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十話

十話です。

よろしくお願いします。

『城』内部 二層 4:10


 穴を昇ると、暗闇が支配する空間に出る。

 穴から覗く光が唯一の明かりであり、己の手元すら覚束無い。

 隣の、鬼の血で斑に染まった道着と穴の光だけが、俺がこの場に居ることを証明する要因だった。


「蓮瑞さん、何か、見えますか?」

「いや、生憎と......」


 見回すが、何も見えない。

 黄の魂核を橙へと交換し、


「羽織るは不変不滅の皮衣 炎衣」


 すぐ様、橙から碧へと交換、


「吹かせ、千風」


 炎を食った風が、轟々と鳴き声を上げる。

 大上段に構え、


「暴威持つは始神の子、熱の如き激情持つは黄泉神の子、火産霊カグツチ!」


 前方へ向けて振るう刃、放つは炎孕し暴風。

 煌々と光を発する暴風刃は、闇を斬り払い、何かに(・・・)掻き消され(・・・・・)()


「なあ、流麗よ。今の、見たか?」

「人、でしたね」


 人影。確かに人影が、腕の一振りで暴風刃を掻き消した。


「どう思うよ」

「まあ、十中八九、鬼でしょうね」

「だよなあ」


 俺はエクレアを、流麗は双扇を構え、腰を落とす。


「鬼は侵食が進むと人の姿からかけ離れて行くが......どうよ、今のアイツ、弱いと思うか?」

「無いですね、アレは例外でしょう」


 だよなあ、と答え、


「下が随分騒がしいと思ったら......客は果鬼か。下の蜃は上級果鬼が五人でも勝てないくらいの強さだった筈なんだがな」


 喋った!?


「おいおい、喋ったぞ」

「いえ、それよりもーー」


 ゴクリ、と唾を飲んだ流麗が、


「果鬼を知って(・・・)いる(・・)?」


 そうだ、何故知っている?果鬼自体は鬼の討滅の為、都市外へ出ているし見ることも無いわけじゃ無いだろう。

 だが、ヤツは上級果鬼と言った。果鬼という名前を知っているだけでなく、上級の力量すら把握している......?


「お邪魔します、と言っておく。アンタ、何者だ?」

「あ?なんだ、お前、人間か?いや待て、なんだこの変なカンジ。内側に何を飼っている?」


 俺と桃果哉一の関係も気付かれている......?


「顔が見えないんだが......明かりを付けてくれないか?」

「ああ、そうか、人間は夜目が効かないんだったな。それに、果鬼もか」


 ボゥ、と壁に無数の火玉が浮かぶ。

 そこから発せられる赤光が、鬼の様相を照らし出す。

 黒い甲冑。膝や肩、肘等の要所要所に、口が三日月に笑った牛の顔の意匠をあしらったモノ。

 そのまま、鬼の顔を照らし出しーー


「おいおい、おいおいおいおい、懐かしい顔じゃねーか」


 俺と『俺』が入れ替わる。

 そりゃそうか、あの顔はーー


「四十四年ぶりか?随分逞しく成長したな、双角そうかくよ」


 §

 俺の言葉に、双角と流麗の動きが止まる。


「あの、蓮瑞さん......?いえ、桃果殿ですか?」

「ああ、今は哉一さんだな。よう、久しぶり、流麗の嬢ちゃん」

「あ、えっと、お久しぶりです?」


 双角の方を見て、言う。


「そっちも久しぶりじゃねーの。なんだ、死んだって聞いたが、生きてたのか。穂積双角ほづみそうかく?」

「俺の名前を知っていることは、さして驚きはしないが......今、『四十四年ぶり』っつったか?」

「おう、言ったぜ?広島で、牛鬼討滅作戦の直前に会ったのが最後だな。あん時は十七、八歳だったか?デカくなったもんだ」


 言うと、双角は顔を怒りに歪め、


「吐いていい嘘と悪い嘘があるぞ?哉一のおっさんを騙るとは......余程死にたいらしいな!?」

「騙っちゃいねえよ、本人だ。中身はな」


 途端、側頭部から生えた牛角に炎が灯り、踏み込んでーー

 消えた!?


