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北西の土地で

関留(かんる)は、じっと北の様子を睨んでいた。

北を治めているドラゴンという種族が、力を持っているのは知っていた。しかし、その王が長い間ある一定の場所からこちらへは、侵攻しても来ず交流すらして来ないので、特に意識することもなく、たまにその辺の境に住む神達に、噂話ぐらいは聞いていたが、別々に生きて居る状態だった…つい最近の、代替わりの時までは。

長く君臨していたヴァルラムという名のドラゴンが死んだあと、その子であるヴァシリーが順当に王位について、そしてその後は、当然の事ながら、一族一番の力を持っている、ミハイルというドラゴンが王になるのだと、噂では聞いていた。

しかし、そうはならなかった。

どうやら、そのミハイルは力は強いものの、罪人とヴァシリーの間の子だとかで、臣下達が王にするのに二の足を踏んだのだとか。

そうして、ヴィランという男が王位に就いた。

このヴィランが、大変な策士だった。

臣下達の信頼を得て王座に座ったと見るや否や、全てのドラゴンに有無を言わさず回りの城を力で押え始めた。

質を取って、それで完全に手っ取り早く言うことを聞かせようという性急なものだったが、安穏と太平の世を生きていた者達は、あっさりと屈服した。

まさかこちらにもと思ったが、自分達も生憎力で屈服させられているクチ。

皮肉にも、その主である匡儀の力があまりに強いので、あちらがこちらへと手を出せないだろうことは、関留にも分かっていて、自分を押さえつけている神に頼るとは、と自分を嘲る日々を送っていたのだった。

南東の島へと攻め入っていると聞いた時も、なので関留はこちらは大丈夫だろうと思ってただ、眺めているだけだったのだ。

それが、ある日傍の宮の王、(こう)が訪ねて来て、一変した。

「関留よ…我は、迷うておる。」

関留は、顔をしかめた。

「何をぞ?また妃でも娶ろうてか。もう見た目に惑わされるのではないぞとだけ言うておくわ。」

しかし、功は真面目な顔で、首を振った。

「違う、我らのこれからのことぞ。」

いつもなら、軽口には軽口で答える功が、何やら真剣だ。その必死な様に、関留は何やら寒気を感じて、思わず声を潜めて、言った。

「誠何事ぞ?これからと?」

功は、じっと関留を見た。何やら切羽詰まるような感じに見える。

「知らぬのは主だけぞ。主、前回の会合にも来なんだではないか。匡儀以外の神は、皆知っておる。ドラゴンのことぞ。」

関留は、目を丸くした。ドラゴンだと?

「知らぬとて…ドラゴンが南東の島を侵略しようとしておるのは知っておるわ。匡儀とて見に行っていたと聞いているし、知っておるではないか。何を言うておるのよ。」

功は、何度も激しく首を振った。

「違う!そんなことは皆知っておって当然よ。ではなくて、ヴィランというあちらの王が、どうあっても南東の島を落としたいらしく、こちらから攻め入りたいのよ。だが、こちらの土地には興味はないし、ただ見逃せと。つまりはこちらの土地を通って行くのを、放って置けと申しておるのだ。」

関留は、顔をしかめた。そんなことは…。

「…あやつらは知らぬか。我らにそんなことを許可する権限などないではないか。我らの領地とはいえ、匡儀が全て勝手に治めておるのに。阻めと言われたら、我らが抗えるのか。」

最後には、苦々しい顔をした。全て、匡儀の言うがままなのだ。逆らって宮ごと消されるのは避けたいと、それに甘んじているというのに。あっちもこっちも匡儀の思うままで、外とは交流するなと言われている。匡儀がそれを許すとは思えなかった。

しかし、功は真面目な顔で首を振った。

「ヴィランは、南東の島に攻め入る前に、匡儀を討とうとしておる。」

関留は、眉を跳ね上げた。匡儀を?!

