり分からん」

「最悪、俺も破壊に参加するが、構わんな?」

「......」


 悩む。腕を組み、瞑目して、


「......良いだろう。壁の破壊に関しては参加を許可する」


 まあ、これくらいか。


「他には無いな?」


 見回して、


「作戦開始は二週間後、6月21日の早朝だ。

 では、解散!」


 

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