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潜入

義心は、明羽と共に潜みながら地上に臥せるような形で飛んで、リークの城へと向かっていた。

あの後、明羽はすぐに戻って来て、その身には所々濃い茶色に変色した甲冑を身に着けて、不機嫌にしていた。

どうやら、ここの甲冑は空色だったらしく、それでは目立つと文句を言うと、相手は困って、下士官が使っていた古びた甲冑しかないと、それを出して来たらしい。

代々軍神家系で高位だった明羽にとって、そんなものを身に着けるなど屈辱でしかなかったらしいが、しかし義心が言う、潜むのには恰好の良品だったこともあり、仕方なく自分の白龍の甲冑を脱ぎ、それを身に着けて来たらしい。

義心なら、迷うことも無くさっさとそれを借り受けて来たと思うが、明羽は実に安穏と生きて来た軍神のように思えた。

だが、戻って来た時に義心がその甲冑が案外に良いと褒めたら、明羽は途端に機嫌を良くして、昨夜は一晩中休憩せずに飛んでいても文句を言われることは無かった。

まだ明羽という軍神がどこまで出来て、どこまでなら許容範囲なのかも、義心には分からなかったのだが、案外にほいほいと問題なくついて来るので、体力はあるようだった。

義心は、傍に湖がある森の中で、足を止めた。

「この森を抜けたら、リーク様の領地の結界がある。」義心は、明羽に言った。「少し、水を飲んでおくか。主は疲れぬか?」

明羽は、平気そうな顔で、首を振った。

「これぐらいなら大丈夫ぞ。だが、水分は補給しておこう。」

義心は頷いて、持って来た竹筒の水を飲んだ。明羽は、水筒も持って来ていなかったようで、湖の方へと足を進めた。

「主は準備万端であるな。突然に出て来たゆえ、そこまで考えておらなんだ。」

筆頭軍神なのだから、細かい所にまで目を届かさねばならないのに。

義心はそう思ったが、確かに突然に行けと言われたのだ。

そう思いながらそんな明羽の背を目で追っていると、フッと上空を、何かの影が過ぎったのを感じた。

「!!」

義心は、思わずそこへ伏せた。見ると、明羽も気取ったようで、湖の脇に繁る低木の間へとスッと屈み込んだのが見える。

本来、軍神は気を探って偵察するので、気を遮断する膜を被っている今、まさかこんな所に誰か神が居るなどとは思ってはいないだろうが、しかし何か動く物が視線の端に映ったのならこの限りではない。

義心は、ここで止まって良かったと思った。知らずにリークの結界を目指していたなら、二人分の移動に伴う空気の動きで気取られていた可能性がある。

義心は、森の中に居て高い木々に完全に隠されていたと自負しているが、明羽は湖に向けて、普通に歩いていた。

今は潜んだとはいえ、その動きを見られていないとは言えない。

思った通り、何かの気配が一つだったのが、何やら数人の気配となってすぐ近くの上空で、下を窺っているような感じだった。

軍神達の甲冑の足が、ちらほらと見え隠れする。恐らくは、何が動いたのかと確認しているのだ。

このままでは、降りてきて辺りに気を放ち、何が居るのか居ないのか、確認しようとするはず。

義心は、じっと伏せたまま、ほんの数メートル先に居る明羽に目配せをした。明羽は、僅かな距離でありながら、自分が義心より危ない位置に居るのは分かっていた。

《…行け、義心。》

明羽が、念で言った。

義心は、険しい顔をしながらも、じっと明羽を見つめて念を送り返した。

《気を放つやもしれぬのだぞ。確かに気は遮断されておるが…主とて龍であるのに、危ないのは同じだ。捕まっても助けには行けぬ。だとしたら、共に逃げるしかないであろうが。》

