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維心が応接間に戻ると、炎嘉がムスッと振り返った。

「…この非常時に。一時間おきに居間へ帰るのを何とか出来ぬのか。維月は何もないわ。あっても碧黎も十六夜も居るのに大事にはならぬと言うに。」

維心は、炎嘉を軽く睨んで椅子へと座りながら、言った。

「別に維月を案じて戻っておるのではないわ。いろいろ考えがあるのよ。それに、ちょうど十六夜があちらのレイティアの孫のアディアの城に移動しておる、義心と話しておる時であった。あちらの様子や義心が知り得たことは、なので今、月から知った。」

気だるげにしていた炎嘉が、お、と椅子の背から身を起こした。

「どうであった?」

途中から来ていた、志心もこちらを見ている。焔は来ていなかったが、先ほどまで居た箔炎は宮の様子を見るために一度戻っているようだった。

「最初、リークと対面したようだったが…」維心は、不機嫌な顔をした。「ならぬわ。王として王座に座るに値せぬ神に育っておったの。一時は義心を捕らえようとまでしたらしい。ディークとレイティアに窘められてやめたらしいが、我には逆らわぬが、他の城に働きかけは出来ぬと申しておったらしい。レイティアが焦ったのか、己の城なら手を貸すつもりだと言い、義心を連れ帰ってアマゾネスの城へと招いた。その間に、リークは臣下にその振る舞いから王座を追われ、ディークがまた返り咲いておるようよ。あちらも手を貸すと申して来たが、しかしアディアとレイティアの方が、もう方策を考えておって。」

炎嘉は、何度も頷いた。

「危機に対した時にその王の真価が分かるもの。ディークはうまく育てておらなんだのだな。して?」

維心は、頷く。

「ヴィランが唯一従わせることが出来なんだのが、ヴァンパイアであったそうでな。今もサイラスが存命で王だそうだが、アディアはそのサイラスに渡りを着けようとしておった。今はどこに潜んでおるのか分からぬ…サイラスはヴァルラムが死んでから顔を見ることも無かったが、ヴァシリーのことは時に様子を見ておったようであったし、ミハイルは居場所に心当たりは無いかと思うてな。」

じっと黙って聞いていた、ミハイルは首を傾げる。

「サイラス殿には我もよう可愛がってもらい申したが、最近は会うておらなんだ。潜んでおるとしたら、サイラス殿の城の地下から東西南北に無数に掘られておる地下通路のうちのどこかであろうが、広すぎて我にも居場所まで分からぬのです。」

維心は、確かにあの時、地下通路がどうのという話を聞いたことがある。昔、ベンガルとごたごたした時に、ヴァルラムが維月を連れて逃れたのが、その地下通路であったからだ。

「あれか。全く、どの辺りに居るのかなど分かるはずはないわ。あれはあちこち何百里も伸びていて、どこへ最後は繋がっておるのか知っておるのは王のみと言われておるそうではないか。」

すると、炎嘉がえ、という顔をした。

「サイラス?あれはつい最近まで我の所へ来ておったがの。」

維心も志心も、ミハイルもえ、という顔で炎嘉を見た。最近は籠っていて顔を見ていないと皆言っているのに?

「なんと申した?主、最近とはいつのことぞ。」

炎嘉は、訳が分からぬという顔をしながら答えた。

「数か月かの。」他の三人は、更に驚いた顔をする。炎嘉は続けた。「だからなぜに主らは会うておらぬのよ。あやつはほいほい我が宮へと訪ねておったわ。いつも夜だがな。こちらは寝たいのに。」

「サイラス殿は日の光が嫌いなので昔からそうよ。」

ミハイルが律儀に答える。それに構わず、志心が言った。

「ちょっと待て、主、それでサイラスとは何を話しておったのだ?此度のことを匂わせるようなことは言うておらなんだのか。」

炎嘉は、皆が皆驚いているのに逆に驚きながら、答えた。

「いや、ドラゴンが面倒になって来たとか何とか。ヴァルラムの筋でなければ我は交流するつもりも無いのだとは申しておったが、こちらへ侵攻とかそんなことは全く言うておらなんだの。サイラスも、知らなんだのではないか。あれはヴィランと組んでおらぬだろう?」

