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九話

九話です。

よろしくお願いします。

 1582年 6月21日 0:10

 呪壁都市【江戸】西門前広場


 鬼穿刃を背負い、胴着袴の下に最低限の胸当てと足甲を付けた姿が男女合わせて十一人。

 未だ夜も明けない暗闇で覆われた広場に、並んでいた。


 そこへ、普段と同じ様な出で立ちの塙吟庵が、支部方面からやって来る。


「おはようございます、吟庵先生」

「流麗か。おはよう。体調は?」

「問題なく、万全です」


 白の胴着袴、黒髪を一つに結わえた、ある意味死装束とも取れる出で立ちの坂下流麗。

 彼女から始まり、他の中級果鬼達も吟庵へと挨拶する。

 一人一人に挨拶を返した吟庵は、眉を潜め、


「桃哉蓮瑞は?まだ来ていないのか?」

「彼でしたら、先程から吟庵先生の後ろに......」


 慌てて振り向くと、闇の中で一際暗い黒眼と合う。


「やあ、おはよう、塙支部長?」

「......挨拶くらいマトモにせんか、馬鹿者」

「気付かない方が悪いんだよ、つか馬鹿言うな、『馬』野郎」


 ケラケラ、と笑って、


「ん?何だよアンタ、その服。まるで死装束じゃねーか」

「まあ、貴方と戦うまでは、この作戦で死ぬつもりでしたから。鬼力を吸った繊維から作られる【討装とうそう】は特注品の一品物です、そう簡単に染めたり仕立て直しが出来ないことは、貴方もご存知でしょう?」

「ま、そりゃそうだが」


 そうだな、と呟くレンズ。

 パチン、と指を鳴らして、


「その服、血で染めようぜ、鬼の。鬼の部位は人の手が入ると即消滅するが、勝手に付いたモノは洗わない限り消滅しない。なら、即席の染色材ってことで使うのも悪かねえだろ」