しかし、明羽は小さく首を振った。

《我は軍神ぞ。己で逃げ切れる。主はあちらの神の運命を握っておる書状を持っておるのだろうが。行け。我が引き付けるゆえ。》

義心が首を振ろうとした時、神なのだから音もさせずに飛べるはずの明羽が、ガサガサという音を立てながら、低木の間をあちら側へと移動して飛び抜けて行く。

自分を追わせて引き離そうとしているのは明白だった。

《明羽!》

義心は、念を飛ばしたが、それが明羽に届いたかどうか分からない。

「今、何か動いたぞ!」

森の上で、数人の声が入り乱れて聞こえて来た。

義心が起き上がるに起き上がれなくて、その様子をじっと見ていると、甲冑の音を響かせながら、気配は明羽が隠れて木々を揺らして進んで行く、その方向へと消えて行った。

…逃げ切れ、明羽。

義心は、そう心の中で思うと、他の軍神が居た場合のことを考えて、森の中の木々の足元に繁る、シダ植物の中を這うようにして、間近に迫ったリークの領地の結界へと飛び抜けて行った。

…それにしても、おかしい。

義心は、飛びながら考えていた。

この辺りは、リークの城が遠く霞んで見えて来るほどに近く、誰の結界の中でもない。

居るとしたら結界境を見回るリークの軍神ぐらいのはずだ。

しかし、気を遮断する膜の中に居るので感じ取れなかったが、あれはリークの軍神ではなかった。リークの城の甲冑は黒だが、あのちらと見えた甲冑の足は、ドラゴンの深い赤だった。

…ドラゴンは、匡儀様を警戒しているのか。

義心は、考え込んだ。戦力から考えても、匡儀に今、こちらから攻め入られたら確かに厄介だろうが、しかし、維心は匡儀と交流しては来なかった。そもそも匡儀は、どことも交流などしていなかったからだ。

今回も、普通に考えたら放置すると考えるものだろう。

確かに実際は、危機感を覚えた匡儀が維心に手を貸すと言ってきて、共に戦うことにはなったが、まだあちらにそれが伝わっているとは思えなかった。

…それとも、伝わっているのか。

義心は、眉を寄せた。だとしたら、想像以上にあちらはこちらの状況を知っているということになる。

海から来るだろうと思ってあちらを警戒しているが、もしかしたらそれを知っていて、あちらも身動き出来ないのかもしれない。

そんなことを考えている間に、ふと目の前に、知った色の結界が現れた。

…着いたか。

明羽は、どうなっただろう。

義心は、思いながらも伏せていた体を起こして立ち上がると、自分を包む気を遮断する膜を、サッと手を振って破った。

そして、その結界に触れると、言った。

「…我は、龍王維心様の軍神筆頭、義心。我が王の命によりリーク様にお目通りしたく参りました。こちらを通して頂きたい。」

結界は、少し躊躇ったように波打ってから、義心をその中へと通した。


「そろそろ、義心が順当に行けばリークのもとにたどり着いたはずぞ。」維心が、龍の宮の奥宮近くの応接間で言った。「あくまで順当に行けばであるが。」

炎嘉が、頷く。

「あれなら期待を裏切らぬからたどり着いておろう。問題は、リークがどういう反応をするかぞ。それが分からぬから、ミハイルではなく義心に行かせたのであろう?」

ミハイルが、険しい顔をして維心を見た。

「妃と子を盾に取られておるのです。我なら脅すツボも弁えておるからなんとでもしますが、義心は…。リークは差し出して、せめて子だけでも取り返そうとするやもしれませぬ。」

維心は、首を振った。

「リークがそう判断したなら義心は己で命を絶ってでもそれを阻止しよう。記憶の玉を取られたら面倒なのを知っておる。ミハイル、主ほど質としての価値などあれにはない。リークとて、それが分からぬほど愚かな王ではない。後は未来を見るだけの余裕があやつにあるかということだけぞ。我の書状を差し出して、情報を与えることを考えるようなら、それまでよ。しかしあれも、未来永劫ドラゴンに押さえ付けられるなど望まぬだろう。」

炎嘉が、ふむ、と顎を撫でた。

「そこまでリークと交流してこなんだゆえ分からぬが、普通なら妃や子より領地の統治を考えるものだが…あれの父のディークが、昔妃と娘を取られて判断を誤ってこちらに間者として来たことがあったしな。ようよう言うて聞かせて、リークが同じことをせねば良いがの。」

維心は、頷きながらも逆にそれで期待していた。ディークは、まだ生きている。レイティアと共に隠居してはいるが、まだ存命なのだ。事の大きさに、リークはディークにも相談して事を進めているはず。だとしたら、こちらについた方がより良い方に転がる事を知っているはずなのだ。

維心は、義心がうまくやることを祈って応接間から見える空を見上げていた。

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