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その頃

維心は、戦いながらもおかしいと感じていた。

ドラゴン達は、こちらがいくら攻撃しても避けるだけ、攻撃といっても相手を倒すためではなく、自分がこちらの攻撃から逃れるための動きでしかないように見えるのだ。

とても、上陸して攻め込もうとしている動きではない。

しかも、逃げることに特化した必死の動きなので、向かって来るわけでもなく、こちらの気弾もなかなか当たる様子も無かった。維心は元より、追い払うことを考えていたので、相手が下がりさえしたらそれを深追いすることも無く、撤退させるためには維心が後ろで睨んで、軍神達が前へ出て攻撃しているだけで事足りる様子だった。

《…おかしくはないか。》

同じように、隣りで浮く匡儀に、維心は言う。匡儀は、首をこちらへ向けた。

《何がぞ。》

維心は、軍神達が追い散らそうとぐいぐい後ろへと押して行く様を睨みながら、言った。

《あれらは攻め込もうとしておらぬように見える。あのような様で、あの数でどうやって上陸するのだ。肩透かしも甚だしいわ。我が来るほどでも、まして主にまで来てもらうほどでもなかったように思う。》

匡儀は、言われてそちらを見た。確かに、数が少ない。

《言われてみれば…最初北へ侵攻して参ったのは五万ほどだったように思うが。此度もそうかと急いで参ったのに。いったいあちらは何のつもりで此度こちらへ来たのかの。》

そういう匡儀は、維心とそう変わらぬ大きさの白龍だった。維心は、同じ龍の王同士でこうして並ぶ日が来るとは思った事も無かったのだが、確かに匡儀は維心よりは少し、劣るものの、大きな気を持っていた。

《…もう、これ以上はあちらも持ちこたえぬな。》

見ていると、義心がさっさと逃げ惑うドラゴン達を、それでも一体、また一体と倒しているのが見えた。ドラゴンの動きに慣れてコツを掴んだのだろう。

それを気取ったドラゴン側が、一斉に更に南東へと、進路を変えて撤退し始めたのだ。

《王!》

義心が、指示を得ようと振り返る。維心は、首を振った。

《良い。ヴィランが居らぬ。居ったら我が討つところであったが、何やら王クラスの軍神が居らぬようではないか。しばらくこちらで見張りをする軍神を残せ。明維に申して晃維に北東、亮維に南東を見回らせて己はここを。一万ずつ軍神を連れてしばし警戒せよと申せ。主は我と共に宮へ。》

義心は、龍身の首を振って頭を下げた。

《は!》

そうして、体をうねらせて次々に指示を出しているのが分かった。

《ならば我も堅貴を連れて戻るか。此度様子見で一万ほどしか連れて来なんだのだが、良かったの。》と、念の力を上げた。《堅貴!皆を集めよ!》

維心は、海面へと向かいながらまだ考え込んでいた。匡儀が、横に並んで追いついて来て、共に海面へと顔を出すと、そんな維心を気遣うように言った。

《どうしたのだ、維心。これからのことが気になるのなら、主の宮へ寄って話に付き合っても良いが。》

維心は、海上へと飛び上がりながら、スルスルと人型へと戻り、首を振った。

「これ以上主とてあちらを放って置くのもであろう。己の土地から遠く離れさせたままでは我も気になるわ。何やら納得できぬだけぞ…此度の侵攻、いったいヴィランは何のつもりであったのか。ただの嫌がらせとも思えぬ。」

匡儀は、同じように人型へと戻りながら、首を傾げた。

「そうは言うてものう…我とてあやつらがどんな種族なのか、これまで全く交流してこなんだせいで分からぬのよ。普通に考えたら、確かに主が言うようにおかしい。北の件といい此度の件といい、誠に侵略するつもりであるならおかしなことよな。もっと全力で掛かって来ねば、無理な相手だと分かっておるであろうに。」

後ろから、人型に戻りながら堅貴も続いて水から上がって来て、義心もそれに続いている。

維心は、隣りに並んで匡儀と飛び始めながら、頷いた。

「そうなのだ。これに何の意味がある。それが気になるのだ。」と、チラと海の方を振り返る。「…向こうはただ、ここへ来て我らから逃げ回っておるだけであった。そして、ものの数時間でサッサと撤退して参った。しかも、本土を攻めようというのに王のヴィランの姿すらない。あれは何をしておるのだ。」

すると、空から十六夜の声がした。

《維心、ドラゴン城に兵が五千ほどしか居ねぇ。ここへ来てたのは、一万と言ったな?他はどこだ?》

維心は、いきなりに割り込まれて本来なら文句を言うのだが、そんな事すら忘れて空を見上げた。

「なんだって?兵が居ない?あちらは五万は居たのではないのか。誠に居らぬのか?」

十六夜は、少し黙った。自分でも信じられないのか、確認しているようだった。

《…いや、やっぱり居ねぇな。海の中へ入ったドラゴンにばっかり気を取られてて他のドラゴンを見てなかったのがまずかったか。あいつら…》と、広く見回した。《なんだって、ちょっと待て!》