「......迷案ですね。ですが、面白い。乗りますよ、その話」


 フフフ、クククと笑い出す二人を列に並ばせた吟庵が、激励を始める。


「諸君。これから君たちが向かうのは、戦地である。生の一欠片もない、真に地獄たる禍地である。成功したとして、ここにいる何人が生きて戻るか分からん」


 だが、と続き、


「我らは果鬼だ。人間で無くなり、されど人間を守る、一欠片の違い無く『人』だ」


 それに、


「我らは果鬼だ。己の鬼に屈せず、されど鬼の力を扱い、人を守る『鬼』だ」


 なら、と。


「誇れ、その(果鬼)を。背負え、その(果鬼)を。我ら――」


 十二人が同時に叫ぶ。

 声高らかに、叫ぶ。


「「「人の道にて果てし者、鬼の道を歩む者、されど我らに人の心残る限り」」」


「「「我ら一斬の後悔を捨てよう。我ら一斬の絶望を捨てよう」」」


「「「我らは、果鬼である!!!」」」


 ザッと足を鳴らし、敬礼する。端で見ていた俺ですら、その顔に、瞳に、声に灯った熱い決意と自負に震える。


「「「弾けろ我が理性【鬼力潤透】!!」」」


 噴き出す鬼力。

 十一人が、十一体へと変貌する。

 彼らは、己が内の鬼に対応した色にその瞳を輝かせ、待つ。

 自らを解き放つ、号令を。


「江戸支部隊、出動!!」

「「「応ッ!!!」」」


「武運を!」


 開いた西門から、駆け出す果鬼の群れ。

 吟庵の言葉を背に負い、走る。

 先を行く黒白の果鬼を目印に。




「いや、凄い勢いだね」

「ああ......俺も昔はあんな風だったんだが、な......」


 しみじみ、と物思いに耽って......気付く。


「......お前、どうやって行くんだ?」

「ん?あー......」


 ガコン、と抜いた浄滅武装【永久なる(エク)憐芥レア】。

 静かな唸りが静謐な夜を揺らし、刃に描かれた『道』がぼんやりと浮かび上がる。

 握りに増設された二つの魂核装備部の内、元から有った方に橙色に光る魂核を嵌め込む。


「羽織るは不変不滅の皮衣、炎衣えんそ!」


 エクレアから放出した炎が、レンズを包む。

 青い着流しを炎の衣が舐め、腕を覆い、足を覆い胴を覆い、さらに上へ。

 顔も頭も覆った火達磨状態のレンズが、エクレアを一振り。

 顔と頭を覆っていた炎が弾け、揺らめいていた炎が形を持つ。

 大羽織。その頭には、鼠の耳。


「さてと、じゃあ俺も行くわ」

「ああ、さっさと行け」


 地面を蹴り、背の炎衣が生む熱風の勢いに乗る。

 呪壁を越え、西へ進む果鬼達を視界に捉える。

 熱風で方向を持たせ、炎衣を広げ、滑空。


「空から行くのは良いが、こりゃ降りた後が面倒だな......っと!?」


 エクレアの機構部、その一部がいきなり震えだし、外れる。

 慌てて掴み取り、エクレアを背負い直すが、


「ん?筒?こんな部品あったっけ?」


 筒状のそれの外部がいきなり外れる。

 一種フタの様に見えるそれを掴み、裏を見ると、


「......ハッ、ガイス爺、見送りくらいフツーにやってくれよ......」


『これを読んでいる頃、レンズはもう発っているだろうからの。炎衣を使うと腹が減ると言っておったから、握り飯と饅頭を入れておいた。火に強い合鋼で作った入れ物なので、適度に暖まったら外れるよう、細工をしておく。武運を祈る。無事に帰ってこい』