維心は、頷いて、少し憤りながら憮然と言った。

「なぜにそんな重要なことを言わずでおったのだ。サイラスがあちらの神なのだから、先にそっちへ申しておったら良いではないか。リークなど…無駄でしかないわ。」

炎嘉は、むっつりと維心を見た。

「だからあれがどこに居るのか分からぬと主が今申したのではないのか。どうせ城には居らぬと思うておったし、主が何とかするようであったし我が何某か言えぬではないか。我だって確信の無いことは言えぬわ。」

維心は、炎嘉を睨むように見た。

「何でも我に何とかせよと申すでないわ。して?ならばサイラスは一方的で主には居場所は分からぬのか。」

炎嘉は、首を傾げた。

「あの折は城に居るようであったが、昼間ゆっくり眠れぬ臣下が多いゆえ地下南東の屋敷へ移しておるとか言うておったの。我はそれがどの辺りの地下なのか知らぬがな。」

ミハイルが、それには何度も頷いた。

「ああ、地下で一番広い場所ぞ!一度祖父と行った事がある。外が騒がしい時は臣下を移すのだと言うて。何しろ昼間に眠るので、外で諍いがあるとサイラス殿が起きて見張るので面倒なのだとか。」

維心が、身を乗り出した。

「ヴィランが行った時は城がもぬけの殻だったとはそういう事か。サイラスはドラゴンが動き出した時、そこへ移しておったのだ。ヴィランはそこを知らぬか?」

ミハイルは頷いた。

「知りませぬ。知っていたのは祖父と父と我だけだった。サイラス殿は、他の神はあまり信じておらぬかたなので。炎嘉殿にその存在を話したということは、信頼しておるということではないかと。」

炎嘉は、言われて顔をしかめた。

「そんなこと尾首にも出さぬから、大層なことだとは思わず聞いておったわ。」

ミハイルは、急くように維心を見た。

「ならば我が。地下を通っておりましたが大体の場所は分かり申す。行ってサイラス殿にこちらの考えをお話して参ります。」

しかし、維心は少し考えて、首を振った。

「…いや、主はならぬわ。」ミハイルが抗議しようとしたが、維心はそれを手で制した。「ドラゴンがサイラスと誰かが接するのを警戒しておってあの辺りはドラゴンの見回り兵が多いのだと聞く。主が行けば格好の獲物よ。場所を示してくれれば、こちらでどうにかする。そうよ…十六夜。あやつなら月に帰れるし場所さえ分かれば何とかしよる。十六夜に頼む。」

炎嘉と志心は、顔を見合わせる。そして、志心が心配そうに言った。

「その…十六夜に頼むのなら、言い方を間違えるでないぞ?あれは気難しいゆえ、主に良いように使われるとへそを曲げでもしたら大変よ。すまぬが、これこれこうして欲しい、と低姿勢で申すのだぞ。今は月と諍いを起こしておる場合ではないしの。」

維心は、少しムッとしたような顔をした。

「分かっておるわ。今あれが口を利かぬようになったら大変であるし。我も弁えておる。」

しかし、炎嘉が顔をしかめて案じている口調で言った。

「弁えておっても主はよう未だに十六夜を怒らせておるではないか。今だってもしかして、あちらを見張っておれとか申しておるのではないのか。言わずでもあれのことだから見ておって知らせてくれようし、あまり命じるような風ではならぬぞ、維心。」

どうやら図星だったらしい。維心は、嫌な顔をした。言われてみたら、ここへ来る前に、あちらをよう見ておけだの、義心を連れ帰られるならどうして送る時は出来なんだだの言ったので、十六夜が少し、気を悪くしたようだったからだ。その上、ミハイルのことで情報が入ったらアディアに知らせろとまで言った。

もしかしたら、今頃少しばかりへそを曲げているかもしれない。

それでも、十六夜に頼むのが手っ取り早いので、維心は仕方なく、また立ち上がった。

「…とにかく、十六夜に話して参るわ。主らも、もし一度宮の様子を見に戻るのなら、戻っても良いぞ。何かあったら知らせるし、まだ南東の海岸線の方は全く動きが無いようであるから。もうすぐ日が落ちて来ようし、仕切り直して参るが良い。」

炎嘉は、うーんと大きく伸びをしたかと思うと、頷いた。

「そうであるな。炎耀と炎月に任せて参ったがあちらも戦など経験も無いし、気を揉んでおろう。我は一度帰るわ。志心はどうする?」

志心も、立ち上がった。

「では我も。志夕に任せておるが、あれも戦など知らぬからの。では、連絡を待っておる。」

そう言うと、二人共に立ち上がった。

維心はそれを見てから、奥の居間へとまた、足を向けたのだった。

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