匡儀が、隣りで顔をしかめた。維心は、イライラしながら十六夜に怒鳴るように言った。

「なんだ?!どこに居った、早う言え!」

十六夜は、こちらもいつもなら絶対に文句を言うのだが、それどころではないようで叫んだ。

《あ!やべぇ!匡儀、お前早く帰れ!》

匡儀は、目を丸くした。

「何ぞ、帰れと?」

維心は、せっつくように言った。

「なんだ、北から南へ降りておるのか?!」

十六夜は、首を振ったようだった。

《違う!あいつら匡儀の宮の近くまで迫ってるぞ!どうなってる、ほんの数時間だぞ?!》

匡儀は、今人型に戻ったばかりだったのに、急いで龍身へと変化した。

《帰るぞ!堅貴!全軍急いで戻る!!》と、空を見た。《我の結界が…今攻撃を受けておる!》

「なんだって?!」

維心が言うのに振り向きもせず、匡儀はその場から消えるように飛び去った。堅貴も、他の白龍達も、次々に匡儀に倣ってそれを追って行くのが見える。

維心は、十六夜を見上げた。

「どういうことなのだ!匡儀の領地は中央で、そこへたどり着くまで他の傘下の王達の領地を通るのではないのか!あれらがそんなにあっさり退けられたと主は申すのか?!」

十六夜の声は、淡々と答えた。

《…いや…そうじゃねぇ。ドラゴンは、そこまで誰にも邪魔されてねぇんだ。まずい…白龍たちは急襲だったんで逃げ惑ってるぞ。軍神達も必死に応戦しているが、ドラゴン達以外にも…なんだ?神だが本性までは分からねぇやつらがいろいろ混じってて一斉に匡儀の結界を叩いてるから、いくら何でもあいつが戻るまで、持たねぇんじゃ…。》

結界を破られる衝撃は王にとってかなりの負担になる。

維心は、自分の結界を破られたことが無いのでそれを経験していないが、自分が破った結界の数は覚えている。そこの王は、軒並みショックで倒れるか、卒倒して悪くしたら死ぬ。何とか意識を保っても、その消耗は並みでは無かった。

「匡儀を加勢せねば!」

維心が慌てて飛ぼうとすると、義心が叫んだ。

「お待ちくださいませ!」と、維心の前へとその進路を妨害するように出た。「王、恐らくはあちらは四面楚歌の状態。匡儀様は傘下の宮の反乱に合われておるのでございます!ドラゴンは、その弱みに付け込んで攻め入ったのだと!」

維心は、義心を睨みつけた。

「どういうことぞ!」

義心は、頭を下げた。

「は。ご報告出来ておらず、申し訳ございませぬ。我は、あちらで明羽と共に行動し、その僅かな間にあちらの王達への、匡儀様のかなり強権的なご支配を見て参りました。それは、軍神達の意識にも反映されておるようで、明羽のあちらの王の宮への対応ですら、まるで己の部下に対するような様で…これはかなり不満を溜めておるのではと、思うておりました矢先でありました。」

維心は、歯ぎしりした。まだ平定して時が経っていないのだと聞いている。ならばこうなるのも道理で、維心ですらあの頃に外から来られては、他の神達に反旗を翻されて面倒だったはずだ。

「…ならば尚更に加勢せねばならぬ!匡儀がこちらに来てくれておったばかりにこのような…我とて前世炎嘉に急襲された時は宮を一時諦めねばならなんだのに!ましてあちらは回りを他の宮に囲まれておるのだぞ?!海へ逃れることも出来ぬ!」

今にもあちらへと命じる勢いの維心に、義心は慌てて言った。

「王!なりませぬ、まだ一万のドラゴンも退いたばかり、そこらに潜んで機を伺っておるやも知れませぬ!今はこちらに上陸させてはならぬのではありませぬか?」

維心は、言われてグッと口をつぐんだ。身動きが取れない…!

「維心!」炎嘉が、割り込んで来た。「明維に任せよ!上陸されても我らが何とかする!駿と志心が来ているゆえ、上がって来たら徹底的に叩くゆえ!宮は維明と維斗が守ろうが!」

維心は、ギリギリと歯を食いしばって空を見上げた。

「サイラスは?!今はドラゴン城は丸裸であろう!十六夜、サイラスはどうなっておる!」

十六夜は、まだあちらを見ているようで、そわそわしながら答えた。

《ああ、サイラスか。話は通したがあいつがどこまでやってるか分からん。今話して来たばっかだぞ。あっちじゃまだ話なんか出来てねぇだろうし、今行ったら王はお前、皇子はドラゴンに捕らえられてるから必死に抵抗するぞ。むしろ王はもう失ったと思ってるから、城の存続のために皇子だけでもって死ぬ気でかかってくるだろう。いくらお前でも、皆殺しにしてあの城を落とすなんて出来ねぇんじゃねぇのか、心情的に。》

言われて、維心はどうしようもないのを感じた。あちらを全て殺してまであの城を落とすのはあまりにリスクが高過ぎる。土地を守る神が居なくなった後の人世が、どれ程に荒れるのか維心は知っていたのだ。

「ならば我は動けぬ。」維心は、苦しげに言った。「我がここを離れる事は、この土地を危険に晒す。維明や維斗にはまだそこまでの力がない。炎嘉を信じておらぬのではないが、我が守るべきはこの島。ここが戦場になるのは避けねばならぬ。人世のためにもあれらの生活が災害に晒されるのを避けねばならぬのだ。」

神が戦えば地上は乱れる。維心達が戦い続けたあの戦国、人世も戦場になり多くの人が苦しんだ。あの時代を戻すわけには行かないのだ。

「匡儀はどうなるのだ。こちらへ加勢してこうなったのではないのか。」

炎嘉が、もはや落ち着いて言う。維心は、炎嘉を見た。

「匡儀も、あちらの土地を戦場にせぬためにこちらで終わらせようとここへ来た。それを利用されたのだ。我らは同じ。あれも己の土地が侵攻されるのなら宮を離れたりはしなかった。我もここを離れるわけにはいかぬ。」

そう言うと、維心は炎嘉からの答えを待つことなく踵を返して飛び去った。

義心が、黙って炎嘉に頭を下げると、それに従う。

十六夜も、何も言わなかった。

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