「ッーー!?」

「騙るなら、もっとマシなヤツを騙れ。そんな嘘を俺が信じる訳ねえだろうが」


 吹っ飛ばされ、背から着地。

 ゴロゴロと自ら転がり勢いを殺すが......

 腹が熱い。腹に開いた二つの穴は、傷口が焼け焦げている。

 淨滅武装は......?早く炎衣を纏って傷を癒さねば......


「桃果殿!クッ、このーー!」

「だ、めだ、嬢、ちゃん、逃げ、ろ」


 届かない。

 扇を突いた流麗の懐に入った双角は、拳を一発。

 真上に打ち上げられ、天井に激突する。


「クソ、が......!」


 淨滅武装は......数メートル離れている、届かない。

 だが、上からは流麗が落ちてくる。

 行くしかない。


「動いてくれよ......ッ!」


 走る。流麗の落下予想場所に。

 間に合え、間に合え、間に合えーー!


「嬢ちゃんッ!!」

「フン」


 キャッチし、双角の隣を駆け抜ける瞬間、背に衝撃。

 そのまま流麗を抱いて、転がる。


 軋む、骨が軋む、全身の骨が軋む。

 牛式欲装が無かったら死んでいた。


「嬢ちゃん、嬢ちゃん、生きてるか?」

「あ......すみません、桃果殿。肋が何本か折れました......幸い心臓と心核には損傷がありませんが、少し戦線を離脱します......」

「ああ、ゆっくり休んでてくれ」


 流麗をそっと床に置き、痛む身体を起こして横にずれ、双角を見る。


「随分手荒なことをしてくれるな?軽く死にかけたぞ」

「へえ、あれで死なないのか。身体、弾かせるつもりで蹴ったんだけど。随分性能の良い甲冑だな、それ」


 身体が崩れそう。気力で踏ん張っているが、倒れそうになる。

 こりゃ、骨の二、三本じゃ済んでないな。


「本州北部防衛戦で、お前は死んだと聞いたが?どうして生きている?」

「ああ、確かに死んださ。果鬼として、人としての俺は、な」


 含みのある言い方に、気付く。


「お前、鬼化したのか」

「本来あるべき姿に戻った、それだけだ。俺は人である以前に鬼だったんだよ」


 答えに、笑う。


「殼人内鬼説。俺の言葉、丸パクリじゃねーか」

「ーーッ!まだ、その嘘を吐くか!!」


 角に炎が灯る。踏み込み、消えてーー


「二度も食らうか、よ......!」

「何!?」


 要は、愚直なまでの直進なのだ。

 身体を左へ、流麗の寝ている方とは逆側、淨滅武装の方へ向けて走る。

 脇腹を双角の角が掠め、着流しが焼け千切れる。


 走る、走る、走る!!


「逃がすか!!」

「がぁっ!!」


 背に衝撃、腹に開いた穴と、背に開いた穴が貫通し、痛みが倍増する。


 だが。


「ぐ、おぁ......羽織るは、不変、不滅の、皮衣......炎衣」


 突進を受けた勢いそのままに、床を転がって淨滅武装を掴む。

 碧の魂核を外し、橙へ。

 身体を覆う炎の衣が、傷を癒していく。


「火鼠の炎衣......!?不滅の力を使うだと!?それができるのは......」

「ようやく信じる気になったかよ、双角。俺だよ、桃果哉一だよ」


 §

「哉一のおっさん......あんたは、牛鬼討滅作戦で死んじまったハズじゃ......」

「まあ、色々あってな。この男の中で、鬼力の塊として生き長らえてるんだよ」


 言うと、狼狽した双角が、言う。


「なんで生きてるかは、多分聞いても分かんないだろうから、聞かねえ。だけど、答えてくれ、哉一のおっさん」


 ギリッと歯を噛み締め、


「なんで果鬼が、人を守らなくちゃならない?俺達は、果鬼は鬼だ。人を守る道理なんて無いだろ......?いや、むしろ、同族の鬼達を守り、人を殺すのが、本来の果鬼の正しいあり方ってもんじゃねえのか!?」