 フタの裏に書かれている文字。筒の中を見ると、湯気を立てる握り飯と饅頭が2つずつ入っていた。


「はぁ、くそ、ガイス爺には敵わん」


 筒とフタを左手で持ち、右手で握り飯を一つ持ってかじる。


「梅。うめー......」


 寒い。


 §

 安土 『城』より数キロ 3:30


 二時間程前に着地し、そのまま他の果鬼達に合わせた速度で走ってきたが、流麗が停止の命令を出す。


「京都支部体の果鬼、『山彦』からの連絡が届きました。京都支部隊は準備完了とのことです」

「道中全く鬼と当たらなかったが、名古屋支部のヤツらが間引いてくれたっぽいな」

「ええ、その心核で果鬼になったのが彼らですから」


 そう言って、流麗は自分に付き従う6人を示す。


「それに、周囲の中級鬼は『城』に引き寄せられているようですから」

「そっか、じゃあ、そろそろ?」

「十分後に同時に侵攻開始だそうです。総員、準備を!」


 エクレアを背中から外し、火鼠の魂核を外して、碧の魂核を嵌め込む。

 炎が消え、周囲から光が失われるが、直ぐ様麗が取り出した提灯に火を入れて明かりを確保する。


「それは?」

「【一反木綿】の魂核。討滅より無力化が主体なら、雷や氷より断然(こっち)だ」

「なるほど......」


 エクレアを一振り、唱える。


「吹かせろ、千風」


 機構の唸りに合わせて、風が吹き出す。

 着流しの裾を揺らし、髪を揺らし、だが、それだけ。


「結構地味なんですね?先程と比べると」

「まあ、確かに炎衣や纏氷、鳴雷よりは地味だな。でも使いやすいんだよ」

「そうですか......まあ、私からどうこう言える訳でもありませんしね」


 では、と離れていく流麗に手を振り、最後に残った饅頭を懐から出してかじった。


 §

 3:40


「『山彦』から連絡が来ました。作成を開始します」


 先に麾下献軍を発動した流麗が、双扇で西を示す。


「目標、『城』。作戦開始!!」

「「「応ッ!!」」」


 走り出す。

 森を抜け、視界が開けると一一


「な、こ、これは......」

「鬼が、あんなに......」


 歪な『城』を囲むように、数多の鬼が蠢いている。

 俺達とは逆側で土煙が上がり、『城』に向かって一直線に進んでいく一団が目に入る。


「俺が殿を務めよう」

「了解しました。京都支部隊を確認!総員、足を止めるな!進め!!」

「「「オオオォォ!!」」」


 鬼の群れに飛び込み、十一人が一個の塊となって道中の鬼を無力化していく。

 脚を砕き、頭を砕き、トドメを刺さず、ただ無力化していく。

 当然だ、次から次へと攻め込んでくる鬼の全てを殺せる力など無い。

 その姿を視界に収め、俺はエクレアを振るう。


 千風は動作の補助と追撃に特化している。

 振るった刃から風の斬撃が飛び、果鬼達が撃ち漏らした鬼の脚などを斬り裂いていく。

 一度振り斬ると、元の構えへと戻るのには時間を有するが、千風がそこを補助する。

 肘、肩、腰、膝に生まれた風の流れが、身体に負担をかけず、されど人体には不可能な速度で二度、三度と斬撃を繰り出させる。


 右の撃ち漏らし、左下からの逆袈裟。

 後ろ、両足を浮かせ、流れで回して斬り下ろす。

 左、右手に持ち替え、身体を回すと共に、斬り上げ。


 ぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる。

 その姿は、独楽の様に見える。


「壁が近い......!もう少しです!」


 間もなく『城』の壁に着き、次いで鬼同士の争いを引き連れた一団も合流する。


「流麗さん!壁の破壊を始めてください!!」

「はいっ!」


 白髪銀眼、およそこの地の人とは思えない整った顔立ちの男。狐耳と九本の尾を揺らし、周囲に青白い火の玉を浮かべた男は、俺を見ると目を見開く。


「桃哉蓮瑞!?何故君がここに!?」

「御厨支部長、久しぶりだな!なに、ちょっとした手伝いだ、気にすんな!」


 視線を外し、頭部の周囲に火の玉が浮かんでいない鬼を狙って斬撃を飛ばす。

 壁を背にした半円の内、左半分を俺が、右半分を御厨が担当して鬼を押しとどめる。


「流麗さん!まだですか!?」

「やってます!ですが、硬い!!」


 ガンガン、と壁を叩く音は聞こえるが、一向に壊れる気配がない。

 クソ、このままだとジリ貧だ。


「流麗、それに他の中級果鬼達!代われ!俺がやる!!」


 言って、碧の魂核を火鼠の魂核へと変える。


「代わります!」

「「「同じく!!」」」


 攻撃を止めたことで、倒れた鬼を踏んで乗り越えてきた鬼が半円を狭める。

 そこへ流麗含む果鬼達が流れ込み、再び広げ始めた。

 壁へ駆け、炎衣の形状を変化させる。


「まずは加熱だ......!」


 壁に沿って炎を伸ばし、火力を高める。

 ただ熱く、熱して、熱する。


 程なく、壁が真っ赤に輝き、熱を発する様になる。

 火鼠の魂核を外し、雪女の魂核を嵌め込む。


「纏え、纏氷ッ!」


 極寒の衝撃を、壁に一度に加える。

 熱して、急速冷却。さあ、割れろ!!


 はたして、ビシリと嫌な音を上げた壁。

 その亀裂に斬撃を加え、


「オ、ルァッ!!」


 砕く。

 熱した部分より幾分か狭いが、確かに内部へと繋がる穴が開く。


「流麗、御厨支部長、開いた!!行け!!」


 青から碧へ、換装。


「吹かせろ、千風!」


 再び最前列へ躍り出、他が全員内部に入るのを待つ。


「全員入りました、貴方も早く!!」


 背後からの流麗の声に従い、特大の風刃を撃って、走る。

 滑り込み、魂核を青へと変えて、


「纏え、纏氷!」


 エクレアを床へ突き立てる。

 途端、握りから氷が噴出しーー


「氷の、壁......?」

「気休めだ、御厨支部長、外は任せて大丈夫か!?」

「ああ、感謝する!」


 御厨が【狐火】の制御にかかりっきりになったのを尻目に、前を見る。


「おかしいな、鬼が、いない?」

「いえ、鬼力の反応はあります、ですが......」


 そう、見えない(・・・・)のだ。


「どこだ、どこにいる......?ッ!?」


 衝撃!?エクレアで防御するが、覆っていた纏氷の氷が砕け、壁に叩き付けられる。


「ガッ......ハッ!?」

「蓮瑞さん!?」


 クソ、見えなかった、いや、違う!!

 あれは、あの空気の揺らめきは......!


