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状況

次の日、維心は龍の宮へと周辺の宮の王達を緊急に招集し、状況を説明した。

最上位、上から二番目からは維心、炎嘉、箔炎、焔、志心、蒼、そして駿、高晶、樹籐、翠明などが一同に顔を揃えていた。

小さな宮の王まで呼んでいる暇はなかったので、呼んだのは上から三番目までの序列の王達だけだったが、三番目までが今まで、こういった会合に呼ばれることが少なかったので、皆が皆表情を硬くした…既に、戦国から離れて千年以上、皆の意識は、戦時下ではどう動けば良いのかというような基本的はものからまで、遠く離れてしまっているのが透けて見えた。

維心は、言った。

「我ら上位の宮が優遇されて参った借りを、今返さねばならぬのだ。呆けておる場合ではない。我ら最上位だけが戦っても、此度の敵相手にこの島全体を守り切るのは難しいやもしれぬ。主らが動かぬとなれば、我らは主らの土地は守らぬぞ。最悪己の領地だけを守り切るだけになるのだ。」

上から三番目の王達の、表情が硬くなった。そこまで切羽詰まった状態なのだと、やっと理解したのだ。

炎嘉が、脇から言った。

「我らとてこのようなことは言いたくはないが、しかしこの土地全体となると皆で総力を結集して掛からねば、上陸されてあちこち隠れられたりしたら、対応しきれぬのよ。主らも、近くの宮々の世話をせねばならぬぞ。今まですべて我らがやっておったし、主らには振り分けた分だけで済んでおったものだが、しばらくは己で率先して指示を出して動かすのだぞ。」

これまで、上から二番目までが何とか回りを己で指示してやっていて、それでもどうにもならぬことは最上位にまで問い合わせが来てまたその中で振り分けてとやって来たが、それでは間に合わないということなのだ。

上から三番目までが率先してやるよりないのだ。

翠明が、険しい顔で言った。

「我が西の島は、南の海にも面しておるし、上陸すると申すなら格好の場。守っておるのは甲斐…ここは今や公明が面倒を見ておるが、ほとんどが我が領地ぞ。明維殿が参って見回ってくださっておるので、今のところ安心しておるのだが、九州はどうか?あちらは確か蛇が守っておったよな。この事態を、蛇は知っておるのか。」

それには、炎嘉が答えた。

「知らせをやった。あちらには王が居らぬので、最上位で持ち回って面倒を見ておるのだ。(おも)に龍が見て居る地で、多くはないが龍が駐屯しておる場が元々ある。中心には神威という、かなりの年月生きておる王が治める土地が小さくあるのだが、あれも長い間出て来ておらぬから、顔も見ておらぬな。」

それには、黙って聞いていた蒼が答えた。

「え、オレつい先月会いましたけど。」

維心も炎嘉も、驚いて蒼を見た。

「神威に?!」

蒼は、何をそんなに驚いているんだろうかと少し、背を後ろへと反らしながら頷く。

「他の宮へ行ってないって知らなかったのでオレの方が驚きなんですけど。あの、時々来ますよ。前と同じで、退屈だから何か面白い事は無いかってフラッと来て、ちょっと遊んでまた帰るんです。」

維心は、顔をしかめた。

「会合にも出ずに何をやっておるのだあやつは。神世で誰より長命で、縁を司っておるから誰も文句を言わぬのを良いことに、まったく。」

炎嘉が、なだめるように維心を見て言った。

「まあ良いではないか。あやつは生きておるだけで良いのだから。無事でおるのが分かっただけでも良かったと思おうぞ。」

蒼が、首を傾げた。

「無事と言いますか、元気ですよ。退屈だとか言ってましたけど、今では子も居るし結構育って来ておるのです。(ゆはた)という名の皇子で、もう成人するんじゃないでしょうか。」

「「子が居るのか?!」」

炎嘉も維心も、焔も驚いて身を乗り出す。神威が死ねないのは、一重に縁を司る血筋を残していないからだと思われていて、皇子が居てしかももう成人するならば、生きているのが不思議だったからだ。