 叫ぶ、心の内を。


「三十二年前に、俺は身体を鬼に食われながら、ずっと考えていたんだよ!!俺は何を守っているのかって、俺は、この身を犠牲にしてまで、同族を殺し、異族を守らなくちゃいけないのかって!!」


 手を見る。手甲に覆われた、いや、その手甲すら己の一部なのだ。


「それで、気付いたんだ。この世界のあり方は間違ってるって。果鬼は人を殺し、鬼を守る、別種の鬼なんだって!!」


 そう気付いた途端、俺は鬼に成っていた。いいや、それもまた違うのかもしれない。

 体が鬼に成ったのは、確かにその時だ。けれど、かつて、桃果哉一が唱えた殻人内鬼説を聞いた時、あの時から俺の内には、抑えようのない鬼が産まれていた。それを否定する事ができない。

 身体を覆う甲冑、足には蹄、側頭には二本の牛角。

 内より湧き出る、止めようのない欲望。


「この『城』を作ったのも、人を滅ぼす為さ。一階に中級鬼達を入れ、殺し合わせる。昔、本で読んだ蠱毒を再現したんだ。その結果が、下の蜃さ。まだ一体だけど、長い時間繰り返せば、もっと沢山......!」

「それで、この『城』の周辺に中級をあんなに集めていたのか」

「そうさ!俺が鬼力の波を生み出して、呼び寄せたんだ!!」


 どうだよ、と叫ぶ。


「哉一のおっさん、俺は、俺のやった事は、俺の考えた事は、間違っていたか!?答えてくれ、哉一のおっさん!!」


 言われ、


「おっさんおっさん連呼するんじゃねえよ。双角、お前はーー」


 息を吸い、


「お前は、間違ってるよ」


 途端、双角の姿が掻き消える。

 だがーー


「三回目だ、流石に対処できるッ!」

「チッ!」


 直線上から右へ回り、ガラ空きの背へと淨滅武装を斬り下ろす。

 右の脚が跳ね上がり、蹄が刃を弾いた。


「動きが人のそれじゃねえな!」

「言っただろ、鬼に成ったって」


 後ろに飛び、構え直す。


「もういいよ、哉一のおっさん。アンタ、邪魔だ。俺の計画を邪魔するやつは、全員殺して糧にする」

「そうかよ。出来るもんならやってみろ」


 §

 甲冑から分離した大剣が、屈んだ頭上を薙ぐ。

 もう十分は打ち合っただろうか。最初こそ恐ろしい速度に動揺していたが、どうにか攻撃に繋げられるようにはなってきた。炎衣が無かったら、もう数度は死んでいただろうが。

 空いた右胸に淨滅武装を打ち込み、心核を砕くがーー


「クソ、どうなってやがる、何で死なねえ!?」

「片方の心核を砕いた所で、もう片方が補填し、再生する!俺は不死身だ!」


 飛んでくる一撃を、淨滅武装で受けるが、衝撃が強過ぎて吹き飛ばされる。


「なんなんだ、その膂力。牛式欲装で強化すれば、下の蜃の一撃も受け止め切れたのに......!」


 俺の愚痴を聞き、双角は笑う。


「俺は進化した!最早俺は【牛頭】じゃぁない。複数の心核から流れ込む鬼力は、俺を次の位階へと押し上げた!」


 笑う、嗤う、己の力に酔いしれ、笑う。


「俺は【閻魔】!鬼の蔓延るこの地獄の、主となったのさ!」

「調子に乗って騒いでんじゃねえよ、ガキが」


 踏み込み、勢いを乗せて、胸を斬り払う。

 二つ、砕いた感触、だが。


「残念、俺は不死身だと言ったろう?俺の内には幾つもの鬼の心核がある。いくら同時に二つ、心核を砕かれようと、その大量の予備が俺を生かすのさ」