「な、がれ......!しんき、ろう、だ!ゆらめきを、追え!」


 衝撃の瞬間に右の空気が揺らめくのが見えた。

 かつてガイス爺に教えて貰った蜃気楼に、よく似ている。

 息を整え、指示を出す。


「六角衆が蜃を討滅した時と同じやり方で行け!攻撃の瞬間は蜃気楼が崩れる!囲んで殴れ!」


 直後、中級果鬼の一人の近くに揺らめきが生まれる。

 慌てて防御しようとしたそいつの首が、飛ぶ。

 揺らめきが消える前に周囲の中級果鬼が鬼穿刃を振り下ろすが、当たらない。


「被害は!?」

「首は飛んでいますが、心臓は無事です!数分もすれば復帰します!」

「分かった!揺らめきが見えたら、防御せずに後ろに飛べ!」


 再び、揺らめき、首が飛ぶ。

 クソ、ダメだ、このままじゃ。

 壁から離れ、痛む身体に鞭打って、魂核換装。


「羽織るは不変不滅の皮衣、炎衣」


 そして、もう一つの装備部に牛鬼の魂核を嵌め込む。


「欲望を解き放て、牛式ぎっしき欲装よくそう


 炎衣の上に形作られる、部分ごとの甲冑。

 左腕から肩にかけて、六本の脚が絡まった様相の腕甲。

 左肩には瞳からチロチロと火が覗く、般若に牛の角が生えた巨大な仮面。

 両足も黒い甲冑が覆い、頭部には牛の角の額当て。


「行くか」


 炎衣の不変の能力で、身体の傷が癒える。

 と、再びの揺らめき、狙われた男は、間に合わない。


「ハァッ!!」


 踏み込むと、脚の甲冑が軋み、バネの如く力を溜め。

 瞬発力が弾ける。


「オォア.......!」

「Kyouuuuuu!!!?」


 炎衣をエクレアに纏わせ、飛び込み中に横に一回転し、勢いを付けた横薙ぎ。

 蜃気楼を斬り払い、奥の鬼へ刃を突き立てる。


 入った......!


「蛇......いや、待て待て、その姿は.......!」

「蜃!?そんな、もう討滅されているはず......!」


 白い鱗に長い爪を持った腕を持つ巨体。

 吐く息は霧へと転じ、肉体からは熱による陽炎を挙げるその姿。

 蜃気楼の語源たる、鬼。【蜃】。


「一度討滅されたからといって、同じ鬼が出てこないなんて理由はないだろ。それに、俺が斬ったとこ、見ろよ」

「そんな、傷が......無い......?」


 鱗に傷こそあれど、内側の肉に届いていない。

 蜃の属性は、確か火。同属性だと威力が落ちるとはいえ、ここまで硬いとは.......


「蓮瑞さん、その姿は?」

「牛鬼の魂核の能力、膂力と速度を上昇させる甲冑......っと、来るぞ!」


 突進、左の爪からの斬撃。

 避けようとしてーー


「はっや!?グゥッ!?」

「蓮瑞さん!?」


 早すぎんだろ、クソがっ!?

 見えねえ、いや、何かズレが......


「大丈夫ですか!?」

「右の爪に気を付けろ!左の胴を狙って攻撃を!」


 左の爪を受け止めながら、頼む。

 両腕が軋み、エクレアが唸る。


「ダメです!鱗が、硬いッ!」

「攻撃が通りません!!」


 どうなっている、上級鬼の防御力じゃないぞ!?

 クソッ......!


「全員離れろ!オオァア!!」


 一歩無理矢理踏み込み、爪を弾く。

 火鼠の魂核を外し、黄の魂核、雷獣の魂核を嵌め込む。


「鳴らせ、鳴雷」

「kyururuuru......!」

「おう、来いよ、打ち合いだ」


 受けたら止まる、なら、流す。

 刃を覆う鳴雷は、触れた鬼に蓄積・・する。

 左の振り下ろし、刃を右へ傾け、流す。

 右の横薙ぎ、前へ踏み込み、蜃の身体を軸に左回転。

 飛んだ先に尻尾の追撃、受けるか、無理、爪じゃあるまいし、抜かれる。

 なら、


「こっち!」

「すまん!」


 天狗の風が俺の身体を左へ押す。

 逆らわず、飛んで、正面へ。

 どうした、爪の戻しが効かないか?