蒼は、それこそドン引きしていたが、慌てて答えた。

「ええっと、そうなんです。だからって別に神威は老いも来ていないし、コツコツ皇子にいろいろな教育をしておるのだと言うておりました。月の宮へ来る時は、いつも皇子も連れておって、オレも小さい頃から面識があるんですけど…まさか、他の王がそれを知らないなんて思わなかったものですから。」

維心と、炎嘉は顔を見合わせた。炎嘉が、言った。

「ということは…皇子が、まだ未熟だからかの。確かに縁のことに関しては、ややこしいゆえしっかり引き継ぎをしてからでないと無理よな。では、神威に此度の戦のことを知らせねばならぬな。あやつは何も知らぬでおったのではないか。」

蒼は、それに首を振った。

「いえ、知っております。あちらからオレに問い合わせて来たので、ザッとここのところの事を知らせておきましたから。」

「これからは蒼に頼むか。」炎嘉が、維心を見て言った。「神威は昔から気まぐれで気に入った神としか交流せぬしの。今は他の神に無いほど長生きしてもっとなのかもしれぬ。蒼にはわざわざ会いに来ておるのだから、恐らく蒼だけは良いだろう。」

維心は、真面目な顔で炎嘉に頷いた。

「誠に。では神威も知っておるということで、西の果ては今、明維に任せておるから、何かあったら明維に申せと知らせておいてくれ、蒼。」蒼が頷くのを見て、維心は続けた。「主らも、本日はこれで終いぞ。皆帰って己の宮とその周辺の守りを固めよ。我らが全体を守るために大きな守りを敷くが、細かい所まで見ておれぬので、それは三番目の序列の宮々でしっかり見ておくようにの。援軍が必要ならば、すぐに軍を出せるようにも、準備を怠るでないぞ。」

序列上から三番目の宮々の王達は、慌てて頭を下げた。どこまで実感して分かっているのか分からなかったが、今はどんな小さな力でも集めておかねばならないのだ。

とはいえ、援軍など期待してはいなかった。維心達最上位がどうにもならなくなった時、この意識の低さで援軍を送られても勝てるはずなどなかったからだ。

しかし、小さな綻びが戦の勝ち負けを決めることも、また事実だった。だからこそ、自分達の身ぐらい自分達で守らなければならない事実だけでも、知っておいてもらわねばならないのだ。

バラバラと王達が出て行く中、炎嘉がため息をついて、隣りの維心に言った。

「…思うたより呆けておるの…我らが何とかするゆえ、こちらの地は問題ないとでも思うておったのか。北で戦っておったのは見えておったであろうに。安穏とした気を放ちおってからに…太平が長すぎたということか。」

維心は、黙って頷く。良かれと思って世を平定したことが、もしかしてここを、弱い土地へと変えてしまったのではないか。あの頃は、この島の外の世界など考えたことも無く、接することも無いし永劫に交流などしないのだと思っていたものだった。別次元に他の自分が居るのは知っているが、永劫に交わらないという意識に似ていた。

それが、こうして関わる事になり、こちらから戦意は無くても、あちらからの侵攻を受ける事態へと発展してしまった。

存在も知らずに侵攻されたことを思うといくらかマシなことではあるが、それでも深く知らない種族からの侵攻は前例がないだけに面倒だった。

最上位と上から二番目の者達だけになった時、維心はふと、蒼を見た。

「…そういえば蒼、碧黎はどうしておる?話したか。」

蒼は、聞かれるだろうと思っていたのか、驚いた様子は無かったが、困ったような顔をした。

「その…碧黎様とは話したんですけど、我が手を出す案件ではない、とおっしゃって。」

炎嘉が、割り込んだ。

「確かに手を出す案件ではないやもしれぬが、あの折確かに地から純粋な気が立ち上って維心を狙い撃ちするように補充して助けておったのは我にも見えておったのに。あれもまずいと思うておるのではないのか。」