 おいおい、マジで不死身じゃねえか。

 どーしたもんかな、こりゃ。


「諦めろよ、哉一のおっさん。どうやったって俺を殺すのは不可能なんだ、諦めて俺の糧になれ」

「本当にそう思ってんなら、わざわざ諦めろなんて口に出すんじゃねえよ。どーせどっかに弱点があるんだ、探してやるから待ってろ」


 と、背後で動く気配。


「嬢ちゃん、治ったか?」

「ええ、完治しました。どのくらい寝ていましたか?」

「十分弱ってところだ」


 と、一つ案が浮かぶ。


「嬢ちゃん、寝起きで悪いんだが、アレの相手、少し頼めるか?」

「......かなり厳しいですね......やるだけやってみますが......ッ!?」


 流麗の身体が、跳ねる。

 二角が伸び、髪は朱に染まり、背に朱の翼が紡がれる。


「嬢ちゃん、そいつは......!」

「転化千軍!?まさか、下が!?」


 と、双角が笑う。


「下でわちゃわちゃしていた中級果鬼共なら、今さっき外から入ってきた中級鬼に殺されたぞ?やっと下が静かになった」


 隣から、ギリッと歯軋り。

 見ると、血が滴る程握った右手を、額に押し当てる流麗が。


「桃果殿、三分は確実に、留めます。その間に、打開策を」

「倒せると言わない所、自分の実力を過大評価しないのはいい事だ。死ぬなよ」


 翼を一打ちし、双角に向かって行く流麗の背から視線を外し、瞑目。

 己の内へと潜って行く。


 §

『アンタから俺に会いに来るのは初めてだな?』

『そうする必要があるってこった。策を説明する、聞け』


 桃哉蓮瑞の心の内。何も無い、ただただ真っ白な空間で、俺は『俺』と、桃哉蓮瑞と向き合う。


『状況は理解している、それで?俺は何をすればいい?』

『閻魔と成った双角は、ぶっちゃけると正攻法では倒せない。ヤツが身の内に溜め込んだ心核が多すぎて、このままだと『俺』の身体が持たない。そこで、だ』


 言う、打開策を。双角を確実に葬る為の策を。


『俺の火鼠の魂核、その源欲、不変を利用する。俺が俺を心核に刻みつけた様に、俺と共に魂核に双角の存在を刻みつけ、魂核と共に砕き去る。これしか無い』


 口を開け、絶句する『俺』の額を弾く。


『マヌケ面晒してんじゃねえよ、みっともない』

『いや、待て、そんなことをしたら、アンタは......』

『まあ、消えるだろうな。記憶や力は『俺』の身体を依代にしているが、俺自身の魂は魂核に宿っているし』

『アンタは、それで良いのか?』

『良いか悪いかじゃない、それしかないんだ、だからやる』


 違う、と『俺』が声を上げる。


『アンタが命張る必要は無いだろ!アンタはもう鬼だ、あの化け物みたいな鬼も、きっと同族として受け入れてくれる!俺の、俺達の、人の為にアンタがそこまでする必要は無いだろ!』


 ああ、この男はどこまで行っても優しさが抜けないのだ。

 こんな状況になっても、俺の身を案じてくれている。

 だが、否、だからこそ。


『なあ、『俺』よ。俺は長く生きすぎた。最初は変わっちまった世界を見るため、次はお前達、遺してきた者達の助けになる為。だがよ、今の世の中に俺は必要ない。流麗の嬢ちゃんが言っていたように、俺のやり方は、『俺』に、他のヤツらに、引き継がれている』