「腕、貰ったッ!」

「kyurororo!?」


 流されたまま、引きが間に合っていない左腕を、斬る。

 やはり通らない、が。


「内部からなら、どうだ!?」

「kiiiiii!!」


 一回分の雷撃が、蜃の左腕を内側から焼き焦がす。

 プスプスと黒煙を上げる左腕を庇うように、尻尾で周囲を薙ぎ払う。

 後退し、確認。


「被害は!?」

「何人か先の尻尾を食らって壁に衝突しました!戦線への復帰は難しいかと!」

「左腕は、多分だが強度が下がっている!俺が右を引きつける、流麗達は左を!」


 頷きあって右へと駆ける。

 そうだ、こっちだ、こっちを見ろ。


 再びの左の振り下ろし。同じように刃を右へ傾けーー違う!

 左腕の甲冑で、頭を守りーー衝撃。


「ぐお!?」

「蓮瑞さん!」

「おかしいぞ、左じゃなくて右から来た!何かズレてる!!」


 なんだ、どこだ、変化を探せ、どこだ、なんだ。

 揺らめき、体表、暑い、汗、どうして!?ああ、ああ!


「体表から陽炎が昇っている!目で見ているものに幻惑がかかってる!!目で追うな!風斬り音で判断しろ!」


 なあ、その左腕、なんで親指が内側(・・・・・)に来てんだよ。おかしいだろ。


「狙うのは、右腕、か」

「kyurururuaaaa!!!」


 二度も同じ手を食うか!

 振り下ろされる左腕を避けず(・・・)横で鳴る風斬り音に合わせて、屈む。

 頭の上を何かが通り過ぎる瞬間に、エクレアを突き上げる。


「gyoooooo!?」

「ようやく一撃、モロに入ったな?」


 傷口から雷を流し込んだからか、動きが精彩を欠く。

 どうした、まだやれるだろ?


 踏み込み、正面から来る左腕の突きを、そのまま受け、すり抜けながら、飛ぶ。

 足元を透明な大質量が通り、血の飛沫を巻き散らせるが、無視。

 そうだ、やっぱりこいつーー


「痺れろ、クソヘビ!!」

「gyooooo!!!」


 脳天を斬り、弾かれるが、直撃の瞬間に鳴雷を一気に解き放つ。

 過剰駆動により魂核が排出されるが、その甲斐あって、


「Gyo、Gyoooo.......」


 白目を剥き、身体中からパチパチと電気を迸らせて倒れる、蜃。

 蜃気楼が晴れると、その真の姿が顕になる。


「なるほど、巨大な右腕から左腕が生えていたんですね」

「ああ、全く、気持ち悪い姿だぜ」


 肥大化した右腕の肘の内側から、左腕が生えている異様な姿。

 恐らく、蜃気楼を自分の意思では消すことが出来ないのだろう。だから、左腕を焼かれて攻撃に使用できなくなっても、動きに合わせて仮初の左腕が攻撃を行った、だからすり抜けたのだ。


「しかし、なんつー硬さだ、コイツの鱗。攻撃は重いし、上級鬼なんて優に超えてるぞ」

「それに、まだ息があります。急いでトドメを刺しましょう」


 ああ、と言って、鳴雷を発動し、腕の付け根、心核があるだろう場所を焼く。

 鱗が弾け、顕になった心核を剥ぎ取ると、断末魔の叫びを上げて蜃の身体が崩れていく。


「とりあえず、この場所の鬼はコイツだけみたいだな」

「の、様ですね。上に進みましょう」


 流麗は振り返り、


「負傷者は御厨さんの近くに集め、動ける者は御厨さんの警護を!当初の作戦とは違いますが、私と蓮瑞さんで上に行きます」

「了解!!ご武運を!」


 流麗が起こす風に乗り、天井部にある大きな穴を昇っていった。

感想、評価、誤字報告などいただけると、大変有り難いです。

低評価で構いません!『見ていただけている』、ということがモチベーションに繋がりますので。

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