「そんな…そんなことが…」しかし、ドラゴンはかなりの力を持つ。もしかしたら…。「…出来るのか?あやつらに。」

功は、重々しく頷いた。

「出来るやもしれぬ。というのも、匡儀は我らが回りを囲んでおるからこそ中央でふんぞり返っていられるが、我らが手を貸さねば四方を囲まれた、本来不利な立地よ。我らが秘かにあやつらを潜ませて、一斉に掛かればいくら匡儀でも手こずろう。形勢を見て我らが加勢すれば、尚の事落ちぬはずはないと皆、思うておる。それで、どうしたものかと皆、思い悩んでおるのよ。なのに主は、会合に来ぬでドラゴンが渡りを付けてきた王の話も聞いておらぬから…。」

関留は、呆然とした。そんなことが起こっておるなど思いもしなかった。ならば白龍などに、大きな顔をさせぬのに。面倒だとかで会合に行かぬとはなんと愚かであったことか。

「…誠に匡儀は、ドラゴンの動きを知らぬか?こちらを攻めようとしておると。」

功は、首を振った。

「知らぬ。あやつは四方敵だらけであるのだ。報告でもしようものならそやつだって命はあるまいが。そう思うたら誰も口が裂けても言えまい。気取られたらどうなるか分からぬから、皆必死に秘めておる。だが、皆限界なのだ。そうやって怯える事すら、もううんざりだと思うのよ。あやつが知らぬなら、このまま…と思うて主にも話を通そうとここへ来たのだ。」

関留は、本当にそうだろうか、と考え込んだ。外とは交流しないと匡儀自身も南東の島とすら話をしないのだ。だが、何でも驚くほど知っていた。

「…本当に匡儀は知らぬか?そういえば…明羽がここへ、つい昨日目立たぬ甲冑を貸せと参ったが。急いでおるようで、強奪に近い形で古びた下士官の甲冑を、不満げに持って行きおった。北から出て参ったから、北へ探りに行ったのでは。」

功は、渋い顔をした。

「匡儀は、南東の島に手を貸す事にしたとか申しておった。島が落ちたら今度はこちらに来られるのが、面倒だと思ってあちらで食い止めようと思うておるようよ。軍神が一万ほど島へ向かっておるそうな。今、あの宮には軍神が四万。ドラゴンが来たら匡儀もあちらに向かうだろうし、あの宮の守りは薄くなる。なのでドラゴンに、その情報をとりあえず送った。今、ドラゴン兵が主の領地の近くにもうろうろしておろう?それも我らから接触しやすいようにしておるのだ。」

関留は、目を開かれる思いだった。何を警戒しているのだろうと、こんな僻地にまで兵を送っているドラゴンを、怪訝に思っていたのだ。

情報を待っていたのか。

だとしたら、合点がいく。

「…ならば迷うことはあるまい。」関留は、腹をくくって功を見た。「匡儀のやりようは皆腹に据えかねておった。あれさえ討ってしもうたら、我らは元通り己の好きなように土地を治められるのだ。木々の世話がどうの、そんなことまで細かく指示される事はなくなる。ドラゴンに、力を貸そう。しかし…明羽はどうなっておる。そういえばあやつ、まだ戻っておらぬはず。あれの甲冑、まだこちらに放って置かれたままぞ。王からもらった物を放置などあやつには出来まいし、まだ何か探っておるのでは。」

功は、肩をすくめた。

「ドラゴン兵はあちこちで警戒しておるようだし、いくら明羽でも単身で戻るのは難しいだろう。仮に戻っても、こちらで主が始末してしまえば良いのだ。油断しておろうし、甲冑を取りに戻ったところをな。さすれば何を掴んでおっても、匡儀の耳には入らぬ。どこで死んだのかも、分かるまい。」

関留は、功と目を合わせて、頷いた。匡儀の独善的な支配から逃れる、これが千載一遇の機会なのだ。

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