蒼は、どこまで言ってもいいのかと、模索するように目をテーブルへと向けて、泳がせた。焔が、眉を寄せて蒼を見る。

「何ぞ?知っておることがあるのなら我らに言わぬと、このような状況で隠し事などしておる場合ではないぞ、蒼。碧黎は何を言うておったのだ。」

蒼は、視線を上げてそれこそ縋るように言った。

「オレだって全部言いたいんですけど、碧黎様に言うて良い事と悪いことがあるゆえ、会合に参るならよう弁えて話せと言われてるんです。碧黎様は、どうやらこうなって行くのを数百年前からご存知であって、維心にはこれを覚悟させるために、あちらとの交流を始めるように促したのだとおっしゃっておりました。つまりは、あちらを知っていようと知っていまいと、いつかはこうしてあちらからこちらへ攻めて参ったということなのだろうなと、オレは思いました。」

やはり、と維心は眉を寄せて聞いていた。碧黎は知っていた。いつか、この地の人型が出現する地上の気が発生する中心の島へと、あちこちの神が攻めて来るだろうことを。それに備えさせるために、恐らく碧黎は維心にあちらへ行かせたのだ。そろそろいいだろう、と、あの時碧黎は言った。こちらの地を平定させて落ち着かせたのを見て、維心の能力も考え合わせて、北へと知識を広げておいても良いだろうという事だったのだ。

つまりは、碧黎は恐らくは、最終的に維心にこの、地上全体を見て統治させようと考えていると思われた。

「…ならば必然か。北ぐらいがここへと侵攻して来たぐらいで、うろたえていてはならぬという事よ。あちらが一番近しい島外の地であるし、まだまだ序の口であろうな。これから先、どこから来るか分からぬ中で、その最初が北であったから、碧黎は案じて我を見ておったということなのだろうの。」

蒼が、そう言う維心に黙り込むと、志心が言った。

「それは…これを押さえても、後から後からあちこちの神と、それこそ我らが平定するまでまた、戦いがあるやもしれぬという事か?」

維心は、それに黙ってまま頷く。元々重かった空気が、一気に冷え込むのを感じる中、焔が、険しい顔で維心を見た。

「…また戦国か。」

維心が答える前に、炎嘉が言った。

「何事もこれからぞ。今は北。元々はあちらも維心の尽力で友好的であった。たった一人のドラゴンの王のせいで、今はこんなことになっておるのだ。これを討ち、こちらへ来ておるヴァルラムの孫であるミハイルを王に据え、北をしっかりと抑えた後に、交流の手を広げて参るよりない。まだ知らぬ土地が多すぎる。不幸中の幸いであるのが、これまで交流に消極的だった北西の大陸の王である、匡儀が出て参った。しかも、維心と同族。こちらに手を貸すとも申しておる。そちらとしっかりと手を組むことを考えて、段階を踏んで進めて行くしかない。これからぞ。戦国にはならぬ。ならぬようにヴィランは討つ。必ず。」

焔が、それを聞いて表情を引き締めて頷いた。志心も箔炎も、それを見て覚悟を決めたように頷く。

維心は、炎嘉の横顔を見ながら、思った。これは、こちらの島を平定するために、共に戦っていた時の炎嘉だ。炎嘉は、維心が時に先が見えぬと悲観的に考えようとするのに、こうして先の事より今の事だと士気が落ちるのを防ぎ、引き上げてくれた。

確かに炎嘉の言う通りで、今、実際に攻めて来ている北の者達を何とかするのが先なのだ。

「…炎嘉の言う通りぞ。先を考えるのは後で良い。匡儀のことはまだ詳しく知らぬが、我が血族の祖先に繋がる神。悪い神ではないと信じて、今はとにかく力を合わせてドラゴンを討ち、北を抑える。」

全員が頷く中、維心は気を引き締めた。

義心が、生きて戻ることを維心は、この状況を打破するためにも心から願っていた。

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