 だからよ、


『ここらが引き時なんだ。ここが、俺の死に場所なんだ。流麗の嬢ちゃんに高説垂れても、やっぱり俺も、意味ある死を望んでいたんだよ』

『......そっか。アンタがそこまで言うなら、俺はもう止めねえよ』


 ありがとう。


『無理矢理、双角と鍔迫り合いまで俺が持ち込む。合図したら入れ替わり、魂核を外して双角の左胸に押し当ててくれ。その後は、何も考えずに斬ればいい』

『ああ......分かった。全力を尽くすよ』


 ああ、そうだ、最後に。


『『俺』と過ごした十四年間、とても楽しかった。ありがとな』

『ッ!俺も、俺もだ!!ありがとう、ありがとうッ!!』


 §

 目を開ける。


 丁度、流麗が弾き飛ばされ、こっちに視線が向いたところだった。


「待たせた!嬢ちゃん、代わる!」

「お願いします!」


 淨滅武装を一振り、駆ける。


「また無策に突撃か!?老いたな、哉一のおっさん!」

「さて、無策かどうか、試してみろよ」


 勢いを乗せ、大上段から振り下ろす。

 大剣で受けた双角だが、流石に勢いが乗った物、そう簡単には弾けない。

 ここで入れ替わる、それが一番良いんだろうが。


 でも、俺には、


「双角よぉ!お前の考えた事はッ!鬼にとっては(・・・・・・)間違ってねえんだよ!」

「何を、アンタはさっき、それを否定したじゃねえか!」


 言いたいことが、言わなくちゃならないことが、


「ああ、否定したともッ!だがそりゃあ、人として、だッ!」


 まだ、ある!


「俺が唱えた殻人内鬼説はよぉ!果鬼が必ず持つ、人族との疎外感を無くすためのモンなんだよッ!」


 手が震える、鍔迫り合いも、もう持たない。

 だから、叫ぶ。少しでも、双角の心が揺さぶられるように。


「ああ、俺たち果鬼は、人じゃないさッ!人の、成れの果てだってなッ!だがよ、体は鬼に成ろうともよ、心が人なら、俺たちは人だろうがよッ!」


 人が、そのからだの内に、こころを宿すなら。


「鬼のからだに、こころを宿した、それが果鬼ひとだッ!お前は、果鬼ひととして間違ってんだよッ!!」

「ッ!――うるせえ、うるせえッ!俺は鬼だ、鬼に成ったんだ。人としての正誤なんざ、知ったこっちゃねえ!!」


 口ではどう言おうと、お前、今動揺したろ?

 迫り合いにかかる力が、一瞬緩む。

 さあ、今、今だ。


「今だ!!」

『応ッ!』


『俺』が抜け、エクレアにかける力を危うく緩めそうになる。

 意地で耐え、橙の魂核を外し、穂積双角の左胸へと叩き付ける。

 途端、


「ぐ、おああ!?」


 魂核から光が吹き出し、穂積双角をその内へと収める。

 内側からいくら光を叩こうが、ビクともしない。

 これが、天才が十二分に発揮した火鼠の源欲、不変。

 光が収束し、一抱えもある橙の宝玉へと変化する。


『まだだ!このまま斬れ、レンズ!!』

『俺は、こんな所で死ぬ存在じゃねえッ!!』


 宝玉に亀裂が走る。

 普通なら焦る状況。

 だが。


「『俺』がああもカッコよく言い切ったんだ、俺も、ここで決めなきゃ、カッコよくねえだろうが」


 黄の魂核を嵌め込み、鳴雷を発動。


 即興で、今出せる最高威力の技を組み立てる。


 僅かに残った炎衣の残滓を取り込み、朱に輝く雷撃で、


「咲くは炎花の大輪、彩るは雷布の帯」


 バヂリ、バヂリと空気を焼くエクレアを構え、


「手向けだ、受け取ってくれ」


 一拍。


 振り下ろす。


「彼岸花」


 宝玉に刻まれた斬撃痕から、朱雷の蕾が生える。

 一瞬にして開花した花束は、轟音と共に、桃果哉一の魂を黄泉へと送って逝った。

感想、評価、誤字報告などいただけると、大変有り難いです。

低評価で構いません!『見ていただけている』、ということがモチベーションに繋がりますので。

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